第702話「起・木人トレントと大精霊シャドウ」
現実世界、西暦2037年11月10日、15時30分。
多想世界、最未来歴5年、原生生物自然保護区〈西の大門区域〉。
鈴の湯ガーデンから下山する前に、ピンクスズちゃんから〈怪獣除けの鈴〉を3人分貰う。これでザコ敵とは戦わなくて済みそうだ。
そして下山する3人は途中……。
危険度レベル4の区域で、3大格闘バカと言われる。黄金石の熊〈ゴールドベア〉、武装する昆虫〈インセクトアームズ〉、猛る闘牛戦士〈ミノタウロス〉、をばったり遭遇しながら、3人で撃破。
「やっぱり今の私達じゃ元滅種以外、野生のモンスターじゃ相手にならないわね」
「それだけ成長したってことじゃな」
「〈荒ぶる夢想〉を3つ手に入れましたよ!」
咲、姫、アセンブラくんはそれぞれ口にする。
どうやら猿真似、模倣犯を気取った、プレイマナーを守らないような輩にはもう負ける気がしなかった。
で、野生のトレントに〈博学なトレントさん〉は何処に居るのか聞いてみた。
「それが、博学なトレントさんは。大精霊シャドウ様に捉えられてしまいました!」
と、その時緊急連絡が咲のステータス画面から鳴り響く。
《緊急依頼、大精霊シャドウ・ダークサイドと元滅種が接触、今の内に沈静化させて下さい。――受付嬢、湘南桃花より》
「……何ともタイミングが良いことで……」
「この流れじゃと、大精霊シャドウを撃破後に木人トレントと船造りか?」
「そんな感じになりそうですね」
咲、姫、アセンブラは次の直近の目標を大精霊シャドウへ切り替える。
「で、場所は?」
「大空洞の地下深淵だって」
「下山しながら更に下へ降るのか……地下何階だろうか? 地下100階とか?」
そんな事を考えていた。
「今から地下深層とか行くのダルイー! シャドウなんだから影転移か何か使ってそっちから来いよー!」
天上院咲のワガママが発動した!
『フフフ、我を呼ぶとは片原痛いわ、笑える』
そんな天上院姫の影から声が聞こえてきた。
「ぬお!? 誰じゃ!?」
下山中の木の根っ子と岩肌が出ている土色の地面……。
そこから、ヌルりと姫の影から闇の大精霊シャドウが出てきた。影転移だ。
「来る気が無くなったみたいだからこっちから来てやったゾ」
「あら優しいのじゃ」
シャドウと姫のコミカルな会話が弾んだ。
《闇の大精霊シャドウ・ダークサイドが、博学のトレントを連れて現れた!》
「タスケテクダサーイ!」
「力が欲しいらしいな、愚直な姫よ」
シャドウは姫に対して話しかける。
「おおそうじゃな、でもその前に、西の大門が観えてきたので、到着してから話を進めないか?」
「フフフ、ワガママな娘だ。よかろう、ついて行ってやる」
そうして、放課後クラブとシャドウとトレントは下山を終えて、西の大門までたどり着いた。
〈下山完了、西の大門、お団子屋さん前〉
「はあ~、やっとここまで来た~~」
「寄り道が長かったよ~~~~」
「咲さん姫さん、お疲れ様です」
放課後クラブの3人は西の大門のすぐ横にあるお団子屋さんまで来て、休憩をすることになった。
その休憩時間を見計らってシャドウとトレントの話に入る。
「さて、このトレントを開放するためには。天上院姫、お前は試練を受けなければならない」
「知ってる、よくある力を示せ、って奴じゃろ?」
姫はRPGの知識をひけらかす、だがシャドウは別の返答をした。
「そうじゃない」
「んん?」
闇の大精霊シャドウは、試練のお題を言う。
「お前も咲と同じで特殊な立場に有る。我が召喚協力するのは構わぬのだが、その場合、お前の体が持つかどうかの方が心配なのだ。簡単に言うと〈闇をこの身で受け止め続ける覚悟はあるか?〉それが、本当の意味での試練だ」
姫が本当の強者なら、闇に支配なんかされない、そんなもので身を守る必要はない。むしろ、闇を支配する側になるからだ。
だが、無意識とは言え、咲&姫はいくつも、何度も闇に、自分達の闇に振り回されてきた。無自覚とは言え自分の闇に怯えて生きてきたわけだ。その姫が、今度はシャドウが仲介役になるとは言え、自ら進んで、闇と解っていて使役する。使役し続ける。その覚悟はあるのか? と説いているシャドウ。
「もう解ってるかもしれぬが、召喚協力を始めれば、もう闇とは赤の他人とはいかなくなる。間接的関係者だ、無責任では居られなくなる。そしてそれは、協力を解除するまで、いつまでも、ずっと続く。その覚悟と責任はあるのかと聞いている」
闇の大精霊シャドウの言うことは、今の天上院姫には痛いほど解る。生半可な代償も、命も、もう払っているから尚更だ。
「ふむ、真面目な話だったか……」
現実的でもあり、多想的でもある、両世界の狭間で、その闇を使役し続ける覚悟は有るのか? と聞かれている。
正直、姫独りでは受け入れるのは、無理だっただろう、だが……今は咲がいる。
「その試練、受けよう。もしわしが本当の意味で闇の住民になったら。その時は光の咲に助けて貰うことにするよ!」
元気に、全肯定で他人任せにする姫。姫は咲の事を信頼していた。
咲は、姫の全肯定脱線に呆れる。つまり、もしもがあれば、咲がピカッと光ってくれれば何とかなるだろうという結論だった。
「はあ、結局私頼みか……、はいはい解ったよ、一緒に歩こうって言ったの私だもんね……!」
「……結論は出たようだな。では召喚協力を受けよう。そこにいるトレントも開放してやる……」
そう言い、シャドウは博学のトレントを開放した。トレントにとってみればとんだとばっちりである。
「で、皆さん何の話をしているのです????」
《博学者、トレント・フレンドリーが開放されました!》
《天上院姫は、闇の大精霊シャドウ・ダークサイドと召喚協力を結びました!》
名前◇トレント・フレンドリー
希少◇R
分類◇最未来歴5年_原生生物自然保護区〈西の大門区域〉_樹命種
解説◇博学のトレント。西の大門区域に住んでいる頭の良い木人、趣味で飛空艇や時空転移についての知識は持っているが、どうやって作れば良いのか解っていない。勉強熱心で教えれば、飛空艇を作ってくれる気満々である。
名前◇シャドウ・ダークサイド
希少◇SR
分類◇最未来歴5年_原生生物自然保護区〈西の大門区域〉_召喚術
解説◇闇の大精霊シャドウ・ダークサイド。創造神という闇がやる気を無くしていた所で、闇の眷属が散り散りになってしまった時の拠り所となっていた。闇の眷属は本来の主の所に戻りたがっている。それまでの仮初の依代。




