第693話「結・お姉ちゃんの全王型の心氣〈弱〉」★
現実世界、西暦2037年11月9日、19時20分。
多想世界、亜空間歴5分10秒、放課後クラブギルド本部、訓練場。
「イフリート! シルフ! ノーム! ウンディーネ! が、召喚術により現れ! ドバンガシャンドガガガガっと敵に攻撃を加えた~~~~! 私の勝ち!」
「……て、なったらいいなあ~って話だろ……?」
咲が架空の召喚術を口頭で虚しく叫び、姫が出来ない事に対してツッコミを入れる。
「……そう」
現実は非情である。眼の前には翻訳アンノーンの〈たいあたり〉攻撃で地味にポカンポカン、と元滅種に攻撃をヒットさせるテイマー咲の姿があった。
当たらないよりかはマシ、という感じである。
ダメだこの主人公、弱すぎる……。
モンスターとの絆も全く無いので信頼も築けず、弱小攻撃の連発だった。
ポカポカと連続体当たりを20回ぐらい続けてようやく練習用のザコ元滅種1体を倒せた。
《ザコ元滅種を倒した! 小さな仮想を手に入れた!》
《翻訳アンノーンがレベル2に上がった!》
申し訳程度のレベルアップである。根本的解決策になっていない。
咲には決定打となる、攻撃力が足らなかった。
「お姉ちゃ~ん! 心氣でどうにかならないの? コレなら相手の自然系能力者も攻撃当たるんでしょ?」
「それじゃつまんないじゃん! 上位の全王型以外発動しても無効化だよ、結局プレイヤーが発動してるじゃん」
つまり、自然型、文法型、環境型、色彩型の〈心氣〉は、元滅種全般に対して、〈効果がない〉らしい……。
まさにプレイヤー殺しの種族であった。
「くっそー、マジで私達、〈元の種族〉を滅しにかかって来てるじゃないか……」
これはもう正攻法で、大精霊と召喚契約したほうが速いかもしれない。
この世界の原住民、原生種族じゃない本気で効果が無いらしい。
「私の流れ的に、会ったことあるのイフリートぐらい何だけど、イフリートに召喚契約持ち込めばいいの?」
「いや、お前の場合結構特殊だから、とりあえずシルフから契約したほうが良いかもしれない、そうなってくると第2の街、全サーバー開放の時期かな……」
咲の提案に対して、GM姫は真面目にそう答える。
……、話は変わって。
「……、素朴な疑問なんだけどさ。この世の神様、創造神としてのお姉ちゃんの全王型の心氣ってどれぐらいの威力なの……?」
「……え? だ、出したこと無いな……(汗」
アセンブラくんも興味津々である。
「わ、僕も知りたいです! 良い測量体験になると思います!」
データとしては願ってもない測量観測体験になると思ったのだろう。
咲のワクワク想像力は止まらない。
「だよね!? 多想世界どころか現実世界も余裕でぶち抜くよね!? マルチバースに存在する全てのお姉ちゃんが全王型の心氣放ったら何が起こるか未知数過ぎて凄く気になる! 信仰力も今までの〈おこない〉のせいで滅茶苦茶貯まってそうだし!?」
めっちゃワクワクしてる咲。だが、姫はそれに対して焦る。
「いやw ワクワクしてるところ悪いがそんなのやる理由がないぞ!? 第一めっちゃ大反響しそうでビビるんだが!?」
四獣王ゴッドジーラでアレだし、戦空や夜鈴の〈本気〉は何度か見たから解るとして、星明幸=ミュウ=天上院姫としての、心のエレメンタル=全王型の心氣は今の今まで誰も見たことがない。マジで見たことがない。
「じゃあさ! お姉ちゃんの全王型の心氣〈弱〉を、あの山に向かって〈ヤッホー〉してみてよ! 何でもいいからさ! やまびこヤマビコ!」
眼の前にある、何の変哲も無い山に向かって咲は指さした。
「ええぇぇ~~~~~~~~………………、……じゃあ小声でチョビっとだけ出すぞ……?」
「うんうん、あの山に向かって!」
「……まあやるのはいいんじゃが、マジで何も責任取らないからな?」
本当に責任は取れないと言いたそうである。
と、言って、天上院姫は大きく深呼吸して、呼吸を整えてから……。
「にゃ、にゃ~~~~ん……」
彼女の存在という個体が、全王型の心氣〈弱〉を放った。
と、まるでガス抜きをするようにプシュー……っと響かせた、……が、控えめに描写して、山がエグレた。
感想戦もここまでにしておいて。
……、話を戻して。
話が第2の街に居る、大精霊シルフの話題に話が膨らみそうになったので、その前に〈天文台〉の件について片付けようと思った姫。
第2の街に行くということは、全サーバーの第2の街の解放条件を満たせたので行けるようになるという意味である。そうなる前に済ませておく用事がある。
「……軽く調べた感じ、天文台は街の光から離れてること、山頂に設置するのがいいって書いてあるな……」
「なら放課後クラブギルド本部は丁度いいじゃない、距離的に街から離れてるし、あとは山頂って条件だけだ」
更にAIを使って天文台の知識を深める姫と咲。
「ん~とりあえず、マヤ文明の天文台〈カラコル〉って名前にするか、設置する前だけど」
「あとは、放課後クラブギルド本部の山頂の、最古来歴、今現在歴、最未来歴のどの時代に設置するか、だよね? 亜空間歴じゃ星無さそうだし……」
そういえば、亜空間歴の空には、太陽も月も星も無い、不思議な空間だった。
何処から光って明るいのか謎だった。ちょっと時空が歪んでる、灰色の景色になっていた。
「ん~、何が起こるか解んないから、とりあえず最古来歴8年に天文台〈カラコル〉を立てるか」
「そうだね、それでいいと思うよ」
現実世界、西暦2037年11月9日、19時30分。
多想世界、亜空間歴5分15秒、放課後クラブギルド本部、訓練場。
《最古来歴8年、放課後クラブギルド本部の山頂に天文台カラコルを設置しました!》
「……、んじゃ、雲の王国ピュリアに行く流れになったから、第2の街の解放条件を満たせたってことで、開放するぞ?」
「りょうかーい!」
《イベントが進行しました! 最未来歴、最古来歴で第2の街雲の王国ピュリアが開放されました!》
「んじゃ、第1の街に一回行って、調査報告書、ギルド本部に届けるか」
「そうだね! 小まめにレポートは大事だね! あ、その場合、今現在歴2037年になるのか」
「えっと、僕も行くんですよね……?」
姫と咲とアセンブラくんは出発の身支度をする。
そういうわけで、一回、ギルドの受付嬢の所まで転移して行くのであった。




