第699話「承・四獣王ジゲンドン討伐攻略戦」
今日は魔法科学高等学校では健康診断が行われた。
咲と姫は、中学1年生の頃に比べて、身長は伸びたが体重が減ってしまった。痩せ型である。
原因は栄養不足と運動不足、姫については加えて過労も祟っていた。
西暦2037年11月10日、15時00分。
朝食や昼食はきちんと済ませたが、心氣のエネルギー源が【現実世界の食事の描写】である以上、放課後クラブが出来る事と言えばゲームを始める前の3時のおやつタイム、即ち間食時間のおやつ事情を描写するのが一番自然である。
あと、接種したカロリーを測ったほうが計算しやすいと小耳に挟んだので、体重が痩せている天上院姉妹が、普段接種している量が2000カロリー、今回はもうちょっと食べたほうがいいので2600カロリーになるようにお菓子で調整する。
とりあえず最初なので良くわからないのでポテトチップスで、また場を凌ぐことにする2人。
油っこいものをまた食べる羽目になるが、食べないよりかはマシである。
というわけで小腹も少し膨れたので姉妹2人はVRゲームにログイン。
心氣のエネルギー源ということで、接種したカロリーを2600に設定し、指紋認証で最終意思決定をし、その状態でダイブした。
現実世界、西暦2037年11月10日、15時15分。
多想世界、亜空間歴5分25秒、放課後クラブギルド本部、ゲームセンター。
「おーっすイレギュラー、ちゃんと天文台作ったぞー」
「あぁ、それに咲はシルフを仲間にしたと、なるほどこういう盤面か……」
盤上の姫のターンは終わったので、こんどはイレギュラーのターンだ。
「そうだな、これなら〈新しく時空間移動できる船を作れ〉と〈素材を利用して姫の武器強化をしろ〉……って所になるかな……」
どちらも放課後クラブにとっては、船強化イベントや武器強化イベントになる。
そんな中、イベント名『リターントゥライト』のイベントが進行し、新たなイベント名に変更された。
クエスト名『四獣王ジゲンドン討伐攻略戦』である。
「おおーいよいよかー」
「長くなりそうだなあ~」
姉妹2人が心中を語る。
「風呂敷広げたのはお前だろ? ならちゃんと畳めよ?」
「へいへい解ってますよ~だ」
イレギュラーと姫の小気味良いトークが響く。
「というわけで、船強化イベントに行ってこい」
「はいはいオッケー解ったよ~~」
「では行ってきます、イレギュラーさん」
3人の軽い小気味よいトークは終わり、次の目標に向かって突き進む。
◇
多想世界、最未来歴1年、第1の街ライデン、ギルド受付前。
湘南桃花とオーバーリミッツは、ひっきりなしに来るお仕事。ギルドの受付嬢として渡される冒険者の時系列進行表とにらめっこしながら、図書館へ情報を送る手続きをしていた。
オーバーリミッツが桃花に対して会話を投げかける。
「どう? 体調よくなった?」
「お陰様で、闇は大分払えたと思うわ、あとはあんたの愛情ばっかり受け取ってる気がするとか……?」
「ふふふ、それはよかった……!」
2人で書類整理をしながら会話に花を咲かせる。
「桃花や戦空はこのイベント参加しないの?」
「どうしても古参がしゃしゃり出る形になっちゃうからねえ~、やっぱ新参に活躍してほしいよね……」
と、胸の内を明かす。
「ほうほう」
「まあ私は当分、最未来歴1年で様子見かな」
「わかった~」
そう言いながら事務仕事を片付ける2人であった。
◇
多想世界、最古来歴90年、第6の街戦乱都市アスカ、第5休憩所、鈴の湯ガーデン。
始祖の神楽スズ、初代の時代が終わり、2代目、の女性の時代も終わり、3代目、桜愛夜鈴の時代に入った。ちょうど、おばあちゃん、お母さん、そして自分が居る時代である。
プレイヤーとしての桜愛夜鈴は居るので、NPCとして自分と似ている魂が鏡写しみたいに生成される現実に、半ば困惑しか無い桜愛夜鈴であった。
「私の魂の複製みたいなのがすくすくと育ってるのは良いんだけどさ、その間戦空はどうなてるのさ?」
「知らねえ」
夜鈴と戦空の会話を久しぶりに聞いた気がする。
機械種4体も未だに見守ってるし、過保護っぷりが半端なかった。
「四獣王ジゲンドン討伐攻略戦は参加するの?」
「相手がおもしれえくらい強かったら参加する」
つまるところ相手の強さ次第らしい。
「ふーん」
桜愛夜鈴は自分のAI、精神原型を眺める。
流石にその子の名前は、桜愛夜鈴とは違うようだが……。
◇
多想世界、亜空間歴5分30秒、放課後クラブギルド本部、ゲームセンター。
「で、船作るならいつの時代にするの?」
咲が姫に対して言う。
「アテが無いなあ、とりあえず最未来歴5年とか? 場所は決めてない」
アセンブラくんが提案を出す。
「メリーとかサニーとかじゃなくて、咲ちゃんの個性が出る感じの船にするんですか?」
「まあそのつもり、とりあえず行ってみよう!」
という訳で、放課後クラブの3人は、最未来歴5年へ大転移門を使って旅立った。
新しい船を作る旅に出かけた。
現実世界、西暦2037年11月10日、15時10分。
多想世界、最未来歴5年、第1の街ライデン。
「この街に、飛空艇と時空転移について詳しい人いたっけ……?」
「私の知る限りでは居ないな……探すしかないか……」
「住民票に検索かけましょうか?」
アセンブラくんが機械種らしく良いことを言ってくれた。今までGM権限ばっかり使ってたからありがたい。
その提案はありがたかったが、咲はあることに気がついた。
「……、まあ、検索かけるのはありがたいし。良いんだけど、時代が100年跨ぐと、ほぼ知らない原住民の人しか居ないってのが、不便だね……。まあ1億年前後って時点で不便だけどさ……」
「あー確かに、原住民居ないもんなあ~。まあ最未来歴で放課後クラブが出会ったのは、脳筋漢ズのプレイヤーだけだし、原住民にはまだ会ってないが、100年超えると居なくなるのキツイな……」
受け継がれる意思、というか情報の聖火リレーをするのは良いが、それにしたって必要なリレーバトン人数が多すぎるのが現状困りものだ。
「寿命が長ければバトンも減るよね?」
「今は、不老不死には興味が無いんだよなあ~、エルフとかドラゴンとか……、精霊はまあ仕方がないんだけど。木の巨人〈トレント〉あたりが良いところなんだけどな。あいつら木の寿命だろ?」
リアリティを追求するあまり、GMは不老不死というチートにはあまり興味がないようだ、あくまで寿命で死ぬが、受け継がれる何とかを見たいらしい。
現実の長寿の大樹だと、1000年から5000年近くになる。
「お姉ちゃんの要望を全て満たすと、寿命5000年のトレント種族で、博学で、飛空艇や時間転移に詳しい、最未来歴の原住民を探していると……欲張りだねえ~」
咲は呆れる。
アセンブラくんが、その方向性で検索をかけてくれる……。
「少しだけ時間かかります、少々お待ちを……」
ということで天上院姉妹は長寿のトレント種族を探すため、少々待つ事にした……。




