第658話「転・止まれ、オーバーリミッツ」★×2
――湘南桃花、まだ治療中……。
今度は横になって、和の文字が入ったヘッドホンを装備し、両目を隠された状態で。
〈弱点の耳元に福音が届いた〉、やったのはオーバーリミッツ。
「どう? 体調は……?」
時間は折角なのでたっぷり1時間……。
「……耳が幸せになってヤバい……」
それが彼女の率直な気持ちだった……。何? この永久機関? と思った。
「よかった、やっと届いた……気がついてくれた……」
心が、縁が、絆が、繋がった。
なので、呟きが、声が、歌が、鈴の音が行ってから還ってきた。
「あの、もう取って良いですか? 目と耳の、これ……」
それは、桃花にとって初めはただの暗と音でしかなかったが、どんどん幻想と福音に変わっていったもの。
「うん、起きていいよ」
返事の脇腹をつつかれて起こされた。いや、目覚めさせた。
湘南桃花は目と耳のそれを取り外した。
湘南桃花の夢は覚めた。
オーバーリミッツが安堵の顔を顔を浮かべて見守っていた。
で、ピンクスズが。
「だからフルダイブ型のVR空間で寝るんじゃないって本体が言ったじゃないですか……」
などと申しており。
遠目から見ている天上院咲と天上院姫は「何やってるんだこいつ……」という一歩引いた目線で追っていた。
で、桃花の第一声は。
「ここは現実世界ですか?」
咲と姫が答える。
「いいえ、VR空間です……残念ながら、あの、〈そっちの事件〉を〈こっち〉に持ち込まないでくれませんか?」
「本当に残念だな、一歩惜しかった、仕方ない。じゃあもうめんどくさいからメンテナンスってことで全プレイヤーを一回強制ログアウトさせるか……えーっと告知告知……」
《告知、5分後に全プレイヤーを強制ログアウトさせます》
――、そうして5分後、今度こそ全プレイヤーを強制ログアウトさせて、中のゲーム世界のメンテナンスを始めた。
本当の本当の本当に今度こそ、全員目覚めた。
今回の大型メンテナンスは念の為に8時間取るそうな。
というわけで、全プレイヤーは強制的に最低でも8時間現実世界で過ごしてもらうこととなる。
天上院咲もとばっちりを受けて現実世界で目覚める事となった。
――パチリ……。咲はベッドから起き上がる。
「またか、やっぱ桃花先生強いな……」
自然と口から愚痴が呟かれた。
「湘南桃花先生は、えーっと全部繋げると出身地は京都って事になるのか」
ここは神奈川県だ、京都の事はわからない、ついでに東京で何をやっているのかもわからない。
「ここは死の世界、……か……」
天上院咲には訳が解らなかった。
◇
ここは場外乱闘場、天上天下。
群馬県高崎市、とあるマンションの一室。
湘南桃花はドリームウォークして見つけた答えを微睡みの中呟く。
「1つも……無いんだ……」
湘南桃花は目を閉じていて。
信条戦空は目を開けていた。
「よく解んねーけど、とりあえずここだな」
空の中、風が来た。
戦空はパーの緑色の武装を纏い、オーバーリミッツの攻撃は赤色の武装を纏っていた。
それは縁が繋いだ微かな希望、その遥かな攻防の中、桃花は微かに目を開ける。
「止まれ、オーバーリミッツ。もう戦う理由なんて無いはずだ。桃花は薬飲んどけ先の時代に進めなるぞ」
「リスク……」
桃花に対して無造作に置かれる薬の束、桃花は無意識に信条戦空の真名を呼んだ……。
西暦2010年6月14日。
「リスク……何でここに居るの……?」
リスクは嘘偽りなく正直に話す。
「天上院咲が鍵だ、彼女が思考してくれたからここまで速く来れたんだ」
西暦2037年10月4日。
「また場外乱闘かぁ~……」
神奈川県、天上院咲は早速現実世界で、ジャンケンを操る能力を使っていた。
再び群馬県のとある部屋。
信条戦空とオーバーリミッツと湘南桃花の硬直状態は続いていた。
「今……、何年何月? 場所はあってる……?」
「西暦2024年の11月8日、群馬県で桃花は片道切符で神奈川県に帰れ、話はそれからだ」
湘南桃花は起きて早々に夢の中でグッタリしている……。
ドリームウォークしすぎて力が果てていて、尽きていた。
「桃花と咲じゃ力不足だ、オーバーリミッツ……まだ暴れ足りないなら、ウチが世界のドコだって相手してやる!」
現れて開幕一言がそれだったので、オーバーリミッツは呆然としている。
気がついて、意識して、オーバーリミッツの暴走がゆっくりと解けた――。
「私は、時間を操れるってこと……? 止められるってこと……?」
オーバーリミッツの狂気は、正気に戻った――。
「!? 桃花! 大丈夫!? 意識ある!?」
「正直、全然大丈夫じゃない……です」
オーバーリミッツは再び、桃花のフォローの看病をし始めた。
戦空は、緑色の武装を解除した。




