第641話「承・善行?と宇宙船」
FX戦士咲ちゃんはドル円の為替相場を見ていた。
「……ふむ、なるほど。私が介入するとこう動くのか」
リアルタイムで見るのは初めだったが、為替が超上下した時には全体の平均値を叩き出した。ほとんど世界の平和を守るため、最果ての軍勢が介入したのは、何となく解る咲……。
「ものすごい動きでプラスにもマイナスにも上下して、それをFX常連者も〈何じゃこりゃー!?〉と驚き見る景色か……ねえお姉ちゃん」
「うん?」
GM姫はゲーム内バランスを取るので忙しい。
「今すぐ、ドル円暴落させることって出来る?」
「出来るけど……、それって為替介入って言うんだぞ? 銀行だって何度も出来るわけじゃない、裏技みたいな奴だ」
大義名分が無ければ出来ないし、銀行も多大なリスクを負ってまで咲の道楽に付き合う必要はないわけだ。
「あと、具体的にはいくら暴落させたいんだ? 咲も無傷じゃすまないだろ?」
「ん~、〈私は今日は賭けない〉事を約束する代わりに、目視で実験が成功するか見たいの。ん~、ドル円5円くらい下げればニュースになるかな……?」
「ここまでやってまだ確認したいのか……。でも銀行を説得させるためにはまだ材料が足りないなあ~……。下げて、とは言うが、そっちは何をくれるんだ?」
見返りがないと銀行も動けないということだろう。
「じゃあ私は、今日、どの国が弾道ミサイルを何発発射しようが文句言わない、とか? 好きな国に好きなように発射すればいい。それで経済効果を見る、家族の善神として許可するんだから善行……大義名分になるでしょ?」
それは本当に善行と言うのだろうか……?
「……それのストレスわしに来るんじゃが……?」
「前もって了承するんだからいきなりじゃないし。いいんじゃない? ついでに飛行機数十機ぐらい飛ばしても良いし、久しぶりに空を飛びたくなってきちゃった」
「……、まあそれくらいやんないと1日で1ドル5円幅は動かないか……。で、咲は何を得るんじゃ?」
「ちゃんとサブマスターでも為替をコントロールできる事が保証される」
お前今サブマスターじゃなくてただのクッションだろ、とはツッコみたくてもツッコみきれない姫がいる。
「ふむう、保証は大きいな……、で具体的な数字は?」
「西暦2037年10月4日の為替レートを〈1ドル125円〉から〈1ドル120円に〉に一時的に設定する。この日だけね、あとは元に戻す。何なら軍勢の有るべき姿に元に戻すの能力使ってもいいし」
「何発も発射していいね……は~、知らん顔も出来んし、まー一緒に見守るかねえ~」
「……あんがと」
バランスを保つ実験には成功した。あとはバランスを崩す実験なわけだ。
◇
というわけで。
西暦2037年10月4日の朝が来た……。
咲はFX、ドル円の為替レートを覗く……。盤面はドルが弱く、円が強くなっている……。
「……下がったらポジション取りたくなるね」
「いきなり取り付けたルールを破るな破るな!」
「ルールを守るのは政府の役目、ルールを作って破るのは私達の役目」
もっともらしい言い訳をするが、そういうのを屁理屈と言うのだ。
「手のひら返しやんけ! はー。でもまぁ、真面目で固っ苦しいのは好きじゃないからポジション取ってもいいよ」
「いいの?」
「ただし! 今日は危ないから念の為に1万円賭けじゃなく5000円賭けな!」
「へいへい、あくまで遊びの範囲内ね……」
だいぶFXに慣れてきた咲、だが油断してると痛い目を見るのでそこだけは注意するように言う姫。
「自分が特異点のお金握ってる自覚持てよ?」
「へーい」
咲の返事は、中々に軽率で軽い返事だった。
◇
「……」
「……」
長い間が宇宙のごとく広がってから。
「そう言えば船作りたいね」
「お前には飛空艇とか空母とかあっただろ?」
「いや、そういうのじゃなくて〝宇宙船〟この世界の全ての真実と真相を知っちゃうと尚更ね……」
「……ふむ、ま、確かに大っきい宇宙戦艦タートルと小っちゃい飛空艇ノアがあるだけで、宇宙船はまだ持ってないな」
大陸3つを取り囲む大きな船と、家1個分の空飛ぶ船しか持っていない。確かに、これから先、現実世界とエレメンタルワールドの世界に導を、船の舵のを切るならば、宇宙での活動が大前提となる。
つまりスターウ○ーズみたいなSF宇宙船が必要だ。
「となると、『交換』もそうだが、まず『設計図』が必要だな」
「……うん、……善処する」
阿吽の呼吸で解り合う2人のコンビ仲は流石である。
それはゲーム内クエストで宇宙船の設計図を探す事になることを意味していた。
ギルド『放課後クラブ』の当面の目標は『宇宙船の設計図』を手に入れる事になりそうだった。




