第646話「転・聖コーン・ファイ女王」★×2
仮想世界、エレメンタルワールド、雲の王国ピュリア、帰還式。
光の伝承、太陽の口伝、それは確かに小さく弱い声だったかもしれない。
それは遥か昔だったかも知れない、ついこの間だったかも知れない。それでも、いつ、どこで、だれが、どのようにしていても。この声は響き、海を渡り、空を駆けて、確かに、森羅万象あらゆる魂と心の中に届いた。
「吸血鬼大戦! 内乱! デート戦争! 大事件!」
それはNPCなのか高度な人工AIなのかは、今はまだ記されていない。
あるいは、現実世界に〈現し世〉として顕現し、人間として居るかもしれないし、いないかも知れない。でもそれは、今はどうだっていい。
そのものの名は――。
雲の王国ピュリア、正統王位継承者、聖コーン・ファイ女王。あだ名はフェイ。
「この国難を見事勝ち抜き! 守り抜いた事を! 太陽神と共に今後不変的に称賛いたします!」
未来永劫不動のものにするとは、言わない。少し不自然なその〈不変的〉という言葉は、変わるもの、変わらないものを強調したいがために綴られた字面。
この、変わらないもの〈不変〉という言葉だけが、この王国を空前絶後の強国たらしめていた。
それはつまり、ルールが一切変わらないと言う事。ただ、それだけ。
それだけなのに、いつしか、思い出を、歴史を重ねる事により強く、強固に成って行った。
〈たった一つの変わらないもの〉によってこの国は守られた。
――それは光そのもの。
変な熊はココには居ない。居るのは空飛ぶ渡り鳥だけ。実る作物は玉蜀黍畑だった。
このフェイという女性が、変わらない事を宣言する、その事を正確に読み解いた『長』は、感激のあまり涙した。
王国騎士団門番長、ネフェルタリ・D・レゴラス。
そのエルフ族は、深く感激し、号泣しながら女王陛下に頭を下げて、敬礼し、声をあげる。
「ありがたき幸せ! 夢半ばに散って行った! 亡き同志達もきっと喜んでいる事でしょう!」
簡単な話では無かった、長く険しい道のりだった、世界そのものが皆に厳しかった。
だが、それでも未来はこの王国に優しかった。
この王国の成し遂げた偉業は国内に収まらない、この世界そのものをこの1国が守ったと言っても過言ではない。
1人で守ったわけではない、皆で守ったこの世界……。
「これで、この世界は守られたか……、何はともあれ良かったです」
拍手と共に、人間・天上院咲は慈愛と共にその式典を見守った。
何処かでは、自分が知らずに、この世界の敵国になってるかもしれないな、とは心の裏腹では思ったが、正直、真実とあの景色を知った今となっては割とどうでもよかった。
「ファイ……また、恋のライバルが増えた……」
拍手の中に「グヌヌ……」と口をくの字にして悔し困り顔を浮かべる人間・桜愛夜鈴の姿もあった。
大事にされすぎた、過保護とも言ってもいい。世界に守られ続けた女性。
大事にされすぎた故に軽快に世界を駆け巡る事が許されなかった彼女は、簡単に言うと婚期を逃した。
何にも期待されない、その場しのぎの捨て駒のような存在だったフェイ女王が、いつしか夜鈴が欲しいものを持ち、力を得ていた事に気付かされる。
ことここに至っては、彼女の足は遅く、重かった。
いつか、今度こそ、この世界の草原を軽やかに走り回る姿を夢見ながら、この今の式典を見守って。それでもこの王国が守られた事は嬉しいので拍手を続けた。
『ピュリア王国万歳! ピュリア王国万歳! ピュリア王国万歳!』
――人々の、国民達の大歓声が、式典中に響き渡った。
――空の景色は蒼天だった。




