第72話「海底ダンジョン」
「もうすぐダンジョンに行き着く?」
「そう、海底ダンジョン。そこで食材を集めるクエスト」
「てことは収集クエストってことかな?」
「で、船は遅いけど止まらない」
「ほう」
「ので、時間内に狩って、はぎ取って、戻ってこないと船から置いて行かれる」
「えー、なにそれ駅弁かな?」
姉妹は豪華客船ミルヴォワールの船内中央広場にいた。
魔法を駆使したのか何だ知らないが、学校一個分を丸ごと入れ込んだような広大な面積を持っていた。
そのパラソル付きの椅子と机に入り浸り。チョコレートクレープをリスのようにほおばる3人。サキ、ヒメ、エンペラーの放課後クラブ。
「私たち食材厚めとか、料理スキルからっきし上げてないからな~ほみゅう」
咲は無意識には出ない、まだ意図的でしか出せない語尾を頑張って入れた。
「他の冒険者のおこぼれを狙っていこう、なのじゃ」
「おこぼれって、それほとんど強盗じゃねーか」
エンペラーがまじめにやれと、ヒメにつっかかってくる。
「忍者が忍んで手に入れるんだから、それっぽいじゃろ?」
サキは仕方ないよと断罪する。
「元々ウチらモンスター倒してろくにアイテム拾って無かったし、アイテムが消耗して無くなって行くのは当然。いや必然」
拾えるものは拾っとけ精神がこの3人には困ったことに無かった。
咲はリスクとスズ、モモカとグンとアオバの事を脳裏に焼き付けたが。
今は目の前の事に集中することにした。
「んで、どんなモンスターを狩るの?」
「これだ」
◆クエスト名:海王、新時代の幕開け。
新海刀龍王 ネオ・カジキマグロドゴン
流転を血脈として纏う新たな海の王は、陸が海と化す大津波を引き起こす。鼻先の長刀はモンスターを喰らう度に硬度が増し進化する。放って置くと手が着けられないぐらい全身が堅くなる。
咲はクエスト欄を観て絶句する、そして声に漏らすのは。
「強そう、いや。強い」
姫が言うのは単純明快な回答だった。
「論より証拠、ま。戦ってみればわかるじゃろ」
エンペラーも腕が鳴る。
「今回はノアはお留守番か。久々にクエストって感じがするぜ」
周りの豪華客船ミルヴォワールの血気盛んな冒険者、およそ学校の3クラス分の90人達は吠える。
「野郎どもー! 今夜の飯はマグロだー!」
うおぉオー! と怒号が鳴り響いた。狩りたいのか食いたいのかどっちなんだよ、とも取れるヨダレたらったらな狩人だったが今回は味方である。そうこうしている内に、船はゆっくりと海底ダンジョンに近づく。
冒険者たちが点呼を始める。
「制限時間は!?」
「1時間です!」
「上等だぜぇー!」
「途中で疲れた奴は一時撤退して回復に専念しろよな!」
「サーイエッサー!」
「いくぞー! 3! 2! 1!」
「ゴオぉおおおおおおおおおおー!」
船から飛び降りた冒険者達は走り抜け、そのままの怒号で海底ダンジョンの中へ突入して行った。