第687話「承・初心者に手とり足取り」
最未来歴1年、ギルド『脳筋漢ズ』の呼び声で、修行に励んでいる新人冒険者は図書館の中にも結構居た。皆、この世界の歴史とか文化を再度洗い出して情報共有しようとしている。
咲はステータスウインドウを開き、放課後クラブ親衛隊の一応リーダーに任命してるシャンフロが馬に乗っている事を確認した。
「あーシャンフロさん、今乗馬してますね~、確かに〈追う〉という意味では効率良いかもしれませんね、いつのどこを走ってるかは解んないけど……」
姫も最未来歴1年の歴史書を漁りながら、その話題に乗り、話を弾ませる。
「あー確かに今のワシ達の動きって新人たちにはキツ過ぎるよな、いい例として〈乗馬して追う〉はアリだな」
狙ってる大ボスエネミーを〈馬〉と〈生物〉と表記した以上、馬を表現するのが一番手っ取り早い、あとは他プレイヤーのプレイング見せ所だろう。
「今ってさ、乗馬で例えるとデッカイ馬が3本の道を縦横無尽に横断してる感じだよね? 真っ直ぐな道3本をジグザクに移動してる感じ」
「じゃな、時間軸を1本の線、道路と例えても3本あるし、途中で卵生むわ育つは、成長するわ、文化遺産食うわで滅茶苦茶だもんな」
あと咲は道路は真っ直ぐと表現したが、何なら3本の道路もグネグネとカーブしてるのでそこも難解さを極めていた。例え話だが。
「その中で全体掲示板があって、トランシーバーみたいに全体で情報共有してる感じだよね」
「じゃな、点で情報を手に入れて、線の歴史を知って、3枚の面をプレイヤーは情報共有してる感じ。まあプレイヤーはそれくらいやってもいいと思うぞ。あいつら、四獣王ジゲンドン含めて、元滅種はプレイヤーに対して無敵なんだ。こうでもしないと釣り合わないよ、この大規模イベントは……」
〈コース〉の〈長さ〉、歴史的時間軸の長さも難しさに拍車をかけていた、むしろ簡単な所を探すほうが困難である。
人間、特に場外乱闘の現実世界では〈今現在歴〉でないと観測や行動も出来ないところも難解さを極めていた。〈ただの人間〉にとって〈今現在歴〉じゃあないと〈生物〉に対して攻撃が通らないのも難しい所だろう。
本当に例え話だが。
3本の道路というのは3本の歴史、〈最古来歴〉〈今現在歴〉〈最未来歴〉の事である。その中でも分岐するし、左右上下・逆や不可逆に揺れるし、ジゲンドンは道路ごと横断するし、マルチバースで走ってる時、途中で道路の質、路面の地形も変化するし、他者から見たら中々にプレイングが難しい〈コース〉ではある。
慣れてない人は〈マ○オカート〉の〈コース〉が〈ずっと3本道路ある〉と思えばイメージが掴みやすい。その中でお邪魔アイテムがあったり……色々だ。速さや順位を競うかどうかは知らないが……。
「じゃから、〈解んなかったらとりあえず馬に乗って追え〉ってのは初心者向けだ、いや中級者むけでもあるが……、ムズいもんな今回のプレイング」
「今回の限定イベントだけかは解んないけど、とりあえず今はそんな感じだよね」
だからこそ〈今までにない新しいコースだ!〉て事で燃えるプレイヤーも多いだろう。むしろ燃えないで冷めるプレイヤーは今回のゲームは振り落とされるに違いない。
咲は、新人冒険者が聞き耳を立てているので、素知らぬ顔で咲はアドバイスを新人ではなく姫の方に向けてする。
「今ってコースで言うとどこだろう? 桜並木の直線コース?」
「……、まあそんなにお邪魔がない緩やかな直線コースだな、桜の木もあるし」
図書館の中なのに桜並木の例え話とはこれいかに。
咲は初心者のつもりだが、……実際プレイングはエンジョイしたいだけの初心者だが、最長文学少女と呼ばれている以上、流石にもうルーキーとは言えないだろう、新緑かもしれないが。
