第719話「承・休憩と大結婚問題」
現実世界、西暦2037年11月14日18時30分。
咲と姫は風呂とご飯を食べて、一息ついて自室でくつろいでいた。
小インターバルと言った所だろう。あと30分後に何もなければ2時間ログインして、21時に寝るつもりである。すっかり日も落ちて夜だった。
カロリーも気にしながら食べているが今日は普通の食事、2000カロリーぐらいだろうか。無理にがっつり食べるのはまた過労インターバルの時でいいや、とも思っていた。その時はまたアニメ一気見するんだ、とも思っていた。あの休憩時間はとても心が安心して精神安定上良い事が解ったからである。あれは定期的にやってもいい。
「ログインしたら何やる? まあVSバルバトスはやるとしてもさ」
「ん~日本国召喚しようかな~とかは思ってる、今まで中世ヨーロッパが主戦場だったから。日本ちょっと平和ボケしてね……? とか思ってる」
EWの主戦場のベースは、ギリシア神話のオーケアノス領域だ。
だから、大きすぎるアメリカ国は別として、日本国は間接的にしか影響は来ていない。だから割とどうでもいい日本国の政治的論争に姫はイライラしていた。
「つまりお姉ちゃんの主張は〈そんなに平和ボケしてるなら主戦場に日本国設置してやろうか!?〉っていうただの怒りなわけだね」
「まあ、無自覚で発電所? 食べちゃった? 関連やっちゃたのはしょうがいないとして、今度は意識的に日本国関係性持たせたらどうなるかな~? ていう冒険心はある、でなきゃまともな議論しないだろあの政府関係者達……」
つまり、GM姫による「日本政府ちゃんと働け!」というとばっちりである。
「で、第1の街ライデンの海側に列島をデン! と追加しようかな~? とか考えてる、大丈夫大丈夫、今度は意識して設置してるから~!」
「ふーん、まあ昔は私達が知らないのを良い事に好き勝手やって来たんだから、それくらいの〈試練〉は乗り越えてもらわないと困るよね。アメリカやヨーロッパ大陸だけに全部押し付けてる形になるし」
半ば姉妹による、鬱憤晴らしの夕食である。
「かと言って、現代兵器や自衛隊が動いても困るから、初期設定は江戸時代かな~やっぱり」
「あーそこは加減するんだ。雰囲気って重要だもんね」
「一応ファンタジー世界観だからな……一応」
乱世である戦国時代ではなく、比較的平和が保たれている江戸時代を選択したのは姫なりの良心かもしれない。そこだけ見ると商売は繁盛しそうである。
「他に咲がやりたいのあるか?」
「やりたくはないけど、いい加減ジゲンドンと会いたい。まだ1回しか会ってないよ」
最古来歴600年に元滅種の巣穴があることは解っているが、居るのはバルバトスでジゲンドンじゃない事だけは解っている。
咲は、正直最近戦闘の神経衰弱には参っていた。
「歴史は動かないから、もうちょっとゲームの世界お散歩するか?」
「やりたいのは山々なんだけど、忘れそうだな~」
今は現実世界のタイミング的に、本格的な戦闘は厳しそうである。
かと言って、バルバトスは動くので被害状況が心配なので。
「念の為にまた最果ての軍勢に〈そっち行くまで包囲しといて〉とか言っとくか?」
「ちょっと接待っぽいけど、それしか無いかなあ~」
姫はスマホ片手に真城にメッセージを送っといた。
これで元滅種の案件にはまだ時間が取れる……。
「ふむ、ちょっと創作に関して衰えを感じ始めたな~……スピードがナマってきてる……全体的に」
言って姫は体をポキポキさせ柔軟体操をする。
「私がくたばるのが先か、ラスボスが倒されるのが先か……」
「皆の念願の居場所は設置したんだからやろうと思えば今すぐにでも挑戦出来るだろ?」
「まあそうなんですけど、タイミングがな~……」
色々と問題が山積みだった、もっとも、問題は自分で作っているのだが。
「ジゲンドンに発信機でも付けられないの? こんなに冒険してるのに難易度高すぎるよ……」
確かに、もう結構時間を食っていると思った姫。
「しょうがない、居場所だけだぞ? どうするかはお前らプレイヤーしだいだ」
と言って、姫はアナログの6面ダイスとオワンを手前に出す。
「わしの健康体の関係上、虚裏闇暦が出たら振り直しな、いくぞ、不可逆の世界」
「わかってる」
言って姫はダイスロールをする。
