第639話「結・遊撃隊愚者」
「あら久しぶり、GMが私と直接話しをしたいって珍しいわね」
ギルド『四重奏』の桜愛夜鈴が、GM天上院姫に対してそう言った。
「まあ久しぶり、というか、〈この体〉で直接話すのは始めてじゃないか?」
天上院姫には、というか創造神には3つの体が存在するのだが……話がややこしくなり過ぎるので今回はこの話は省略する。
「まあ面と向かって話すのは始めてになるかも? ……よくわかんないや、忘れた」
忘れたのならそれはそれでいいのだが、兎に角因縁深い2人だけの話ということだけ理解してもらえればいい。
「まぁ探り合いはナシだ、簡単に言おう。遊撃隊を作りたい」
「おぉ……ほほお……」
遊撃隊という言葉、夜鈴には思い出深い何かがあるようなのだが……ここもお互いの因縁が深すぎて説明は省略する。で、本題だ。
「今、御存知の通り通貨Mを巡って各ギルドどころか、現実世界の各国家も凌ぎを削っている、そして、Mは国連の監視下に入る事が絶対条件となる」
「それで遊撃隊?」
「そうだ、昔のともちと違う、簡単に言うと『放課後クラブ親衛隊』に近い、バージョンアップ……というか解散か解体でもいいかもしれないな」
「というと?」
「名前を、ギルド『遊撃隊愚者』。特徴は、彼らはどの国にもギルドにも属さない……。自由部隊だな、〈愚か者の代表選抜〉とも言う」
「一応聞いておくけど、具体的には?」
「アメリカ・ロシア・中国・国連・日本、四重奏・非理法権天・最果ての軍勢・放課後クラブ。これらのグループを自由に、無条件に移動出来るギルドだ。条件はMを持たないこと、つまり国連の管理下に入らない事だ。その隊長こそ桜愛夜鈴、お前が相応しいと思った……〈罪滅ぼし〉の意味も込めてじゃが、お前が一番やりたかった事だと思ってな」
「……なるほど、ね」
「どうする?」
「やる」
即断即決即答。
「だろうな」
「あの時は、あんたの手の上で踊らされたけど、今度はそうじゃないって事でしょ? だったらなおさらやる」
泥沼化しそうだが、トップギルドとトップ国で揉めてるので、姫の思惑としてはバランスを取りたかったのだろう。そして下層ギルドの活躍の場を作りたいのもある。
夜鈴はお飾り、象徴天皇のような立ち位置になるが。
オーバーリミッツとしてではなく、桜愛夜鈴としてチャンスとリベンジをくれるということなら、意地とプライドで引き受ける。
仲間のため、絆のため、皆との思い出のため……。
あんな、わけもわからない状態で世界に負けた事にしたくない。
それが夜鈴の思惑。
「まーで、発案はこれで良いんじゃが。問題は人が集まるかでな、普通にギルドの受付嬢にギルド結成の案件を投げて、掲示板に貼る形になる、それでいいか?」
GM姫にとっても、あとはどうなるかわからない、人頼みの他人頼みだが、自由でアットホームなギルドです! なら数人は手を上げるだろう、それ以上はわからない……。という感じで、夜鈴にその許可を求めている。
「いいよ」
一瞬の間があり。
「助かる」
と返す。
気になる点はまだあるが、これで一段落ついたのでワールドアナウンスを始める準備をするGM姫。
「よし、これでいっかな。決定!」
途端に、全世界にアナウンスが走った。
《ワールドアナウンス、エレメンタルワールド、バージョン5にバージョンアップしました。内容は、魔法通貨M分配表、為替レート設定、ギルド『遊撃隊愚者』コンテンツの設置です、詳細は各情報欄でご確認下さい》
これで、国際通貨M覇権争い。の土台は整った、あとは天のサイコロがどう転ぶか見ものである、という運否天賦に任せるといった形だろう。
「ちなみにわしにとってのテーマは『現実に負けるな!』である」
「どっちでもいいわよ、そんなこと」
2人の、やや含みのある苦笑いの応酬だった。