一通り、初心者に対してレクチャーを終えたので、再び歴史書の海に潜る姉妹2人。
「あと、目ぼしい情報無いかな……?」
「特に無いが、……素朴な疑問として、この歴史書を作った奴はどうやって〈観測〉したんだ? 第一次元滅種大戦も第二次元滅種大戦も、時間と空間ごと亜空切断されて食われたんだろ? ナイフと料理みたいに……なら、どうやって見て、どうやって歴史書に書き記して、この最未来歴に〈残せた〉んだよ?」
確かに、普通の人間では不可能だ、普通の人間は時間と空間の檻の中からは出られない、内側から食われているはずだ。まるで小魚を海水ごと飲み込むクジラのように……。
「あーそれは俺達だ! 食われる瞬間しか観測出来なかったがな! ガハハハ!」
横には、ギルド『脳筋漢ズ』の4人、ジャンプ・マガジン・サンデー・チャンピオンが居た。何故か自信満々で言われた。
つまり、四獣王ジゲンドンによる〈お食事〉に、プレイヤーは対象外らしい。
「俺達が得意なスキルは〈転写〉だ!」
「プレイヤーが観測して、転写してこの世に残した!」
「最初はコピー機も無くて苦労したがな! ここの原住民と転写を使いまくって図書館を作った!」
ジャンプが言う。
「最未来歴の先はまだ時空間ごと食われてないからな! だから歴史書を作って、第1の街の防衛体制を整えれば、そんなに無理なく守り、保存することは可能だ!」
勿論、元滅種に対してプレイヤーは無力なので、原住民のNPCを相当な人数鍛えなくては防衛もままならない。
それがあっての図書館と歴史書の保存だ。
「だからこの1ヶ月は原住民の強化に全力を注いだってわけよ!」
咲はなるほどと感心する。
「なるほど、理にはかなってる……か」
姫はこの1ヶ月の世界情報を知るために聞く。
「ちなみに原住民を何人育てたんじゃ?」
「10万人だ!」
「現実世界で1ヶ月経ったから今では第7の街まで配置済みだぜ!」
「図書館も第1の街だけじゃ心元無かったから7箇所に設置済みだ!」
10万人の原住民の戦力と図書館7箇所を1ヶ月間で作っている事に関して驚きを隠せない2人。
「10万人!?」
「7箇所!?」
とりあえず、また時間と空間ごと食われる訳にはいかないなと思った咲と姫の第1印象。
「あー、じゃあそこに力を入れすぎて建物はあんまり進化してないのね……」
「ちゃんと発展する土台は作られてる訳か……」
まさかこんなに立派な図書館を作っているとは思わなかった……そう、〈本〉で。
「あ!?」
「ん、どうした?」
「そう言えば私達〈心氣による記憶デバイス〉の件! まだ皆に伝えてない!?」
「あ!? ああああああああああああああああああああああ!?!?!」
そうだった、企業秘密って事で、約2000年間記憶保存出来た実績と方法を、まだプレイヤー達全員に共有していない。このままじゃ、約100年後に図書館文明が崩壊する……!?
「ん? 心氣による記憶デバイスって何だ?」
ジャンプが素っ頓狂な表情で聞いてくる。
「ほらやっぱり知らないじゃん!?」
「うわあああ!? やっちまったー!?」
ジャンプにとっては訳がわからない。
「ん? 心氣は俺達も使えるがそれがどうした?」
ジャンプはまだ心氣を攻撃手段としか見ていない。
「どどどど、どうしようお姉ちゃん!? 皆こんなに頑張ってるのに……!?」
「言おう!? とにかく言わないと何も始まらない!? 遅かったとしても言わないよりかはマシだ!」
「?」
というわけで咲と姫は。地震0の洞窟と、岩石の箱と、岩石の記憶デバイスを文法型の心氣に打ち込むと、約2000年間保存が効くよ。と伝え、共有した。




