第643話「結・階梯」★
その場所には名前があった、子供が名付けたような簡単な名前。
何の捻りもない、意味もない、しかし人々は確かにココを故郷と呼んだ。
――名を、雲の王国ピュリアと言う。
仮想世界、現実世界、夢幻の世界、この世ならざる世界、視覚できない概念の世界、外れた世界、当たりの世界、どの世界にもそれは存在し。
しかして本質は同じだった、同じ場所だった。
知ってるものは知っていて、知らぬものは知らぬだけ。
この地で光と闇が生まれ、そして始まって終わっていった。
挑む者、戦う者、救う者、助ける者、手を繋ぐ者、育む者が平和に暮らしていた。
まさに楽園。
だが、その中に〈殺す者〉が混じっていた。
〈食らう者〉はまだ理解できた、だが今回は違う。
天上院咲と天上院姫は、その〈残党〉と出会う。
ゲームマスターとサブマスターではなく、家族の善神と自由の悪神として。
この世の真の〝神〟として顕現する。
古参か新参で言えば新参だろう新米の神は、それでも今回の件は許せなかった。
狙うは、〈実行出来る力〉そのもの。
この〈殺す者〉には殺人とは〈娯楽〉エンターテイメント以外の何者でもなかったし、信念が有ろうが無かろうが断罪の対象だった。
そして同時に、パクリ、真似されるのを極端に嫌い、秘匿し秘蔵し最後まで隠蔽する性質も持っていた。それが発覚すれば、バレれば激怒し、火炎瓶なんかも投げる、実行できる力そのもの。
即ち、視えない何か、幽霊、概念、ルール、信仰、神、に対する判決。
咲や姫だって、成りたくて絶対的優位に立ちたくてこんな事をしている訳では無い。
でも叶うならば叶えて欲しい、そんな現人神の真似事だ。
「どうする?」
悪神は、さっさと死刑にしたいと迷う。
「……、終身刑じゃない?」
善神は、殺しは好きじゃない、かと言って懲役50年とかにして復讐心でまた世に出て来られても困る。
何よりこの審判は、百年、千年を跨ぐ。超人達の世界。
だが天罰はこれより下る。
「じゃ終身刑」
悪神は汚れ仕事を買って出る。
「ぎ、ぎゃああああああ!?」
今ここに殺す者に対しての〝天罰〟が下った。
これにて場外乱闘で行われていた、通称『文法の世界』最後の大仕事を自分達の手で終わらせた。
「終わったよ、咲」
姫は言う。咲はまるで自分で自分を罰したかのような心持ちになったが。それでもこのルールの連鎖だけは許せなかった。
桃花の父親の死をきっかけに、許しちゃいけない敵を見つけただけで、それでも今回も後の祭りだった。
湘南桃花もその審判を見守っていた……。まるでその他の自分を重ね見る様に。
「……」
これにてお互い直近の〈やるべきこと〉は無くなった。
桃花が、咲に対して歩み寄る。
「とりあえずさ、やること無いんだったら。戦空と同じ土俵に上がってみたら? 天上院咲ちゃん」
桃花はハニカミ笑いを見せているが、正直心は晴れなかった。
「……」
信条戦空も、風の中、つむじ風と共に現れ、無口に語る。
「……うん」
長き〈思考〉と〈時間〉の果て――。
天上院咲と天上院姫は、湘南桃花とオーバーリミッツとは別の道で、今確かに、信条戦空と桜愛夜鈴の居る同じ土俵……。
――見事に、階梯を上った。
桃花はそれでも、心晴れやかに言う。この世界、真のエレメンタルワールドへやって来たかと、心踊る気持ちで……。
「ようこそ、世界へ!」




