第691話「承・亜空間サーバー」
《ログアウトしました、お疲れ様です》
現実世界、西暦2037年11月9日、17時00分。
次回という名の最未来歴3年は、はかなり長期間深く潜りそうな予感がヒシヒシと伝わって来たので、一回現実世界にログアウトし、PCの〈電源もオフ〉に〈手動操作〉する天上院姉妹。
滅茶苦茶作り込まれた世界観になってきたが、夢中になりすぎて帰ってこれなくなるのも、また困り物である。
閉じていた瞳を、両目ともパチリと開ける。半分閉じる、半分開ける、というややこしい表現ではなく全開きである、開眼だ。脳と手信号による電脳世界は、前回と比べて大分快適だった、痛みがゼロだったかと言うとそこは怪しかったが……。
ベットの上から起き上がり、今まで使わなかった〈両足〉で、地に足ついて立ち上がる2人。
天上院家、普通の人間の2人。ただし神降ろしは出来るという特異な2人。
姉妹二人しかこの部屋には居ない世界で、姉妹は雑談&談笑する。
「お姉ちゃんはスズちゃんに対して過保護だよね」
「わしは過保護じゃないよ、めっちゃ愛しいからイジメまくってる方だよ」
「ダメ&ボツ設定のカテゴリージャンルじゃん……」
姫は姫で、まだ自分が作った神話体系の尾ヒレを引いている――。
話は鈴の湯ガーデン近辺、桜愛夜鈴ちゃん関連の〈昔話〉から始まった。
最も、この昔話も理解者でなければ理解するのも一苦労だが。
何せ〈語られない神話〉の話をしているわけでして、シークレットボックスの中身を知っていないとこの話題にもついて来れない……。
姫は現実世界でも、多想世界の話題を話す、思想の境界線がかなり曖昧だった。
「まあ面白い作品を作るための試行錯誤はその辺にしといて、始祖って意味ではアリス・ディスティニーの近くに置いておくのが安全牌だな」
「でもさ、最古来歴と今現在歴の〈間〉って食われてるんだよね? ジゲンドンに」
「第一次元滅種大戦の事か? そこはまだ観測してないから何とも言えんのう」
多想世界で出来る話題を現実世界でもする、醍醐味と言えば醍醐味だろう。
「でも、この調子じゃいつかは行くよね?」
「だが今じゃない」
「ほむう……」
この世界のお外の太陽、夕日はもう沈みそうになっていた。
「ん~、夕方の5時か~~、フロとメシ食って、あと神速で〈亜空間サーバー〉も用意するから2時間待って。夜の19時から21時までログインしよう」
「おっけー、2時間だね~、ちなみに亜空間サーバーって中身どうなってるの?」
「今のところ、他の暦は〈年単位〉で動いてるけど、こっちは〈分単位〉かな、〈加速度等倍〉にしようと思ったけど、等倍なら今現在歴があるから必要ないし。だったら普通の人間なら出来ない事やったほうが良いよねってことで」
咲は姫の話とこれまでの経緯を統合して思考する。
「つまり、さっきまで1年単位でワンアクションやってたけど、亜空間サーバーは1分単位でワンアクションになるサーバーってこと?」
「そゆこと!」
「おおw ややこしいややこしいw そこが放課後クラブギルド本部の亜空間になるわけね?」
「そゆことそゆこと! 一応〈亜空間歴〉とは表記するけど歴なのかよくわからん……w」
これで、エレメンタルワールドのサーバーは全部で4つとなるわけである。
「確認だけど、私達がギルド本部にレポート報告する時の表記は、〈亜空間歴1分、何かしたという内容……〉みたいな感じ?」
「そうそう」
まあ姫のやりたいことの意図は理解できる咲、上手くいくかは不明だが……。
咲は17時という絶妙なスキマ時間を使って20分散歩することを決意する。
