第706話「起・感想会」
現実世界、アニメを一気見しながらポテチでカロリー摂取している最中。
「……まだ慌てるような時間じゃないか……」
天上院姫は〈ちょっと先の未来〉を観ていた。
「何の話? お姉ちゃん」
咲は今さっき、ちょうどアニメの内容的には大鬼族と出会ったシーンを見ていた。
「いや、流石にゲームマスターだとさ、全部把握してないといけないからアレだけど、咲は真似しなくていいよ。普通にアニメ見ながら私を捕まえて、休ませてくれればいい」
今真っ最中で休ませてるはずなんだが? と、頭に疑問文を浮かべる咲。
「まあ、このままで良いなら、そのままアニメ続行で観るよ?」
「……うん」
何故か含みのある返答だった。
「吸血鬼だと扱いにくくて、子鬼族のゴブリンや、大鬼族のオーガが繁栄したのかな……? あとついでにオークも……」
「じゃない? 広く世の中を見た感じ……」
ポリポリとポテチを食べながらアニメを観つづける2人……。
――4日後、何とか転スラ1期の本編を見終わった天上院姉妹。
この機会とタイミングで食料という名の食事を食べまくった、何でもかんでも食べまくってお腹を満腹にしまくった。とにかくアニメを観ながら、栄養不足を回避するのに必死だった。
現実世界、西暦2037年11月14日14時00分。
とりあえず1クール分のアニメを観終わったので、ここらでちょっと感想会である。
「ダレなかったな~ちょっと詰め込み過ぎな感じもあったが、テンポも良かった」
「1クールにしては密度濃かったね~、どんどん仲間が増えていってさ~」
で、作中の良いところ、自分達が学習できそうな、今後に活かせそうな所を探す。
「改めて観ると影移動が凄く便利そうだったな、影の中に人も入れるのか」
自分の影から他人の影へ、何とも便利な機能である。
「原作の最新巻観ると、原初の魔王が居るよ、サイドテールでワタシっぽい」
「ふーん、まだ出てないけど〈存在値〉か……、〈戦闘力〉みたいなものか? 今のゲームに組み込むと心氣の力〈氣力値〉とかになるのかな? でもこれインフレしそうだな~途中で飽きそう……、今はカロリー計算で、現実世界だとインフレはしなさそうだな……」
リアルとフィクションの齟齬を会話しながら埋めてゆく2人。
「でもステータス表示よりは管理しやすいよ? 現実世界でも数字は指標の1つだから大事だよ? 1個はあっても良いんじゃない?」
「でもそれやると、今までの全キャラに氣力値あることになるし、設定が大変だ」
「1項目だからマシなんじゃない?」
「ん~……眼の件や心臓ほど危機的状況でもないし、とりあえず保留かな……」
氣力値の件は魅力的ではあったが、危機的優先度は低かったので今回の思考の深堀りは保留にした。そこまで緊急事態でもない案件だったので。
で、話をまた影移動に戻す。
「影移動より太陽移動の方が私達らしいよね」
「まあな、自分の影に怯えても意味ないもんな……」
影があるということは太陽があるということだ。つまり光、光移動でも良い。
そっちの方が今の自分達にとっては使いやすいのではないか? という意見。
太陽移動何て聞いたこと無いが、太陽信仰はあるので世界観的には別に不自然ではない。夜でも月の光がある、暗闇でも全く太陽移動出来ない訳はない。
「んじゃ、宴もそろそろ、ログインしますか」
「じゃな」
そう言って、姉妹はテンジョウ2を装着してログインした。
カロリーは満タン、2600カロリー設定である。
◇
現実世界、西暦2037年11月14日15時00分。
多想世界、亜空間歴5分45秒、エレメンタルワールド、ログイン。
暦時空艦ヘリオ・ソル内部。
一通りアセンブラくんとトレント・フレンドリーに現状を聞いて、特に異常は無かったことを聞く天上院姉妹。
で、姫は未来予知した内容を糧に、ちょっと今後の予防をすることにする。
咲、姫、アセンブラ、トレントにそれぞれ4人分に配ったのは〈白いマント〉だ。それも普通のマントではない。マントの素材が特殊で〈光を纏う衣〉のマントとなっている。
「あと、これから先で、個人で行動するにあたって〈光を纏う衣〉も着たほうがが良いと思う」
「どうして?」
「咲もそうだし、主にわしだが、光も闇も自分で放出してる存在だからな。効果は、自分の存在を光属性にして、精霊回路の中の循環も光をメインに流動する。簡単に言うと、自分から出る闇を抑制し、光の放出を強める精霊回路の布じゃな」
元来ある力を自然と増強してしまう2人にとっては、この〈元〉というのは光も闇も含まれるのである。
「つまり……まだ光も闇もコントロールできない経験不足の〈新人が付けるための衣〉ってこと?」
咲が元も子もない例え話で、控えめに表現した内容をぶっちゃける。
「ん、ん、ん……間違ってないな。今更ルーキーってのも変だが、コントロール出来ない人が訓練の為に着る衣、で何も間違っていない」
「……なんかそういう風に聞くと、お姉ちゃんの体臭は凄く臭うって言い方になるね」
女子としてあるまじき、至極失礼な言動さである。
「例え話は解るが、それは風評被害だぞ、わが妹よ」
しかもこの天上院姫という存在の闇の体臭は、世界規模で臭うから冗談になっていない……。大枠は他者による信仰心のせいだが……。
「あとアレが居るんじゃない? 範囲結界。半径25メートル領域を〈安全圏〉とする。とかさ……」
「あー、今まで結界系は他人任せだったからなあ~。封絶も博霊大結界も」
「防御面では本当に偶然が重なったんだね。確かに氣力値よりも優先順位高いかも、個人スキルか、街の術式か知らんけど。言語化は必要かな……?」
咲と姫は、イレギュラーの居るゲームセンターへ向かい歩きながら。その間の通路で、この世界の結界の定義について言語化を進めながら、歩く。
「ん~、じゃあ結界について言及してから、中ボスの駒を配置するか、次の5秒後だな、気を引き締めて行けよ!」
「あー、イレギュラーとのゲーム盤の話?」
駒を進めるよりも結界の言語化のほうが優先度が高いと思ったのだろう。誰も配置した盤面をぐちゃぐちゃにひっくり返す行為は望んでいない。
結界の定義確認してから姫自身の手駒を進めたいのだろう。
次は姫のターンだ。
「そうそう」
「じゃあもうすぐ中ボス戦か! ワクワク!」
「……、ま、今の内にワクワクしてればいいさ!」
「?」
姫は、咲に対して含み笑いをした。何か悪いことを考えてる顔だった。
〈光を纏う衣〉をフリフリと羽織りながら――。




