第672話「転・またやらかした桃花先生」
現実世界、西暦2037年10月6日。神道社、社長室。
天上院姫のスマホにピロロロロ……とファイズフォンっぽいので電話がかかってくる。電話先は湘南桃花だった。
「ん、もしもし? 桃花か? どうした? そっちからとか珍しい」
『ごめん姫ちゃん〈ロジックエラー〉になった、助けて……』
何故か用法用量を得ない桃花の会話。
「ん? 今ドコにいる?」
『わからない、ついでに年代もわからない、解ってることは私とオーバーリミッツが魔法ってことで卵子と卵子で妊娠確定してて絶対安静状態で動けないこと。あとお腹の赤ちゃんが私がリスク、リミッツがブロードなの確定……』
「……おい、他に当てがないからってココは2037年だぞ? 少なくともソレ2010年前後なんじゃないか?」
『それも解んない……つまり、出来ちゃったからどうしよう……という相談ですゲームマスター様……』
またあっちの話題をこっちに持ってきた桃花だった。
「ん~わかった、とりあえず場所は日本だな、一旦切るぞ、動けないんだったらあとは任せろ」
『はい、頼みます……』
と、言う感じでピ! と電話を切った姫だった。
「どったの姉ちゃん?」
咲は心当たりがないので、当たり前のように電話の内容を知らない。
「湘南桃花とオーバーリミッツがセックスして妊娠したんだって、でも出来ちゃったあとの事後処理が解んないから助けてだってさ」
……ツッコミどころしかない事象に困惑する咲、どうやら先生は大人の階段を上ったらしい、それは良いのだが、どうやら後先考えず欲望と理想のままにヤッたので時間も場所も解らず収集がつかないんだとか……。
「……それでゲームマスターに助けを……?」
「まあ平たく言うとそうなる、変な行動すると、よくわからない理由で破産とか流産とかになるからな、動くなとは言っておいたが~……」
「こっちのゲーム事情ガン無視だね……」
「まあ困ってるなら助けるしかあるまいて、日頃の交流もあるし~」
とはいえこういう妊娠出産の経験値も少ない天上院姫なので、自分もわからないので緑色の帽子を被って散歩しに行くことにする。
「ん~アイディアも浮かばないからちょっと散歩行ってくる」
「いってらっしゃーい」
天上院咲も経験値が少ないので、わからないのでどう行動すれば良いのかわからないので、ただ見送る事にした。
会社から出て外の空気を吸う。テクテク歩く創造神が1人、コンビニに立ち寄った姫は、さて……、今後のゲームメイキングはどうしようかと考えを巡らせる。
「とりあえず、ピザまんくださーい」
まず一番に考えないといけないのは精子問題だ、桃花が一般人代表な以上、巨大な存在の力があるから不思議な力で子供が出来ました、は通用しない。普通に男性の精子が必要だ、しかも2つ分、この際、男性2人分とか言ってられない。とにかく種子が2つ居る、で、問題なのは桃花とリミッツが愛し合ってるというだけで、他の男子に脈は無いのである。百合の間に挟まる男は罪な訳である、別に男が居ない訳では無い、一応、腐れ縁で秘十席群がいるが……アレは違うだろう、とは言え選り好みしてる余裕も無いし……かと言って桃花とリミッツの夫が群なのも違う気がする。
では真城和季はどうだ? あいつなら血脈的には真の名を継いでるしそのまんまだが、……何せ接点が無さ過ぎる……。他にも精子バンクという手を考えてみたのだが、赤の他人の精子よりかは群や和季の精子のほうがまだマシ、というぐらいには精子不足だった。
かと言って〈作られた存在〉ということでサイボーグ赤ちゃんという手も無いとはいい難いが、リスクやブロードをロボット化させる予定も無い……。桃花とリミッツには人肌で、血の通った、人口受精であってほしいのは切に願う所である。
あとは、創造神として、ゼロからイチを生み出す天上院姫自身が夫となり、能力で種という名の種子? 精子を与える、と言う手だが……何か違くね……?
