第695話「承・昼と夜と、その狭間で舞う」
現実世界、西暦2037年11月9日、20時10分。
多想世界、第2の街雲の王国ピュリア、精霊礼拝堂門前。
姫は戦闘を開始する直前。咲とシルフの前で、別の作業をアセンブラくんとしていた。目的は、NPC・AI専用、全体掲示板。を作ることである。
NPC達は、街と街の間の伝達手段も無い上に、今回のベントでは時代を跨ぐ。そして元滅種のに対して攻撃が通るのは原住民だけと言うルール上、NPC達のコミュニケーション無くしてこのゲームの攻略は有り得ないと思ったからだ。
そして何より。
考えてみれば、プレイヤーは全体掲示板を使えるのに、NPCは使えないというのは不平等でおかしな話である。
なので、姫はアセンブラくんと協力して、NPC達との全体掲示板を作る運びとなった。このプレイヤーの全体掲示板の責任者は天上院姫。NPC達の全体掲示板の責任者はアセンブラくんという形で最初は取る……。
とりあず、咲&姫達が、今まで出会ってきたフレンドに対して、この掲示板を開けて、繋げた。
NPC達から見たらいきなり知らないウインドウが出てきてびっくりすることだろう。
◇
NPC・AI専用、全体掲示板。
マナーテンプレ。名前、所属、年代、場所、を書いて下さい。
アセンブラ、放課後クラブ、今現在歴2037年、第2の街雲の王国ピュリア。
【という訳で、僕、機械種のアセンブラがここの掲示板の管理・運営を任される形となりました、改めましてよろしくお願いします……!】
アリス・ディスティニー、最果ての軍勢、最古来歴6年、第1の街ライデン。
【ふふ、自分より未来の人達と会話出来るなんて夢のようだわ、よろしくね……アリスよ!】
喋るうっぴー、なし、今現在歴2037年、第1の街ライデン、草原。
【ぬおわあ~~!? 何ですかコレわああ!? えぇ!? 遠くの人と喋れるのデスかぁ~~!?!?】
ゴッドジーラ、なし、最古来歴2001年、不明。
【何だジゲンドン居ないのか、まあ、あいつは今ケイドロの泥棒役やってる形だしな、そりゃ姿も表さねえか】
シルフ・デルタストリーム、なし、今現在歴2037年、第2の街雲の王国ピュリア、精霊礼拝堂。
【ふふふ、いきなり我が部屋に入ってきて急にこんな物まで用意するとは、全く異星人というものは身勝手極まりないな】
イレギュラー、なし、亜空間歴5分20秒、第1の街ライデン、ゲームセンター。
【何だ、こんなところが出来たのか、コレだったら司令塔として皆に伝令出しやすいな】
◇
大精霊シルフ・デルタストリーム。
〈謎の乱気流〉が発生しさせている中での暖かい風、自然回復のスキル〈ウインドヒール〉は中々に快適だった、小精霊達が酸素を運び、過ごしやすい空間を提供してくれている。精霊礼拝堂に循環する優しい風は、敵の錯乱と防御とともに、味方の緊急時の回復拠点にも役に立っている、天然の要塞と化していた。最も、今は対戦相手なので、ただ〈待っているだけなのもアレなので回復してあげる〉と言う状況下でもあるのだが。
長旅でスタミナ切れしていた放課後クラブにとっては嬉しい語算だった。
謎の乱気流下で、通称〈元の種族〉にとっては、安全が保証されているので絶好の〈元気を回復するタイミング〉となっていた。
「ふふ、すぐそばでコソコソと何やらやっているようだが、我には通用せぬぞ、小さき花達よ」
大精霊シルフは、いきなり現れたウインドウに対しても動揺しない。
対して咲は……。
「はあーー!!」
――昼と夜と、その狭間で舞う。
「光よ! 連鎖する光の聖剣!」
真昼ノ剣と真夜ノ剣が魂の共鳴をする、フルスロットルの記憶完全支配術だ!
「風よ! ウエザーボール!」
まるで環境に合わせるかのように、状況に合わせた風の空気感の弾丸・否、螺旋丸を5発放つ大精霊シルフ。
両者相打ち、力が拮抗している、5連撃と5連打は、相殺され、あたりに衝撃波が鳴り響く。
衝撃波で咲はダメージを食らうも、謎の乱気流、ウインドヒールが体力を少しづつではあるが微量に回復し続けてくれている。
「まさかこれで終わるなよ? 花の子よ……我を楽しませろ」
依然、悠々と余裕を浮かべているのはシルフ。
「当然! 最近、元滅種のせいで私の本来の力出せなかったもんね! なら、ここらで暴れないと! 暴れ足りないんですよ!」
咲も安全と元気が有り余っているの余裕の表情を浮かべ、両手剣を前へ構え直す。
「久々にやりますか……、溢れ出る魔力よ! 限界を超える! ハアァー! エボリューション・極黒!」
ゴウンッ!
大気の震えとともに、咲は進化する。HP・MP・攻撃力・防御力・素早さ・賢さが9999のMAX状態になる進化形態だ。
「そんなコケオドシの数値で、我に敵うと本気で思っているのか?」
この世界では数値が全て……とは限ら無さそうな言い様である、事実この世界は簡単な数値の上下で勝敗は決まらない。それがエレメンタルワールドだ。
「思ってません! なので、最初の接近戦はコレで見定めます!」
瞬間、両者急接近!
そして、剣撃と風撃の乱舞が手数任せで吹き荒れる!
――謎の乱気流の内部は暴風雨と桜吹雪で満たされた――。
――再び、昼と夜と、その狭間で、花と風が舞い踊る――。




