第710話「起・バカ売れと豊食ノ民」★
現実世界、西暦2037年11月14日15時20分。
多層世界、今現在歴6451年、第6の街戦乱都市アスカ、岩石荒野。
今回は最未来歴1年のギルド本部へ行かず、ステータスチャット画面から直接湘南桃花先生に最新の報告書のデータを渡す形を取る天上院咲。何か巷ではこの報告書は〈攻略本〉と言われているらしい……。
フレンドチャット、天上院咲&湘南桃花。
【何か私が観る限り、難易度がピーキー過ぎてバカみたいに売れてるよ、咲ちゃん達が持ってきた情報料】
やることがないのでとりあえず今現在歴6451年に居る咲は、最未来歴1年でずっとギルドの受付嬢としてイスと言う名のデスクに座っている湘南桃花先生とチャットを始めた。
【それはバカの攻略方法なのか、バカが買ってるのか、判断に困りますね……貴重性があって売れてるのなら、むしろ良いのか……?】
咲も咲で新天地ではしゃいでるの自覚はあるが、バカとは……? と頭にハテナマークが付く。
【あと、咲ちゃんとは関係ないけど。セルフイメージのバックアップかボツ設定を拾ってるのかは知らないけどさ。そういうのはギルド本部でも責任取れないから〈旅のリサイクルショップ〉か何か通して、ちゃんと金払えって怒っといたよ。こっちは接合性も保証も出来ないんだからさ……】
湘南桃花先生がそう怒るんなら〈そうなる〉んだろう……と咲は思った。
【ちなみにどれくらいの値段で売れたんですか? ……1回の報告書につき】
物価なんて時代によって変化するから聞いても意味ないとも思うが、指標がないと咲もイメージ出来ないのだろう。
【確か、2025年の東京の警察官の初任給が月30万円だから……結局上下してもそのくらいなんじゃないかな? 詳しくは解んないけどとにかく売れてるらしいという情報は入ってる】
と桃花先生は言うが、ぶっちゃけそこら辺の発言は責任の取りようがないので、結果的に無責任だ。
お金取るんだ、と思った咲はでも確か。有料無料の話題は結構シビアだったはずと、記憶を遡る……。
【でもそれじゃ〈0円信仰〉してる人達はどうなるんですか?】
【……私が言いたいのは0円はダメで10円は良いよって意味。そもそも〈0円信仰〉なんて言った覚えがないし、強制・強要もしてない。まあ仁義とか信用って意味なら解るけど……〈皆やって〉とは一言も言ってない、……よね?】
言った言わないの水掛け論になるし、なったとしても再確認するほど過去のログを確認する気力も起きない。ま、要するに政治的責任逃れに付き合う気はない、というのが桃花先生の本音だ。
【……何で私に聞くんですか? ……判りませんよ、そんなこと……w】
こればっかりは咲も苦笑いするしか無い。そもそも彼女が知るはずがないのだ。
で、咲は思考を別方向へ転換し……先生の恋愛事情へ首を突っ込む。
【でもさ、それをやっちゃうと〈私の心を聴いていいよ〉っていう〈無償の愛〉との関係性は?】
振られたくない話題でも、気に入ってる生徒からの質問なので答える桃花。
【……、信念と愛情は別口としか、言いようがないわね……それはそれこれはこれ】
恥ずかしそうに先生は言った。
どうやら〈無償の愛〉は赤ちゃん用、〈旅のリサイクルショップ〉は成人用ぐらい、年齢的に別口らしい。
つまり、お金無い人は払わなくて良いけど、払える人はちゃんと払ってお願い。というお願い系で、ほとんど信頼関係で成り立っているので強制力もあまりない。
咲は、話の内容を更に詰める。
【定義確認、旅のリサイクルショップとは具体的にどのお店ですか?】
【全国・全世界のコンビニやスーパーマーケット系で。本当は行政の管理下の方が良いけど、10円のお菓子を管理下にしても大変そうだから、全国チェーンのコンビニ店でいいよ】
まるで法定か行政の台座で話している感じだが、別にそんな事はしていない桃花。
【ふーん……】
【で、お迎えはまだ来ないの?】
山岳を上から下まで観たが、変な機体が来る様子はまだない。桃花先生と話し始めてもう10分以上経っている。
【こりゃもうワンアクションかツーアクションくらい待つのか……?】
目算だが、今回のターンでは来なさそうである。
【ふーん、じゃあ暇つぶしついでに、私からスキルのギフトを送るよ】
と、咲は言われて、桃花先生からスキルの贈り物、ギフトをピコリン、と貰った。
《湘南桃花からギフトとして、〈豊食ノ民〉を受け取りました。》
名前◇豊食ノ民
希少◇SR
分類◇7つの美徳_節制_7つの大罪に対するカウンターバランス
解説◇個人としての民のスキルは、本来の入手して得た元素エネルギーを吸収するスキル。
全民としてのスキルは、自制心、バランス、適度、分配が加えられている。
スキル〈学習〉の様にログという見聞によるデータ解析ではなく。
外的要因で接種した物質を、体内で〈魂〉や〈素材〉を解析し、理解・分解・再構築・分配をする。
例えば毒物を吸収した場合、その毒元素エネルギーを元に反転術式を加え対義語で薬草を生成、体内で中和させるなど。
豊食ノ民の特性として、その中和した〈ワクチン〉を他の民に分け与えることが出来る。
有効射程範囲は1回のスキル発動で学校1つ分。
豊食ノ民、全民としてのスキルは。自身と心の繋がりを信じ、守りたいと誓った民、に調和と均衡をもたらす力。
【ん~ほ~、結構レアスキル?】
【まあ万能ではないけどレアスキル】
咲は、文脈から読み取ると毒耐性が付いたのか……? と単純に読み解いた。
……そんなことより。
【そんなことより、桃花先生は刺されたり、車に引かれて転生しちゃった記憶とか無いんですか……?】
痛い所を付かれる桃花先生。おそらく今現在歴2005年から2010年あたりだろうが本気で覚えていないのだ。
【ぎくり、まあ……あの時は無邪気な創作全盛期でしたし、簡単に言うと心当たりが有り過ぎて解らん、ですね……】
そもそも〈あの頃〉は規制の概念も無く、うさぎ小屋みたいなマンションで独りシャドウボクシングしてたり、我武者羅に創作してたので、何がどの時期のタイミングでトリガーとなって死亡して転生作品が流行ったのか解らないのである。
【なので、原因がわからないので結果もわからないのよ】
【ふーん、ま、もうちょっとそこら辺の岩にでも座って様子見しますわ】
【はいよ~、乙~、じゃまたねー】
咲と桃花とのチャットはここで途切れた。




