番外編67「吸血鬼大戦のチュートリアル週間」
ある日の放課後……。
多想世界のゲームにログイン中……。咲のウインドウ欄にアナウンスがあった。
《現実世界。2025年4月21日〈月〉から27日〈日〉までをイベント「吸血鬼大戦のチュートリアル週間」とし、インターバルを4月28日〈月〉から5月1日〈木〉まで、と定義付ける。参加可能大陸グループ、アフリカ・ユーラシア・オーストラリア・北アメリカ・南アメリカ大陸とし南極大陸は除外とする》
この、一大イベントなのか冗談なのか大マジなのか判らない告知には、流石に咲は姫にツッコミを入れる。
「また場外乱闘かよ!? しかも今2037年だよ!? 過去じゃん!?」
「まあ~、桃花の8時間睡眠の確保もだいぶ安定してきたし、良く見たら吸血鬼大戦が発生した曜日も確定してなかったからさ~……【本番】じゃなくて【チュートリアル】なら大戦やってもいいかな~って……」
ちなみに、天上院姫がこのチュートリアルで知りたいのは、日本国とアメリカ合衆国で発生する【魔法と時差を調べる・観測する】だ。それが彼女が今回のイベントを主催する動機と目的である。
咲も一応、姫や桃花の理解者なので「本気でやるのか? アレを……?」と思ってしまう。自覚はなかったし、観測もしてなかったけど、人によってはまたやるの? と思ってしまうかもしれない。
とはいえ、アニメの総集編を何度もやってるような気もするし、全編通して現実世界の情勢を改めて理解できるのは大きい。あと桃花もだいぶ回復したし……。
「確かに桃花先生、特性〈時を調律する心臓〉の調整成功で。昨日は8時間じゃなくて9時間眠れたって言う意味では成功だけどさ……。だからって吸血鬼大戦また実際にやるの?」
「前回と比べて、規模範囲も、皆の熟練度も、上がったしさ。それに吸血鬼大戦の明確な年月日&曜日は決めてないはずだ。〈そうあるべき、そういう世界観なんだ〉と思って決めなかった訳だし。……忘れたけど」
「うーん、何かなあ~……ちなみに2037年のプレイヤーも遊べるの? 参加する気は無いけど……」
「過去の人や未来の人の参入か~……まあ、本物の魔術師、魔法使いが乱入する世界観だから、何が起こるかの幅を見るためのチュートリアルだし、理由つければ有り、何じゃないかな?」
「えっと、今回は多想世界の住人のイベントというより、現実世界の住人のイベントという認識・定義で良いんだね?」
「うん、その認識で良いし。咲はあんま関わらなくて良い。でっかい場外乱闘イベントと思えば良い」
理由や動機づけで、ここに記録するのがもっとも残りやすいのでここに記録しているだけなので。本当に、思いっきり【盤外編】だ……。
「じゃあ、安全性の意味も込めて。桃花先生の8時間睡眠で100%存在の力の回復、はそのまんまでゲーム進行するのね?」
咲は姫のイベントより桃花先生の心体の心配をする。
「予測不能なチュートリアルでも無理はさせられないし、やっぱ8時間睡眠が妥当なんだろうな……と思って8時間でやっぱ固定します」
「あとは、私は参加しないけど、事前調査や、現地での準備は良いのね?」
「うん、チュートリアルのチュートリアルはやってもいい。その為のチュートリアルだしね……」
チュートリアルがゲシュタルト崩壊した。
「えっとー、一応効くけど〈アカウント〉はどうなるの?」
「ん~、ざっと周りを見渡した限り……〈今ある全て〉がアカウント対象の方が進行しやすいかな? まーそこら辺も知らないし……当日はリアルタイム進行だから、再三言うけど咲は参加しなくていいし、気にしなくて良い。あくまで皆の練習だから」
むしろ咲はいつも練習してるし、何ならいっつもぶっつけ本番な所で揉まれている感じではある。
「ふむ、わかった、じゃあ文法体質の私は気にしないでおくよ」
これ見よがしに文法体質をアピールしつつ、咲はリアル場外乱闘を静観する姿勢に入った――。




