第648話「起・本気出したら国が滅んだんですか?」★
「え!? 本気出したら国が滅んだんですか? 現実の!?」
と言う、知る人が聞けば喉から手が出るように欲しがる、そそり立つような話題が湯水の如く上がった。
予想通り、姫の口から聞いた夜鈴の顔は驚愕へと変わった、そこまでは良かったが。
咲の興味が、可愛い使用人から出された〈プリン〉へと移ったのでこの話はブツ斬りで終わった……。南無阿弥陀仏……。
変わって、鈴の湯ガーデンでの他愛ない雑談が始まる。
「ここにテクテク歩いて来るまでに、結構〈教会〉が目に入ったな、そしてNPCの〈司祭〉が色んな所にいっぱい居た」
咲が相槌をうつ。
「あー居たね、そういえば~……流行ってるのかね?」
天上院咲がそう言うと、桜愛夜鈴は、ハッとする。
ファンタジー世界だから、普通に居るのが当たり前なんだろうと思っていたが、そういえばこの土地に入ってから聖職者と言う名の職業を幾度となく見てきた。善悪両方とも……。
まさに木を隠すなら森の中、と言った感じだろう。
つまりリュビアー大陸、もとい、ここ一帯『戦乱都市アスカ』は宗教都市国家なのだろうなということがうかがえる。
話題が神様を崇め奉る、教会へとシフトしたので……。
「……じゃあ教会に行くか」
と、大自然で育てられたド天然天上院姫が剛速球を夜鈴へ投げる。
元祖ツッコミ担当の夜鈴がキレの良いツッコミを入れる。
「いやいや、何で神様本人が教会に足を運びに行かなきゃいけないのよ。逆だろ逆、普通逆……! 来いよ!」
話が繋がらなくなるので一応説明するが、この桜愛夜鈴の名前は何度か名前を変えている、姿形は基本的に同じなのだが、その時その場、環境に合わせて名前を変えている。
つまり、記憶を辿れば、元祖の名、真名があるわけだ。
真名は今でも変わっていない……。
彼女は下界、人間界で人間として過ごしたかったのでその真名を隠した。というより相応しくないと思って辞めた、という言葉の方が正しいかもしれない。
彼女、桜愛夜鈴の真名は『神楽スズ』。
姫や咲より全然古参の神……。この姉妹の方が新参である。
古き良き系譜、『神』の名を冠する立派な守り神、守護神なのだ。
ただスズにはその自覚はなかった。という過去形も付け加えておく、今は自覚あり。
家族の善神、天上院咲。
自由の悪神、天上院姫。
守護神、神楽スズ。
偶然なのだが、何故かこの宿屋には〈神様〉しか居ない……。
なら司祭様には来てもらうのが〈普通〉だろう……。
「どうしてこうなった?」
「さあ?」
「何でだろうな?」
三者三様に疑問文が浮かんだが、温泉の湯はただただ自然に流れるだけだった。
鈴の湯ガーデンから一番近い教会の司祭様が、神様から呼ばれた。
そこら辺に居る一兵卒のモブNPC司祭が鈴の湯ガーデンに招かれる。
司祭は思った、なぜ? 教皇様とかでは無く私? もっと位の高い人間は一杯居るのに……と。
「誰でもよかった」
「誰でもよかった!?」
司祭は驚愕の声色と表情を浮かべる。姫は司祭にテキトウに言葉を並べる。
人間のNPC聖職者であれば、正直誰でもよかったのであろう。とにかく話し相手が欲しかったのだ。善かれ悪しかれ。その善悪の区別さえも正直どうでもよかったのだ。悪しければ断罪するし、善しければ保護する。
「じゃあこの言葉から始めよう、――あなたは神を信じますか?」
自由の悪神、天上院姫が始める。ここは彼女個人が譲れない立場だった。
大自然と言う名の災害が猛威を振るうのか、それとも恵みの雨をもたらすのか。
「!?」
試される大地、もとい試される司祭様だった。神様からちょっとだけ圧がかかる。
――今まで殻の神座で好き勝手やって来たのだ、返答次第では国が滅ぶ……。
「そんなことよりご飯食べて温泉入りたいです!」
家族の善神はフリーダム&テキトウにすごしていた。
守護神、桜愛夜鈴は呆れながら皆を見守る――。




