第655話「結・私の好意も信じられませんか?」★×2
……それは人数分の〈うどん〉だった、ただのうどんのはずなのに、その麺1つ1つが、何故かはウルボロスの輪を形作っていた――。
鈴の湯ガーデン1階、寝室、湘南桃花はアリスによる治療を続けていた。
と、そこへ、ピンクスズちゃんがうどんを持ってやって来た。温かなスープに身を委ねているウルボロス型のうどん……。何とも奇妙な光景だった。
桃花は解るので、珍妙な目でピンクスズちゃんへツッコミをする。
「これって……、共食いなんじゃ……」
恐る恐る広がるうどんの中の光景に、桃花は眼下見下ろして、きょどる。
見た目は普通のうどん料理なのに、桃花にはそうは視えていない。
いっぱいウルボロスの輪を形作っている、麺々たる大宇宙……、に見えていた。
「えへへ~、信じ続けてもお腹は減ると思うので~、作ってみました~」
桃花はピンクスズちゃんに対して申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「あ、私も食べておきます、念の為に」
天上院咲には全く関係のない話なので、お先にズカズカと食べ始める。
「ええ……でもコレって、……食べれるの? いいの、これ?」
そういえば、この時間軸ではちゃんとまともに食べ物に在りつけた記憶がないのを、今更ながらに思い出した。桃花の速度に空腹が追いついた。
ここは安全な場所とはいえ、桃花の目はグルグルと螺旋を描いていた。
「私の好意も信じられませんか?」
ピンクスズちゃんは、愛情たっぷりに、にっこりとただ笑う。
桃花の幻影も大罪も全部丸ごと包み込むようにして〈ただのお茶〉として差し出した。料理が増えていた事に桃花は内心驚きを隠せない。
「……それともただのコーヒーの方が良かったですか? 甘いやつの」
桃花の脳内はゆっくりとパニックになっていた。ピンクスズちゃんとどう接すれば良いかわからない、それが桃花の率直な心情だった。
ピンクスズちゃんはその内心を読み取り、しょんぼり顔になりながら言う。
「そりゃあ、あの時は大変困りましたが、通り過ぎた話です、もう良いんですよ? 心配しなくて。あとあの時桃花先生は、ほぼ独りだったから仕方のないことです……と思います、とフォローしておきます」
「ん~、本当に良いのかな~……それで……」
「と! 言うわけで! 私も! 私の好意も信じられませんか? のリベンジマッチです!」
ピンクスズは物語と気持ちを切り替えた。
桃花は確認する。
「信じて食べれば良いってことなの、これ?」
「はい! じゃんじゃん食べてお腹一杯にしてください!」
時間を置くごとに、流転の運命のように温かい生のうどんが徐々に冷えていくのが解る桃花。
「えっと、じゃあ……冷めない内にいただきます……」
そう言って、桃花はウルボロスの輪をした、ただのうどんを、お口に含んでちゃんと歯で噛んでから、胃の中へ流し込んだ……、訳が分からない味がした……。
「ふふ、どうですかお味は?」
「……何か、わかんないからグミみたいにジューシーて事にしてくれませんか?」
いきなり仮面ライダーネタを持ち出してきた桃花。
ピンクスズちゃんに対して桃花先生の方が敬語だった。
「ふふ、それは良かったなのです!」
ピンクスズちゃんはシャキーン! と元のにっこり笑顔に戻った。
さっきから咲が置いてきぼりを喰らっているので、食らいつく咲はその会話に割って入る。
「また昔話ですか?」
「うん、そう、昔話……です……すみません」
咲に対しても申し訳無さそうに敬語な上に謝った。
ピンクスズちゃんは許した、桃花は食材に懺悔&感謝した、咲は訳がわからなかった。
そんな一幕だった。
それはそれとして外側からドンチャン騒ぎの音が聞こえて来るわけで……。
「あの、もしかして外おかしな事になってない?」
「何か聞こえますね~外……」
ゲームマスター姫がフォローする。
「桃花は一般人代表だから、戦闘員代表じゃないから」
「まあそうですけども……」
アリスが桃花に外へ思考の意識を向けるのを、横断歩道の信号機が赤色に成ったかのようにブレーキを踏ませて止める。交通ルールは守ってと言いたいのだろう。
「今は良い流転に成るように専念」
「あ、はい……」
単的に短くアリスは桃花にそう言った。
折角なのでもう一度ピンクスズちゃんを信じて、ウルボロスの輪をしたうどんをズズズっと食べた。




