第652話「起・純善神VS妖精王」
極彩色の明日の花達の何とかガードして耐えきり、咲ではなく戦空が逆に覚悟を決める。地面に咲く花々には傷一つない。
妖精王は反撃に転じる覚悟をする。
「うっし! 何かわかったし! ウチも反撃するか!」
周りを見渡して、安全を確認し、一般市民が居ない事を確認し、……下層には居るが……、信条戦空はここに来て構える、戦闘態勢だ。
右手に〈存在の風〉を集め始める……。
「ええぇ!? ちょっと待ってソレ放つんですか!? 解ってて!?」
純善神咲は視覚できない概念を読み取り、戦空が何を放つか読み取った。
即ち技名は〈熱風弾〉、しかしその中に込められた意味は全然違った。
咲には、概念系空飛ぶドラゴンの戦車大砲、カッコホンモノに視えたからだ。
現実と幻想、双方でダメージを咲に与えるつもりである。
戦車が空を走っている……、狙った獲物に向かって、それは即ち対戦相手である咲なわけで。
「だってー咲ばっかり攻撃してるじゃないかー、こっちだって攻撃しないとどうなるかわからないしー!」
花を轢き殺すのでは無く、明確な悪敵に対して反撃する。そのつもりだ。
しかし、戦空の放つソレは銃以上の威力が出る事は、今となっては容易に想像がつく。人を殺す凶器、拳銃が咲に向けられる……。
「解っててやるんですか!? 生まれたばかりなのにいきなり犯罪者になるんですか!? 重罪犯になりたいんですか!?」
「つーっても、ウソつきには戻れないし、攻撃はもう食らったし、反撃しないと楽しくないし……」
エンタメな以上そうなのだが、エンタメじゃない所にまで範囲が及ぶのなら話は別だ。ラビット&タンクのベストマッチをやりたいのだろう。
「お前は攻撃した、ウチも攻撃する、攻撃してみないと何が起こるかわからない、それが今現在の俺達だろ? 何よりウチは、これしか出来ねえ」
いざ自分が攻撃を受ける立場になると、躊躇する咲。戦空も迷いと言う名の間が発生する。
「ん~~、じゃあ〈浄化の炎〉のつもりで受け止めてみてくれ、お前、無知我武者羅に今まで走って来たから、たぶん善神でも怨念は憑いてると思うんだ、話はそれからだ」
概念正論に対して、概念正論をぶつけて来る戦空。
「まあ、……それなら一回だけ受けてみますか……」
お互い、概念系の罪を払ってからじゃないと遊べないと思ったのだろう。
知った上でヤル、やったあとの影響力や因果関係はまだ知らない、それが今の現状だ。何せ全ての時間が動き始めた〈大イベント〉が始まって、まだちょっとしか経っていないのだから。
桃花先生が〈知らぬ間に止めていた世界の時間〉は、まだ半分あるわけで……。
その先には素晴らしいものが有る、と解っていても。
恐らくこれはもう止まらない、準備と自信と覚悟は出来た、長寿と繁栄をもたらすためには、〈浄化の炎〉を咲は一回受けたほうが良い、そういう戦空の判断だ。
「じゃ、いくぞ……!」
「う、うん……! 大全力で受け止めます!」
咲は、両目を閉じてから全力で両目をかっ開いて、覚悟を決める。
今の今まで集めていた、〈存在の風〉を一点に集めて――。
「熱風弾!」
巨大な炎は天上院咲に向かって真っ直ぐ、直進・不撤退・不可逆に突き進む。
炎が迫る直前、咲は炎の光が眩しくて、瞳を閉じ、大自然のままに全てを受け止めた。
そうして、純善神咲の存在を大きく上回る大火力で、大神を焼き、大敵・大悪霊・大怨念だけを焼き滅ぼした――。
ジュ……!
「……!」
咲は、その巨大な熱風弾丸を生真面目に受け止める――。
「痛い……」
やっぱり桃花先生の体は痛い……。
「まあそれは、しょうがない」
「またちょっと耐えて」
天上院姫と桜愛夜鈴はできる限りフォローをする。
ほどなくして、咲の意識が戻る、わけも分からないまま、一瞬気絶した。
程なくして、瞼をゆっくりと開ける……。そして大きく深呼吸する。
「すうー……はぁ~……」
「うん、もう大丈夫だ。たぶん!」
「たぶんかい!」
純善神咲と妖精王戦空の、軽快なツッコミがこの場所、この空間に軽く木霊した。
2人は笑顔で笑いあった。




