第656話「起・少女は大妖怪に挑む」★
少女は大妖怪とジャンケンをし終わった。
湘南桃花はパーを、天上院咲はチョキを出してこの話は決着した。
「や、やっと勝てた……」
まだ一回も戦ってないのに開幕一言で出てくるその言葉は「何やってるんだこいつら?」となるかもしれない、だが湘南桃花はニッコリと笑い。
「大丈夫、私はきみの味方だから」
と、単純明快に返した。
外側は信条戦空と桜愛夜鈴の本体が陣取り、闇の白黒鶏人間達の攻防を死守している。
内側はスズちゃん達がアワアワと最適解を見つけ出しながら自動運転でお客さん達を誘導してゆく。
そんな中の内側、咲はまたしても奇妙な行動をしていた。
天上院咲はいつの間にか、守護怪人〈四腕怪力マン〉をテイムしていた。
「なんて奴をゲットしてるんだ咲……」
GM姫は思考の末を理解している責任があるので、率直にそう思ったが。
「いや~、桃花先生にばっか責任行くのもアレかなーと思って、味方だと解ってる以上テイムしても良いかな~っと思って……あと勝手に憑いてくるし……良いかな~と思って……」
「で、テイムしてモンスター図鑑に登録したのか……は~、何とも懐かしい……」
天上院姫はその懐かしさが心身に沁みた……。
「うん、何と言うかこう……精が出そうな筋肉してるな……、え? 何、お前コイツと旅したいのん?」
咲は考え考え披露して……。
「今は言う事聞いてくれないけど、そのうちお友達になれる良いやつかなかな~、と、本能的に思っただけです」
つまり味方だと解っている以上安心できる奴、信頼できるモンスターだと思ったのだろう。
「あ~、でもコイツか……う~ん……まあ好きにすればいいけど……」
姫は内心複雑である。まあいい奴であるのに変わりはないが、長い目で見たらだが。
自由の悪神がどんどん不自由になって行くのをまじまじと見つめて微笑する咲。
で、GM姫は一応、……念の為に確認を取る。
「で、今のソイツ強姦とかしない?」
「私が調教させる、してみせる」
意味がわからない自信があった……。
《四腕怪力マンにニックネームを付けて下さい》
「じゃあ〈太仲くん〉でよろしく」
「わかった上でなんて名前付けてるんだ咲……」
まるで結婚ルートに絶対行かせるマンじゃないか……。と内心ツッコみたくなるがこれでも抑えめな姫。
「……、さてだいぶ後始末もし終わったし、そろそろ新天地に行くか、もうちょっと療養するかの選択肢になると思うんだが?」
GM姫はプレイヤーの咲に対してそう言う。
「桃花先生は大丈夫なの?」
「ん~、今回の件でもう変な熊さんみたいなモノは憑いてないと思うけど、やっぱり大変痛かったから、1日、1時間、いや1分は休憩欲しいかな……」
「いや1分で普通の人間は回復しないだろ……」
「それもそうか……えっとじゃあ10分ください、というか一拍下さい」
「一息下さいの間違いだろ? 善なる表の桃花」
本当は裏表の無い善人とまで治療したかったが、そこまではちょっと時間が足りなかったようだ。これは自然である。
「……太仲くんにマッサージしてもらう?」
ムキムキモンスターの筋肉が躍動していた。
「いや……、私とアリスとオーバーリミッツで治します……、そこまで迷惑はかけられないし……遠慮します」
とはいえ、桃花先生を連れて行かないと旅を長く続けられないのも確かだ。
この人から、遠くに離れるわけにはいかない、少なくとも事が落ち着くまでは。
「じゃあ3人を私の飛空艇に乗っけますか、これじゃ移動も出来ずに地に根をはりそうな勢いだし……」
現実に負けるな湘南桃花、天上院咲はもっと軽いぞ。
咲は疑問文を浮かべながら外の方へ顔を向ける。
「で、外側の人達はどうなってるの?」
「あらかたの鶏は食材のお肉になったと思うぞ?」
生きろ咲、そのたは美しい。
「あと、桃花には〈大学2年生病〉の称号を与えよう、今のわしにはそれくらいしか出来ない」
《湘南桃花はGMから〈大学2年生病〉の称号を得ました》
「私達の先生なのにね、社会人だし」
咲は素直にそう思った。
「猫並みに感謝しろよ、本当なら永遠の少年少女に成ってるはずだ」
大人の都合がめんどくさいことこの上ない、自由とはドコへ……?
「とりあえず、何か飲みます?」
ピンクスズちゃんが桃花に対して尋ねてくる。桃花は思考を回転させて呟く。
「麦茶? 麒麟ビール? ミルクティー? 素直に水? いやでも捻りが無いな……、あ、じゃあプロテインミルク下さい」
〈大学2年生病〉の称号を得たのに、大人ってめんどくさいなと少女の咲は思った。




