第682話「起・元滅種」
現実世界、西暦2037年10月8日、16時00分。
放課後クラブとしての活動を開始する。活動はVRゲームだ。
「さて、自分達の活動をする前に、ネットサーフィンで他の人達はどんな活動をしてる?」
「一番目立ったのは、ギルド『脳筋漢ズ』のジャンプが〈最未来歴〉に行ったって事かな。何かめっちゃ開拓する気満々な情報が流れてるね」
「ふーん、他は?」
「他は山岳地帯だったり、トンネル掘ってたりで比較的安全牌かな、それ以外の目新しい情報は特になし」
姫はもっと面白そうな情報を期待したが、流石に皆最初は手探りなんだろう、慎重なんだなと感じた。
「ふーん……じゃあ続きやるか」
EW〈今現在歴〉2037年、第1の街ライデン、ログイン。
「そだね、そういえばさ、年表どうやって作るんだろうコレ、速いもの勝ち?」
「プレイヤーはどの時間にも好きにジャンプ出来るからな、扱いが難しいな……」
〈最古来歴〉〈今現在歴〉〈最未来歴〉、過去にジャンプしたら現在も変わるし、じゃあ未来に加入したら現在はどうなるんだ?
「ん~ちょっと情報が足らないな、個人であっちこっちの時代にいちいち飛ぶのもメンドイし、せっかくVRMMOなら協力プレイしやすいように、全体掲示板使うか」
「あーその方がいいかもねー、じゃテンプレ作ろう」
◇
EWサーバー全体掲示板。
マナーテンプレ。
最初に「名前」「ギルド名」「時間軸」「場所」を書いて下さい。
天上院咲、放課後クラブ、今現在歴2037年、第1の街ライデン。
【さっき、最古来歴5年で特殊な方法で情報を1億年後まで保存したよ、今からそれの保存と継承がちゃんと出来てるか確認する感じ。皆は何やってるの?】
ジャンプ、脳筋漢ズ、最未来歴1年、第1の街ライデン。
【こっちは新人育成だ! 大量の新人にドバッと経験値を与える予定だぜ!】
日曜双矢、四重奏、最古来歴1年、第1の街ライデン。
【最古来歴5年って、今俺達が居る5年後じゃん、何やったんだ?】
天上院姫、放課後クラブ、今現在歴2037年、第1の街ライデン。
【ちょっと特殊過ぎる方法で保存したので今はまだ企業秘密、これ上手くいけば金取れるしな!】
桜愛夜鈴、四重奏、最未来歴5年、第1の街ライデン。
【確か各サーバーは約1億年前後離れてるんだよね? そんな長期間保存できる媒体何てあったっけ? 本でも約100年でしょ?】
天上院姫、放課後クラブ、今現在歴2037年、第1の街ライデン。
【そこはまだ秘密じゃ、成功するかも判らんしな! あ、最果ての軍勢、そんな感じで遊ぶからフォローよろ!】
真城和季、最果ての軍勢、最古来歴1年、第1の街ライデン。
【はいはい、お好きに遊んでらっしゃい】
◇
さらっと全体掲示板作って置いたが、皆まだ手探りっぽいな。と咲と姫は思った。
「んじゃ、例の洞窟に行くか」
「そうだね、通称〈地震0の洞窟〉へ行こうw」
「おっと、遅れて悪い、今来たぜ」
近衛遊歩/エンペラーもようやくログインしようだし、3人でテクテク歩いていく事になった。
場所は一応、第1の街周辺のどっかである。記憶媒体の量産体制を整えたかったので、第6の街とか、そんなに遠くには出来なかったのだ。
咲は自分が設置した文法型の心氣がどのように成長したのか心躍る。
「いや~あの洞窟どうなってるかな~、1億年経過してるなら伝承されまくって寺院でも建ってるかな? って夢見ちゃったんだけど?」
「そんなにこのゲームは甘くはないだろ……GM姫的にはどうなんだ?」
「わしは空間という名の公園を設置しただけで。その中でどう遊ぼうが基本ノータッチだからな。その中で何を見聞きして、何を学び、どう成長しろとか命令する気はないよ、むしろ自由に遊んで欲しい。だから、ゲーム内の細かな変化は基本知らん」
と、歩きながら話していたら目的地についた。
が、肝心要の〈地震0の洞窟〉が無い……、いや、無くなっていた。
「流石に1億年後だと地震とかあって崩壊しちゃったのかな?」
「でも変じゃね? 山しかねえぞ? 確かにこの場所なのか? その例の実験を設置した場所……」
「確かにこの場所で間違いないんじゃが……でもなんじゃ? この不自然さは?」
咲も遊歩も姫も頭を捻る……、そこには草木葉っぱ生い茂る山しか無かったからだ、何なら岩もない……。いや、無くなっている。
「む~、これじゃ面白くないな、しょうがない。GM権限使ってこの場所のログ調べるわ」
「いいの?」
「そういや、お前のGM権限を観るの、俺初めてかもしんない……」
姫は「最初だからいいよ」とちょっと困った顔でGM権限を使いウインドウを開く……。
流石に1億年間のログなので、何も無いはずがなく、情報がドバっと出てきたが……。目的の情報がない……もっと過去まで遡っても一向に欲しい情報がない。
「しょうがない、検索するか……えっと、〈文法型の心氣〉で検索っと……」
すると、バカ長いログ欄の中の情報が、一件だけ短く光った。
「あった、これだ、えっと……ん? 食われてるな……」
咲は自分が設置した物が食われた事を知る、だがこれだけではまだ主語や情報が足らなかった……。
「食われた? え? 文法型の心氣の岩石を? えっと、いつ?」
まず、心氣を食ったの? とか、岩石も食ったの? とか箱は? 洞窟は? とか思ったがとりあえず姫の返答を待つ咲。
「最古来歴6年に、元滅種とか言うのに食われてる。実験設置してから1年後だ」
姫が事実というか、そこにある、あるがままを咲に伝える。
それは、自分が育てようとした種が1年しか持たなかったことを意味していた。
ので、困惑する。
で、その直後。自分達の背後の影から〈何か出てきた〉。
「「「ナイナイナー!」」」
そこには黒色の子熊型3体のモンスターが口を広げ、襲ってきた。
〈センス〉がある咲は条件反射で回避した。
「な!? なになになに!?」
「流れから察するにコイツ等が原因か!?」
「そんな都合の良いことあるのか!? 1億年後だぞココ!?」
遊歩と姫も戦闘態勢に入る。見た感じ、いつも通りよく見る、ただのザコモンスターにしか観えない。とにかく戦闘だ!
