第85話「防衛戦~フェーズ3~」
豪華客船ミルヴォワール、第3階層の甲板。テーブルにトランプが散らかっていたが、どうやら【ごっこ遊び】はやめたようだ。
「総員整列!」
『ハッ!』
綺麗に5班5列25人が並んでいた、全員個性のない迷彩服の軍服だ。
賢明そうな女性が。第3階層北方面のキングデブリポイズン・ギドラドラゴンについて説明する。
「あのキングドラゴンは、30層の魔法障壁で守られています。攻撃力マックスの一撃でも30回攻撃しないと破れません。そしてあまり動かず咆哮でゾンビ達にバフ効果、こちら側にデバフ効果を現在も与え続けてきます」
艦内に静寂が走る、銃声や雄叫びは鳴りっぱなしだ。
▼【四重奏】が死に戻りしました。
▼【仮面舞踏会】が死に戻りしました。
▼【非理法権天】が死に戻りしました。
味方ギルドが死に戻りした。船内に帰って来たという事だ。だが動揺はしない、ゲームであってもその鍛え上げられた心技体は揺らがなかった。そして間を開けて話を続ける。
強化班リーダー、バイタルは力強く言った。
「俺達は弱い者の味方だ! 作戦名は【絶空】! この空のある敵、全てを海の餌にしろ! 」
賢術班リーダー、ラフティーヌは全体を注意深く理解しながら言った。
「私達は戦闘の、いいえ。戦いのプロです。その意義に恥じぬよう行動してください」
陰陽班リーダー、チェンは準備体操をしながら言った。
「今回の指揮官はボクが取る、これだけ綺麗な敵の布陣だ。陰陽班がこの船の中心に陣形を取る」
精神班リーダー、バレッサはくるっと一回転して明るく言った。
「さぁ今回もメッチャハイテンションでギザ盛り上げてメラチャッカファイヤー!」
未覚班リーダー、バハムートはタバコを一服しながら言った。
「このクエストが終われば休憩地点へ来る、ここが山場。お前らは全員最高だ、総員気張れよ!」
ゲームのチャット画面から無機質なテキストが表示される。
▼フェーズ3に入りました。
戦場は絶望、戦士達は疲労困憊状態。成すすべなく倒れてゆく戦士たち。それを観て悲壮感が増す同胞。
バイタルが【最果ての軍勢】に号令をだす。
「では予定通り【絶空】作戦を開始する、総員散開!」
対して全隊員が敬礼で答える。
『サーイエッサー!』
そして船内に散らばった、この世界の【最強】が動き出す。
◆
ほとんど無謀という言葉の方が近かった。天上院咲、サキは空中。第3階層北方面のキングデブリポイズン・ギドラドラゴンに強引に1人で挑んでいた。
30層もある魔法障壁を一つも壊せない、一定以上の攻撃力が無いとダメージにも入らないのだろう、頑丈な障壁だった。
「ちくしょう! ちくしょう! 皆必死に戦ってるのに! 何で効かないんだよ! 何で無力なんだよ! 何で私はこんなに駄目なんだ! あんなに頑張ったのに! 努力してるのに! 自信もついたのに! 勇気もついたのに! 何でそんなあざ笑うように強いんだよ! ふざけんなぁあぁー!」
キングドラゴンの攻撃が迫って来る、それを庇うようにエンペラーの機動戦機ノアが盾になって護る。エンペラーの乗っていた機動戦機ノアは粉々に爆発四散のポリゴン片となった。涙が流れた、もうこんな惨状を観たくなかった。自分が英雄となって俺ツエエで片付けたかった。
「エンペラー! こんのー! 【念波・衝波】!」
こうなったらもう奥の手を使うしかないと思った、システム外スキルを使うしかないと思った。その時だった。
「やめておけ、ルール違反はゲームに失礼だろ?」
強化班リーダー、バイタルだった。【最強】の右手がサキの左肩に乗っかった。彼女の心の赤い涙が止まった。スーパーマンのようなその風貌は本物のヒーローのようだった、信じられないほどその手は暖かかった。
そしてその己の拳で、30回丁寧にぶん殴って粉々に粉砕していった。キングドラゴンが衝撃波で後ろへのけぞる。そしてバイタルは言う。
「グオギジャアアアア!」
「さぁ、反撃開始だ」




