番外編59「ガソリンと障害者」
西暦2025年。
湘南桃花先生が、教師でありながら障害者認定を受けた。
これで桃花先生は自称〈普通の一般人〉という肩書が無くなってしまった。
与えられた称号は、情緒不安制定さを持つ、大きな意味では〈障害者〉……。
それもこれも全ては、面白い作品を頑張って作った結果論である。
でも流石に、ガソリンとタンク関連をエネルギー源とするヒルド関係と、今回の障害者認定された桃花事案が偶然とは思えなかった。不自然さが2度起こっているのだ。
そしてそのどちらも作品中の〈主人公認定の属性〉……偶然とは思えない。
てことは、ジャンルが小説であれ。天上院咲の主人公属性が反映されない、という方が不自然となる。つまり、何がいいたいかと言うと。
このままでは〈家族の善神〉として本当に崇められる可能性が非常に高いという主人公体質だった。
ヒルドの件と桃花の件は、ほぼ無意識の自覚なし案件。加えて過去に起こった出来事であるため、不可逆性……時間を巻き戻す事は出来ない。
咲と姫が今回何をしたいかと言うと。過去は変えられないが、未来は変えられる。
なら、せめて未来に生まれる〈天上院咲の体質〉ぐらいはコントロールしてあげたい、という願いがあった。この先困難はどうしても起こる……、しかし、この世に生を受けてからの〈体質〉や〈加護〉くらいは今からでも間に合うのではないか?
という発想である。
西暦2022年。
西暦2037年から家族の善神、天上院咲と。自由の悪神、天上院姫が神速でこの時代にやって来た。
「と言う訳で、私の赤ちゃんの時の〈体質と加護〉を改めて考えようと思いまーす」
「現状〈体質〉のほうが重要なのかな? ヒルドがガソリンで、桃花が障害者の体質になったって事は……」
咲と姫は交互に現状の把握を模索する。
「ヒルドに至ってはそのまんまだけど、フランに関しては不可抗力だよね?」
「情緒不安定でも好き、愛してる、みたいな発想だろ? 間違ってはいない、問題なのはそれが現実で実現してしまう方。そして〈主人公補正〉持ってる奴はその体質を本人が影響を受けるって点だ。主人公になって欲しいという他者の観点からな」
政府が押し進める、子供未来家庭庁とか、まさにその典型例だった。
主人公になって欲しい、なんて思ったことは無いから、それは皆の願いの方だと思う。
「で、このままじゃ私は〈寝たきりの子〉になるのを危惧してると」
「最悪の場合はな、でもそれを〈よく寝る健康な体質〉にすることは可能なはずじゃ」
「加護はやっぱり〈電車の加護〉?」
「電車に乗ると加護を受けられる、というよりかは〈電車からの加護〉かもしれない……そんなもんか」
で、一泊置いたあと。
「それを生まれた時から授かる、まだ間に合うって話だよね?」
「そうそう、まだ生まれて間もないから間に合う」
今現在歴が2025年だった場合、咲が生まれたのは2022歳なので今はまだ3歳だ。
「……生まれてたね」
「……そうだな、3歳かあ、まだ間に合う」
難しいお願いをしているわけではない。
ちょっと作劇上寝すぎて身長は伸びて体重は減ったという描写はあるものの。
それはほぼ望んではいない。無意識の結果論だ。
もしも、ソレをコントロールできるのなら、もちろん咲の体質と加護は。
〈よく寝る健康な体質〉と、〈電車からの加護〉これに尽きる。
もちろん、寝たきりの生活を望んでいる訳でも、電車に乗らないと効力を発揮しない加護、なんて望んでいない。
「現状、桃花先生は車にも乗っていないし、なりたくて障害者になったわけでもないからな」
と、GM姫の談。そう、これは面白い作品を作ろうとした結果論なのだ、因果論や運命論とも言う。
だから〈ただの夢〉なわけで、主人公であれ何であれ〈叶えて欲しい〉なんて言っていない。そこに強い願いの結晶体があったとしても不可抗力だし。
現状、その望みが歪みまくってる。歪みが生んだ反発力でこうなったとでも言おうか……。
その〈望みの力〉を正す訳では無いが、せめてまともに運用して欲しいという意味から、ささやかながら。
〈よく寝る健康な体質〉と、〈電車からの加護〉なわけだ。
送るのは必要最低限。
身体的な体質と、外的要因から来る加護。
間違っても子供の頃から権力があるわけではないので〈権能〉は別にいらない。
3歳児の頃から権力や能力の味を知り、その強大な魔力に身を宿して欲しくないからだ、故に権能は無い。子供に権力や能力なんて必要ない。
言葉と絵の歪みから起こったのが、今回の問題だった。
というわけで、3歳児の咲と姫は、これより。
〈よく寝る健康な体質〉と、〈電車からの加護〉を授かった。
健やかな健康な体に育って欲しい、電車から間接的にでも恩恵をもらって欲しい、そういう先人達からの願いを込めて……。
そう思いながら、咲と姫は西暦2037年に帰った。