「連鎖する光の聖剣!」
「混沌で輝く闇の魔剣!」
「ブレイクバレット!」
咲、姫、遊歩はそれぞれ早速手に入れた、光のスキル、闇のスキル、銃のスキルをそれぞれ使った……だが……。
《プレイヤーが光のスキルを使った! 効果は無いようだ……》
《プレイヤーが闇のスキルを使った! 効果は無いようだ……》
《プレイヤーが銃のスキルを使った! 効果は無いようだ……》
と、ステータス欄に虚しく表示される。
「なになになに!? 効いてないってなに!? 折角光の力使ったのに!?」
「はぁ!? 闇の力も効かないってなんじゃこれ!?」
「銃も効かないのか……物理型でも無いってことか!?」
今考えうる最強の力を振るっても効果がない事に、初見では動揺を隠せない3人。
「ちょっとお姉ちゃん何やったの!? HP1も減らないんだけど!?」
「じゃから何もやってないし! 何も知らないんじゃって!?」
「GM権限でどうにかならないのか!?」
3人が3人共試練を乗り越えて来たので、こんなザコモンスターっぽい見た目なのに混乱していた。
無理もない、どんな種類のスキルを使っても効果が無いのだ……。
そうこうしている内に、プレイヤー3人のHPは子熊の牙攻撃でバリバリ削れていく……!
「ゲームマスターがルール違反したら面白くないじゃろ!?」
「悪人がルールを守るなー!?」
「ダメだ!? 何やっても効かねえ!? スキルもアイテムも魔法も効かねえ!? 撤退だ!? 撤退撤収一時離脱!?」
プレイヤー3人は理由もわからず第1の街ライデンまで全速力で逃走した……。
敵モンスターの足は遅く、第1の街まで追ってくることも無かった……。
どうやら戦闘エリア外まで逃げ切れたらしい……。
「ま、まさかこんなに冒険したのに第1の街でいきなりピンチになるとは思わなかったよ……」
咲は落胆とため息をした。
「あー、あの〈元滅種〉とか言うモンスターは、〈プレイヤー〉に対して〈無敵〉らしいぞ」
戦闘が終了したので、心置きなくGM権限でウインドウを開く姫は謎を解読した。
「……、ピクピクニンジンでも引っこ抜いて戦えってことか? プレイヤーじゃ無ければ効くってことか?」
遊歩は、とっさの混乱から冷静になるために、心落ち着かせて対策を考え始めた。
何にしても作戦タイムが必要である――。
豆知識
名前◇元滅種
希少◇R
分類◇元滅種_四獣王ジゲンドン_プレイヤーに対して無敵。
解説◇ 四獣王、ジゲンドンの卵から生まれた黒色の種族、姿形は時代や場所によって様々。いつの時代から生まれたのか正確な年代は特定出来ていない。
文化を食べて生きるモンスター、一応生物らしいので食べなきゃ生きられない、人間の作った文字や工芸品など歴史的価値が高い物を食べるほど腹持ちが良いらしい。
最古来歴から今現在歴の間の文化遺産を根こそぎ悪食してしまう、元となった聖典とかも、匂いを嗅ぎつけ根絶させ、狙う。最未来歴も同じ。
最古来歴5年、地震0の山の洞窟の中に岩石の箱を作り、岩石の記憶デバイスを文法型の心氣を使って保存して設置したら。最古来歴約6年に、洞窟ごと食べられてしまった。
存在ごと無くすわけではなく、ただの食事なので食べた痕跡は時代を超えても残る。が、欲しかった情報は残らずその食べられた時点から継承もほぼされなくなる。
今回の件ではゲームマスター権限でログを遡って観測したが、1億年前の食後の痕跡から情報を導き出すのは普通の手段では困難を極める。
特徴は、〈プレイヤー〉の攻撃に対して無敵、HP1も減らない。
《プレイヤーが光のスキルを使った》
《プレイヤーが闇のスキルを使った》
《プレイヤーが銃のスキルを使った》
などの情報処理が行われ、最強の呼び声高い〈光の力〉ですら、プレイヤーが使うものは効かないシステム設計。
その世界、その時代の人間、NPC、AIなど、原住民じゃないと攻撃ダメージが入らない。
その時代の原住民とプレイヤーの連携や召喚などは攻撃が通る。
鳴き声は「ナイナイナイー!」。




