第697話「結・咲VSシルフ、決着」
謎の乱気流により、外部からの障害は一切遮断されている、雑念が入ってこない非常に良い空間で、かなり集中しやすかった。
「……やはり、外が気になるか?」
「……ええ、やっぱり少し気になります」
さっきの精霊礼拝堂の外側からの兵隊達の悲鳴、姫とアセンくんが向かっていったが結果は観えない、気配で感じることは出来ないので目視による観測も出来ない、なので憶測になる。
「でも、コレも試練の内なので……!」
再び前に片手剣2本を構え直す咲。
「そう思ってもらえて光栄だ、本番ではもっとキツイ状況下に放り込まれるからな」
解っているような口振りは依然減らず、涼しい顔でステータスMAXの攻撃をするりと回避するシルフ、当たらなければどうということは無いらしい。
咲の、連撃による斬撃も虚しく空回りする。風の基本技〈風になる〉、ただ風で物理攻撃を靡く様は、さながら闘牛をひらりマントで捌いてゆくようなものだった。
故に、どのような攻撃をしても当たらない。
ティシュペーパーに全力の拳パンチをしてもティシュが痛く感じない様に……。
「……あなたの攻撃技って、ウエザーボールしか無いの?」
「ふむ、無いことは無いが、私の風攻撃はどれも広範囲殲滅型なのだ、無理にやりすぎると礼拝堂が荒野になる」
と、非礼を詫びてからする攻撃は衝撃波。
「なので、〈ただの熱風〉で許せ!」
それは、自然型の心氣を乗せたスキル〈ただの熱風〉だった。広範囲の風に巻き込まれ、当然熱風に当たる咲。
心氣を使っての攻撃なので即ち武装色、必ずダメージが通る攻撃に転じていた。
「クウ……!?」
咲は熱さに顔を歪ませ暑い汗を流す。
「では次は、〈疾風の爪〉だ、お前が未来を予測しても、私はその先をゆく」
「!?」
ただの熱風によるダメージは継続している、更に疾風の爪により先制技が使えず、出鼻を挫かれる。
一歩先に行動しようとしても、その一歩先に行動されるのだ。
なので手数による連続攻撃も、開幕前の予備動作で相殺される。
「やっば!? どの攻撃も行動キャンセルされる!?」
やはりパワータイプというより、通常技でジリジリ削ってくるタイプのようである。
「ウエザーボール」
ただの風が、ただの熱風の塊となり、弾丸の様に放たれて咲は食らう。
まさに変幻自在の風質だった。
「連鎖する光の聖剣!」
今度は自分が特異な文法型の心氣を纏って文字の限りを尽くした物量特攻型で攻める咲。大量の文字列による、理論上回避付加の文章を構築、シルフに光の5連撃が当たった。
「ふむ、極白では突破不可と考え心氣で押してきたか」
「あんまりここで長居もしてられないのでそろそろ決着にします! 文法型の心氣付加の! スキル! 超天元突破・巨神殺し!」
「面白い! では我は。善なる白風と、悪なる黒風を混ぜだ、ウエザーボールで相対しよう!」
両者、発射、瞬間、衝撃音。
そして、決着。
「ふむ……、まあこんな所か。お前も本気を出してなかったようだしな、余興としては中々に楽しめたぞ、HPを半分持っていかれた」
咲のHPも半分だった。お互い全力を出し切れては居ないが、力を示すという意味では合格点だろう。
「ふー、あっち……!」
咲も、真昼ノ剣と真夜ノ剣の魂全開放、全王型の心氣、エボリューション・極白とか、色々と無茶苦茶なチート事件はしなかった。
あんまりやりすぎると、謎の乱気流を超えて、精霊礼拝堂を壊してしまう、というのも少なからずあったからだ。
「……引き分けか……」
「それでいいなら、私はこれ以上追撃しません……!」
咲もシルフもまだ余力はある、が、こんな所で全力を出し切るのも惜しい、というのは2人の総意なのだろう。
「では召喚協力に応じよう、いつでも、どこでも、どんな方法でもいい、適当に我を呼べ、さすれば適当に、我が力を振るおう」
何とも風の精霊らしい気まぐれな態度である。
「よかった! じゃあ試練は合格ね!?」
「ふむ、妥協点、落とし所としてはこんなものだろう」
謎の乱気流による結界が緩み、凪状態になり、役目を終えて、消えた。
《咲は、大精霊シルフ・デルタストリームとの、召喚術協力を得ました!》
咲と姫とアセンブラの3人は合流した。
「いや~ちょっと手こずった~ごめんごめん……!」
「終わったみたいじゃな!」
「お疲れ様です!」
これで、咲とアセンブラくんの攻撃力での心配は無さそうだ。
「あとはお姉ちゃんの攻撃力か~」
「あー、それは考えてなかったな。じゃあその辺の喫茶店でお茶でもしながら今後の作戦会議しようぜ~」
そう言って、第2の街雲の王国ピュリア、聖霊大聖堂を出て行き、そこらへんの喫茶店に入って行った3人であった。




