第677話「結・アプデの時期」
仮想世界にログイン中……。
「今何やってる時間?」
「ん~? 確かザコクエストやってる時間だったと思うけど? 咲Pと」
あーそう言えばそうだったと、我に帰る咲と姫はVRMMO世界にログインしていた。
「そろそろ新しいゲームやりたいね、新しい世界」
「まーそうだけど、この世界を世界一周しなきゃいけない目標もあるから、アプデかな~、そろそろ」
「今バージョン何だったっけ?」
「……、ごめん、本気で忘れた」
「……、設定資料集にも記録してないもんね……検索できないや……」
「は~~……アナログ作業はもう嫌だ~~……」
「最近同じ作業の周回マラソンばっかりだもんね」
咲も姫もこのゲームに疲れていた、一種のマンネリ化なのか、はたまたただ飽きたのか、うつ状態なのかは良くわからない……。
とは言え、姫の方は物語脳というかゲーム脳というか、ドハマリして自分の鏡を見ていたような状態だったので、息抜きに動画配信サイトにドハマリしたのは軽い息抜きにはなったのかもしれない。
その時、姫が感じた印象としては、推しのライバーを見つけて追っかけると、人生にハリが出る、ということぐらいだろうか。何にしても気分転換は出来たようである。
勿論、その間攻略は止っていた。しかし、肉体的にも精神的にも必要なリフレッシュ期間だったと感じるのは、姫の隣にずっと居た咲にはヒシヒシと感じるものだった。
天上院姫にとっての、これまでの流れを説明すると。
自分をただの人間だと思っていたら、実は神様で冗談で、信仰も悪い意味で滅茶苦茶あって、それを知らずに世界を旅したもんだから、収集がつかなくなって、現実と仮想の乖離とかどう説明すんねん? とか、てかどうなってるの世の中? とか、色々あって世界線がズレてたり、宇宙には修正が必要だったとかなんだかんだありつつ、元の世界線に戻って一安心。まったり生の人間の実況動画とか見て笑えるくらいには心に余裕と安堵が生まれて、さて、これからどうしようか? といった感じである。
「元の世界が自分だって解ったのは良いけど、依然として仮想と現実と魔法世界とかの説明とか境界線どうすんねん。とか問題山積みだもんね、こんなに言葉を尽くしてるのに……」
咲は半ば巻き込まれた形なのだが、家族の善神として生きると決めた時から、姫の問題は自分の問題として共有する存在となっているのだ。
「今は意図せずに、全ての世界が繋がってる、みたいな印象だよな? だから余計に境界線がわけわからんと。あと、アプデは物理法則そのものを変更する行為だから、過去ログ残しておかないとわかんなくなるな……、てのは今回のしくじり、反省点だな、残しておかないと未来の自分がわかんなくなる」
「まあこんな長期間滞在するとは思ってなかったしね……」
姫は咲に、現状を嘘偽りなく、包み隠さず、冗談は言わない。というか言えなくなっていた。もう〈大法螺吹き〉や〈大嘘憑き〉なんてなってる余裕はない。
簡単に言うと、今現在の〈真実のみ〉を言っている。そこに冗談はない。
だから、ゲームの進行中、途中で物理法則が変更されることの重大性の是非、なんて、初心者だった頃の自分達には解らなかったのだ。
アプデ内容を残して検索できるようにしておく事の重要性を……。
簡単に言うと未熟だった。
全部残さず消して、リセットとか、セットアップ出来ればどれだけ楽だろうと何度思っただろうか。と姫は思う。しかし、とりあえずインターネット世界には昼も夜も無い。基本的には無い。
「まーアップデートするのは良いんだけどさ、流石にこんだけ大掛かりに軌道修正した後だと、目玉コンテンツとか欲しいよね」
咲は、今までの軽々しい微修正や微調整ではなく、大型アプデをご所望である。
ゲーム的にもシステム的にも、物語的にも「もう飽きた」という事だろう。
勿論、世界マップはまだ全部埋まっていない。埋まっていないのだが、そこへ行き着くまでの、システムやコンテンツ不足、と言った所だろう。
「ま~確かに、普通の世界線だと思ってたらいつの間にかパラドックス世界線でした、何て、運営陣が把握してませんでした。じゃあゲームマスターによるゲーム進行でも、無理が出るよな……」