「ポンポンポポポン! 4! 最未来歴。次は5、500年。次は5、第5の街魔王城ロキ。現実世界のこの今、四獣王ジゲンドンは最未来歴500年、第5の街魔王城ロキに居る……、これはゲームマスター権限使ってるから確定だ」
「今だけでしょ? 可逆性だか不可逆性だか知らないけど……」
「じゃな、咲は行かないんだろ?」
「正規のルートじゃないからバルバトス戦の準備する」
「おっけい」
言って、2人共、コップの中の牛乳を飲み干した。
各々ゲームにログインする準備に入った……。
◇
もう一つ、咲は気になることがあったので姫に疑問を聞くことにした。
「そういえばさ、お姉ちゃんって結婚とかしないの?」
「……え?」
「……え?」
確かに姫はラスボスであり、0から1を生む能力者ではあるものの、一人の女の子として性を受けているので。天上院咲同様、許嫁という形での結婚は可能だ。
いかがわしい大結婚式とか開かなくてもその条件は整っている。
が、本人がそのルートに乗り気かどうかは別の問題だ。
「デートでもいいし、結婚を前提にお付き合いをしたいです。とかだったら、実はかなりの男子は食いつくのではなかろうか……? もしくは、恋愛話が好きな女子? 悪役令嬢的な意味で」
「いや、でも……仕事が……」
そう、問題は姫がラスボスに成ることを夢見る仕事ガチ人間であるという点である。
ある占い師が言うには、女性は仕事か結婚か、どちらかを選んだら、それ一方しか選べないとか何とか言っていた点だ。
結婚を選んだら仕事は出来ない、仕事を選んだら結婚は出来ない。
現在姫は悪のラスボスという仕事を選んでいる以上。結婚とは縁遠い存在になっていた。高校1年生で話す題材ではないが。この〈0から1を生む程度の能力〉が、第なり小なり他者の人生に大きな影響力を発揮しているのは否定できない。
「ラスボスを夢見て、ラスボスとして倒されて、例えば神霊体として倒されちゃって……そのあとの人生は……? 断罪されて終わりなわけ?」
「……」
何も考えてなかったのが今の天上院姫である。そんな幸せな道に進む権利は自分には無いと思っていたからだ。
「ちょーっと家族の善神としてはいただけないなあ~……」
「でも、だって、……こんなわしでも、幸せになっていいのか? 幸運を選んでも良いのか? 救われるのか? 許されるのか?」
ちょっと今の今までの蛮行のせいで、薄ら泣きから、ボロボロとマジ泣きに変わってゆく天上院姫は、自分のその感情表現に、自分で驚く。
「まあ選ぶ権利は、家族の善神である私が保証できるけど、男性の相手が居ないのがなあ~……レジェンドマンとか……?」
「あれは、……お父さん枠」
姫じゃない、ミュウとして、宇宙全土を無に回帰してなお生き残っててくれたお父さん。そんな存在。
少なくとも、そんな破天荒な悪戯心や破壊衝動を受け入れ、受け止めきれる、そんな存在じゃないと花婿は難しい……そして問題がもう一つある。
「で、もう一つ大問題なのが。神様、神官と結婚するという一大イベントを宗教家達が見逃すはずもなく。許可もとってもいないのに、集団大結婚とか現実世界でやっちゃう集団が実際に居るという真実の方ががヤバい」
まあ、百歩譲って個々人の結婚式は問題はない、問題はそれが宗教的政略結婚で、ほぼこちら側で、知らぬ存ぜぬで結婚式が行われる点だ。
で、悪のラスボス姫は思考を巡らせる。そんな好都合な花婿候補な存在、この世界に存在しただろうか……? と、である人物が浮かび上がる。
「この世界線には居ないけど、リゼロのラインハルトぐらいじゃないか……?」
「あー……イメージ湧くわ……。男性で、頑丈な体で、姫お姉ちゃんの悪戯破壊衝動でも生きていられる人間……、で、剣聖の家系で家柄も問題なし。まあそんな奴、ここにはイネーけど……」
可能性の世界線としてはアリだなと思った。
その上で、家族の善神、天上院咲は告げる。
「まあ、今すぐにとは言わないけど。自分のラスボスとしての夢が終わった後の、自分の人生も考えといて。って頭の隅に置いておいてくれると嬉しいな」
「う、うん。解った、そっか~……わしの結婚ルートか~……」
姫との雑談もこの辺にして。
現実世界、西暦2037年11月14日19時00分。
この日2度目のエレメンタルワールドへログインした。