ということで、割りと手詰まり状態だった。
「アチ……う~ん、困った……」
コンビニの前、ピザまんを頬張りながらもっふもっふと食べる姫は困り果てる。男の娘の神楽蒼葉という手も有るが、あれはスズちゃんとのカップリングだし何か違くね? ともなく。
やはり、創造神として種子を与えるのが一番しっくり来るが、その場合、夫は天上院姫かミュウになるわけで……、一番まともな策とは言え複雑である、天上院姫の体はダメだ、天上院家か一般家庭である、神話体形ではない、ではミュウの体ではどうだ? あっちは楽園エデンが実家で、アダムとイブの子供がミュウとすれば、ギリギリ何かイケそうな気がしないでもない、ギリ神話なのでセーフ程度の認識だ。
でもコレも、桃花とリミッツの夫がミュウとなる……。ギリアウトっぽい匂いがする……、うん、困った。
幸い、時間も場所もまだ決める余地があるとは言え、とにかく男子との脈が無さ過ぎて困る……。メタ的に言えば、ゆめみじ18の精子とか言い出しそうだが、それはもう完全にアウト。もし夢が現実になり実行されたら悪事以外の何物でもないし、誰も幸せにならない。まあオーバーリミッツに関してはそれは望む所かも知れないが、何か違うだろう……、あくまでも最終手段、最悪の場合、3次元で受精するのはやっぱ違うだろう、2次元でヤレよ2次元で……。となる。
「となると~、一番まともなのはミュウの種子か~……」
ミュウが夫で、妻が湘南桃花とオーバーリミッツの二股の家系図……?
群や和季よりはアウトっぽくないが、それでも現状セーフに近いアウトで、まだアウト臭いなあ~……。神話ってことで誤魔化してる気がする……。
一応ミュウの体は、性別不明で両生類のつもりでプレイし続けているが、いざ「さあ繁殖するぞ!」となるとやっぱ躊躇する……。あと精神的に幼い、実年齢はともかく……。
「フォッフォッフォ! 汝ら2人の女性に、神の神託として精子を2つ受精させてやろう! 真名はリスクとブロードだ~! おめでとう! 祝福だ~! って流れか? いや~……どうだろ?」
姫は今後のゲームプレイングを更に深く考える。
秘十席群は湘南桃花が「生理的に無理!」て感じで、オーバーリミッツなら「悪人でもいいよ」とか言いそうだが、後の発展形態がマカベア兄弟だぞ? そんな殺人嗜好家の家系なんて桃花は死んでも嫌だろうし……、ていうか〈いっぱい死んだ理由〉の根源たる桃花の心を考えると、群自身はそんなことやって無くても、元の思想の毒はやっぱり省きたい。
そして真城和季はそもそも接点がない……。
どっちも大人とは言え、悪い意味でダメだった……。
片や、姫&ミュウと桃花とリミッツの関係は良好、悪くない。ただいきなりミュウを男性として見て下さい、これから人肌暖かくセックスしま~す。も、そんな脈絡は無かった。ただの気の良いダチって感じで。「しょうがないなあ~精子バンクあげるよ~」ぐらいが現実的な関の山だろうか……? ほぼ義理と人情である。
だが屁理屈や無理はない。道義的やロジック的には通る。
「ん~ミュウとして精子あげるのか~……、で、あげた後にリスクとブロードが産まれるのか~……」
となるとラスボスの子孫が勇者って事になる、何か釈然としない、が、桃花とリミッツの幸せのことを考えると、まんざら悪くも無さそうだった。
とりあえずで決定していい事ではないが、他にいい案が浮かばなかったので、最善は尽くしたと考えるべきだろう。
「あとは時間と場所か~……」
姫は再びコンビニの中に入り、あたたかい、缶コーヒーを買って思考を更に深堀りし始めた。