「じゃあ、フロとメシの前に、散歩行ってきますわ。ちなみに最未来歴3年で地震ゼロの洞窟を通るじゃん? ルート的に、凍結した四獣王ゴッドジーラってどうなってるの?」
姫っはスマホ片手にゲームマスター権限を使う。
「ログを見る限り〈てきとうな時間を経てから凍結状態のまま移動を始めた〉って書いてあるよ、流石に2億年間凍ったままだと飽きちゃって、どっか遊びに行ったんじゃないかな?」
「……詳細は?」
「……書いてないからランダムっぽい」
何とも歯切れの悪いランダム要素である……。
「ふーん、じゃあ一回休憩って事で各自自由行動の解散ね」
「まあそんな感じで自由時間ね~~」
そんな感じで、現実世界でやることを済ませる形となった。
◇
《ログインします、お帰りなさいませ》
現実世界、西暦2037年11月9日、19時00分。
多想世界、最未来歴3年、放課後クラブギルド本部。
姫は咲に、ギルド本部を亜空間サーバーに繋げる事の了承を取る。
「じゃ、とりあえず亜空間サーバーにこのギルドを繋げるぞ?」
「ほいさっさー」
というわけで、テンジョウ2の機能により、脳と手入力の最終意思決定を確認した。
《亜空間歴1分、放課後クラブギルド本部と亜空間サーバーを繋げました!》
姫は咲に次の行動の確認を取る……。
「次、イレギュラーをギルド本部に招待するのか、ゲームセンターごと亜空間サーバーに繋げるか……」
「ゲームセンターごとで良いんじゃない?」
「じゃな、ドアの世界を使おうと思ったが、サーバー繋げるほうが楽そうだし、決定」
《亜空間歴2分、イレギュラーの居るゲームセンターと亜空間サーバーを繋げました!》
今はまだ、イレギュラーと話しても何もやってないので自然放置する。
もういっちょ姫は咲に次の行動の確認を取る……。
「次、とりあえずこの時間帯で機械種を生成、設置する。でいいよな?」
「まあ最初は亜空間歴で生まれたってことになるけど……良いと思うよ?」
というわけでこれも決定ボタンを押す。
《亜空間歴3分、放課後クラブギルド本部内で、機械種を生成しました!》
「で、次は機械種を5体生成。4体は最古来歴7年、鈴の湯ガーデンへ、始祖の神楽スズを4体の機械種に見守ってもらう、だったな」
姫の処置に咲は呆れる。
「機械種2体でパラドックス時空も何とかなったから4体居れば大丈夫という過保護っぷりである」
「で、残り1体は咲のマブ戦略に組み込むバディーNPCだ。プレイヤー2人1組で元滅種に挑んでも決定的ダメージを与えられない。ので、少年型の機械種NPCを咲のパートナーに置く……と」
《亜空間歴4分。機械種を5体生成、4体は最古来歴7年、鈴の湯ガーデンへ派遣。1体は天上院咲のパートナーとして設置しました》
姫は一通りの下準備、お仕事を終えた。
「えっと、とりあえず作業はこんな所か、咲、名前決めて」
「ん~少年型機械種くんの名前か~~……、アセンブリ言語くんだと呼び名としては言いづらいから〈アセンブラくん〉って言うわ」
咲は、ビット列命令に対応した文字列命令を利用する低水準プログラミング言語の総称の名前を付けた。
「あと1つ、ギルド本部に訓練場を設置して、天文台は知識がないからまだ時間がかかる……ので保留」
「りょうか~い!」
姫は咲に設置の有無を確認し、天文台だけは後回しにした。
《亜空間歴5分、ギルド本部に訓練場を設置しました!》
とりあえず、目的だったやることリストは大体消化できた。
「ちなみにこの亜空間サーバーって一般のプレイヤーって入れるの?」
「ん? うん、入れる入れる。放課後クラブの繁栄のためにも入れなきゃあかんし、別に特別入っちゃダメということはないよ」
そんなこんなで一段落ついた。




