第685話「結・多想世界とアリス」★
現実世界、西暦2037年10月8日、17時00分。
「さて、申し訳程度に〈仮想世界〉という文言を変えなきゃいけなくなりました」
GM姫は申し訳程度に棒読みで言う。
「内容的には〈眠りし心を開放する力〉で何も間違ってないが。幻想・空想・夢想の〈素材〉やアイテムがある世界で大体問題ないけど、その場合〈データの世界〉と言うより〈多想世界〉になるのかな……?」
咲は、自分の記憶の限りを尽くして、良さそうなアイディアを思い出す。
姫は記憶を辿って歴史を読み取る。
「そうじゃな、仮想を知ったのは〈夢の世界〉を知った後じゃ、流れ的には。全部繋げると、咲の冒険は〈仮想の素材〉を集めまくったって形になる」
咲は腑に落ちないがありのままを受け入れることにする。
「むしろ仮想の素材ばっかり集めて、幻想、空想、夢想の素材はほぼ集められなかったって事か」
「全体論で言うとそうなるが……まあ知らなかったんだから仕方ない」
姫が咲の事を申し訳程度にフォローする。となると今後も〈想〉は増え続けるだろう……。
「なら〈多想世界〉で良いね!」
「そうじゃなあ、それが一番伝わりやすいし、ここに個性や面白さを出しても意味ないじゃろう」
とりあえず文言自体はこのあたりで決まったようだ。
「これで問題は一安心?」
「たぶんな、あとは〈テンジョウ2〉で〈多想世界〉の〈エレメンタルワールドサーバー〉にログインして、体調が悪くならなければ成功だ」
理論上は何とかなりそうであるので、一泊休憩を挟む2人……。
流れ的に現在確認できている素材は、幻想・空想・夢想と、その後に発見されたのが仮想・元想・次想の素材。が歴史的な流れである。
というわけで、余り物の部品で急遽、突貫工事作業をして、試作品のVR機『テンジョウ2』を作って、天上院咲、天上院姫、近衛遊歩に機械を手渡した。
流石に現実世界なので不思議空間からポンポン新作の機械は出来ないわけである、量産と普及には、何より時間が必要だったので、GM姫でも3機分しか出来なかった。
◇
現実世界、西暦2037年10月8日、17時00分。
VR機テンジョウ2、多想世界、エレメンタルワールドサーバー。
最古来歴6年、第1の街ライデンの周辺、地震0の洞窟にログイン。
咲、姫、遊歩は準備万端で〈元滅種に洞窟を食われる前〉にログインした。
姫が出発の音頭を取る。
「とりあえず締まりが悪いからあの元滅種、1回倒してから仕切り直ししようぜ~!」
「おっけー! 今度は負けない!」
「了解した! とはいえこの世界の原住民のアテはあるのか?」
すると姫は首を捻らせ腕を組み、頭を唸らせた。
「困ったことに一人も居ない……!」
自信満々に言うが、3人共プレイヤーなのでチャンスどころかピンチのままであった。
そこへ再び子熊型の元滅種が「ナイナイナイー!」と6匹現れる。
あわやプレイヤー3人が、黒子熊の口と牙で攻撃されそうになったその時……!
「スキル! 〈ディスティニーチェイン〉!」
青光りした〈運命の糸〉が元滅種6匹を強固な縄のようにグルグルと螺旋を絵描いて縛り上げた。
《原住民AI、アリス・ディスティニーが参戦しました!》
その姿は、ギルド『非理法権天』のアリスに似ていたが、どこか雰囲気が違った。
「え!? アリス!?」
「誰ぇ!? この知らない人!?」
「お、何か知らんが〈連携〉の条件を満たせた!?」
咲、姫、遊歩は各々違う色の驚愕の表情を浮かべる。
「説明はあと! あなた達ね! 6年前に〈バカ3人が6年後に突っ立ってるから助けろ〉って『最果ての軍勢』に言われて〈地震0の洞窟〉に居たのよ!」
話を聞く限り、プレイヤーであるギルド『最果ての軍勢』が原住民ごしに助けてくれたらしい。つまり、最果ての軍勢とアリス・ディスティニーには信頼関係が有るということだ。
「この糸は、未来へ続く永劫の糸です! そう簡単には壊れないから! 今の内に攻撃を通して頂戴!」
「何か知らんがアタックチャンスだぞ! 姫! 咲!」
「おっしゃー!」
「わかったー!」
遊歩、姫、咲の3人は各々スキルエフェクトを輝かせ、攻撃態勢に入る。
「強さよ! ブレイクバレット!」
まずは遊歩が銀色のスキルエフェクトと共に、6匹の元滅種のHPを半分ほど広範囲に削る!
「闇よ! 混沌で輝く闇の魔剣!」
続いて連携した姫は、闇色のスキルエフェクトと共に、向かって右側3匹の元滅種のHPを0まで削り取った!
《元滅種3匹は倒れた!》
《大いなる幻想を手に入れた》
《大いなる空想を手に入れた》
《大いなる夢想を手に入れた》
「光よ! 連鎖する光の聖剣!」
最後に連携した咲は、光色のスキルエフェクトと共に、向かって左側3匹の元滅種のHPを0まで削り取り、今ここにいる元滅種全てを討ち滅ぼした!
《元滅種3匹は倒れた!》
《大いなる仮想を手に入れた》
《大いなる元想を手に入れた》
《大いなる次想を手に入れた》
《戦闘に勝利した!》
「や、やったー! 勝ったー! 何か久しぶりに勝利を味わってる気がするー!」
咲は時空を超えて勝てたことへの喜びと初勝利に歓喜した。
アリス・ディスティニーは、変わらず、微笑と共に咲に対して握手をお願いする。
「あなたが噂のリーダー、天上院咲ちゃんね、始めまして。アリス・ディスティニーよ、そしてありがとう……!」
差し伸べられた手は善意の塊のようだった。
「あ、あはは、始めまして、あの……本当に初対面ですよね……? てかありがとう……?」
「ふふふ、その件については内緒です……!」
何故か感謝された咲、含み笑いと共に、咲とアリスは硬い握手を交わした――。
名前◇アリス・ディスティニー
希少◇SR
分類◇最果ての軍勢_不思議の国のアリス_未来へ続く永劫の糸
解説◇ギルド『非理法権天』に所属しているアリスに酷似している謎のAI女性、年齢不明。その正体は最古来歴1年から存在する第1の街ライデンの原住民であり、始祖の不思議の国のアリス。村を元滅種に襲われもうダメかと思われたその時、ギルド『最果ての軍勢』に助けられた、以降大きな恩を感じている。戦闘技術や外交関係なども最果ての軍勢に教わり、以降〈村の発展こそが自分の使命〉だと思っている。
スキル名は〈未来へ続く永劫の糸〉、能力は賢術系〈運命の糸〉、色は青光り色。夢は新米だが〈至高の魔術師〉になろうとしている。
自然型の心氣の使い手。最果ての軍勢に6年間みっちり稽古を付けられたが、自分はまだまだだなと世界の広さを思い知らされる。通称〈軍勢達の弟子〉の1人。
そして最古来歴6年、軍勢の〈お願い〉によりギルド『放課後クラブ』のプレイヤー3名を助けるように言われ。6年間〈地震0の洞窟〉で彼女達を待っていた。大恩ある彼らのお願いだったので〈重大な使命の一部〉だと彼女は思っていた。




