第86話「防衛戦~まっしろ~」
まず言える事、飛空艇ノアが壊された。あんなに思い出深く手に入れた品だから、そりゃあもうサキはプッツン。エンペラーは死に戻りしただけだけど、その庇ってくれた優しさは胸にしみた。
あとでミルヴォワールの船内に居るであろう生産職にでも直してもらおう。今後の冒険に支障が出る。
それからのシステム外スキル、いわゆる【違法】。この世界のポリゴン群を歪めたり壊したりくっつけたりできる技法なわけだが。サキは【念波】で30層の魔法障壁の【ポリゴン群を破壊】しようとした。明らかなルール違反、歪めるだけならまだしも破壊ではレッドカードも仕方ないアウトな領域だった。
それらをバイタルは止める。優しい手で。なんかついでに心の負の【別の物も切った気がするがサキには解らない】、もっとふわふわした、鎖のようなものだという事だけは解る。
それらを踏まえて、話を戻す。青年と少女は手を繋いで浮遊していた、サキはジャンプ能力が高いだけであって浮遊効果はない。
「私が本気を出してもいいのだが、それだとすぐに終わってしまうんだよなあ。うーん困った」
「……、え。なに。ここに来て嫌味?」
サキはキョトンとした表情をする、目が点になってしまった。単純に呆けていた。バイタルは語る。
「そうだ、私がバリアを壊す。キミが本体を叩くというはどうだろうか?」
「え……、あいや。多分本体を攻撃出来ても今の私のレベルじゃ倒し切れないわよ?」
「ならば時間いっぱいまで攻撃して、怯ませるのはどうだろうか? あのドラゴンに咆哮を出させなければゾンビ達は空を飛べない」
「……てことは。残り9分、時間稼ぎをしろってこと?」
「上から観てれば解る。この戦は君の戦だ、君が決着をつけるんだ」
「でもあたし飛べないし、足場が……」
と、その時。見ず知らずの蒼い服のショタっ子が来た、そして両手をグーっと上げて叫んだ。
「でばんっッキタァー!」
「あなた言う言葉それだけなの? 蒼葉」
オーバーリミッツと蒼葉という少年だった。ギルド【達観者達】だ。機動戦機ではない、普通の飛空艇で第3階層までやって来た、足場がある、地面がある、畑がある。
「オーバーリミッツさん!?」
「おっす~、この船の操縦席には真帆転戦鳥って人も居るんだけど、まあ重要じゃないから省略」
つまりこういう事だ。
「「足場は作った!」」
「バリアは私が壊す!」
だから3人は声を重ねて言う。
「「「だからお前が暴れろ!」」」
無茶苦茶な理論だった。
「無茶苦茶ね、まぁいいわ解った。舞台を作ってくれるって言うのなら……その中で、精一杯生きてやるァあぁあぁー!」
作戦は決まった、あとは動くだけだった。
「さぁ、最終決戦のつもりで行くわよ!」
その飛空艇の木のリンゴが実りかけていた。
「ねえそれはそうと第1階層までこいつ落とせないの? 戦いづらいんだけど」
「でも第3階層で戦った方がカッコよくない?」
「ふむ、目をつぶって気配だけで戦うのもいいなマッスル」
サキは呆れた、勇猛果敢なバカばっかりだった。