気がついたら矛盾しかない世界線、ゲーム進行でした。ですがこのまま進めます、じゃあ、何もかも良くなるわけがないわけである。
「おのれトマト~~……」
姫は愚痴をこぼすが、まあ言い訳を言い続けても何も良くはならない、大切なのはこれからどうするか? なのだから。
「とりあえず時間と場所確認するか」
「現在は、西暦2037年10月7日、仮想世界エレメンタルワールド、リュビアー大陸、第五休憩所、温泉旅館鈴の湯ガーデン、その周辺だね……、そこで適当に、咲P達とモンスター狩ってる。てのが今の現状」
「あーそっか、首都、戦乱都市アスカから離れて、今は休憩所、その後は〈西の大門〉が次のイベント場所か……忘れてた」
リュビアー大陸、第二断層山地の第五休憩所は、桜愛夜鈴達が拠点・メインホームにしているぐらい大事な場所なのだが。その記憶を忘れるぐらい、リアルが大変だったので思い出して良かった。
脱線どころか世界線がズレていた事に気がついたのがこの時期である。
で、ゲームマスターはゲーム進行する。
「で、何をアプデしよう……」
問題が山積み過ぎて何から手をつければ良いか解らない状態である。
「分岐世界線が出来ちゃったものはしょうがないから~、EW世界線〈018A〉と〈018B〉の実装、とかじゃない? 同じ世界線なんだけど状況が違う、みたいな?」
「……過去と未来の世界線みたいな……?」
「まぁ実際の中身は後で決めるとして、時間軸増えちゃったんだからざっくり言うとそんな感じじゃない? 行けるサーバーが増えたみたいな」
咲が言いたいのは。今まで、現実世界と仮想世界の1対1だったが〈世界線018サーバー〉と〈世界線018Aサーバー〉と〈世界線018Bサーバー〉の1対3の割合にアップデートしようかな? みたいなアイディアである。とりあえず世界が1個じゃ収集がつかない……、と思ったからである。
ゲームマスター姫は、その方向性で考えを巡らせる。ちなみに言い忘れていたが、咲の方はサブマスターのような体で今は話している。で、咲が聞く。
「代償とかリスクはある?」
「転移門と似たような感じになるからな~、無くて良いんじゃないか? ただNPCが他の世界線に行っちゃうのはややこしいし、かと言ってトマトを特異点にする必要も、解った今では別にそこに縛られる必要性は無い。馴染み深いAIはどうするかとか、問題色々有るが……プレイヤーはとりあえず無条件でいい、ゲームだしそこまで細かくなくていいじゃろ」
姫が自分の意見を述べると、今度は咲が思考を巡らせる。
「ん~……、重要なのは一番最初の過去と一番最後の未来だから、今風に言えば〈最古来〉と〈最未来〉サーバーが必要なのかな? 超ざっくりだけど……」
「まー、そうだなー。現実世界で過去や未来にタイムトラベルする事象が多発したけど、私達ゲームやりたいだけだもんな……、〈最古来〉と〈今現在〉と〈最未来〉があれば、私達の範囲内なら別に問題なくコントロールできる。そもそもワ○ピースがずっと大航海時代でややこしいんだよw だったらゲームプレイヤーとして簡単に大昔にジャンプできる方がありがたい。まあ歴史の中身はその後に決めるしか無いんじゃが……」
とびっきりぶっ飛んだ話にも聞こえるが、ゼ○ダの伝説時のオカリナみたいに、少年時代と青年時代を行ったり来たりしてるし、ゲームとしてはアリだろう。ゲームとしては。
一通り大枠を決め、考えを巡らせたのでGM姫はワールドアナウンス。告知の準備をする。
「まあ先行して遊びたい人は遊んでいいけど、私達の世界ではまだ告知段階でまだ実装してないって体で良いよな? まだ中身決まってないし……」
「うん、良いと思うよそんな感じで」
というわけで、ワールドアナウンスボタンをポチッと押した。
《ワールドアナウンス。バージョンアップの告知。近日中に大型アップデートを予定しております。内容は、メインサーバーの拡張。現在の〈EW世界線018・今現在サーバー〉に加え、新たに〈EW世界線018A・最古来サーバー〉と〈EW世界線018B・最未来サーバー〉を実装予定。詳細につきましては今後のアナウンスをお待ち下さい。なお、先行プレイヤーの先行プレイングは可能といたします。今後の続報をお待ち下さい。運営より》




