第65話「あなたの弱さ」
休息を求めるように沈みゆく太陽は、すうすうと寝息を立て初めていた。
大会の渦中に居なかった途中観戦だった放課後クラブは、甲板のデッキ頭上から見定めていた。
天上院咲から観た景色は。
守りたいものを守り、あるいは攻めたいものを攻める、心を内に秘めたスクランブル交差点と化していた。
湘南桃花は秘十席群に立ち上がりながら言う。
「行こう、グン」
「そうだなモモカ、そうしよう」
そうして二人は歩いて人混みの中に消えていった。一般人の彼らは何も語らない、それが彼ら彼女らの役割であるかのように。
「あのモモカさん、勝負しませんか?」
吹けば忽然と飛ぶほどの存在にサキは気づいた、気づいて消えたモモカに話しかけてきた。
人間桃花は当然の感情とともに驚き、常識では考えられない行動をした人物咲に話を返す。
「焚きつけられたの? でも私弱いわよ? 勝負しても無意味だし」
放課後クラブ全員の総意のようにサキは言った。
「私たち、まだモモカさんの力をこの目で観てません。観たいんです、あなたの表舞台を。それは言わずもがな、皆が望んでる」
あの二人のあとのデザートにしては、少々味の甘さで負けてしまうなと
思いながら。日が暮れる。現実世界と同じ時間軸なので、現実世界も電脳世界も夜になっていた。
モモカの感情にも意味も解らず翳りが見える、うつむき前を見ない。
「自分にそんな資格があるかどうか」
咲は焚きつけるように言う。
「資格がないビジョンも解ります、でもだからってあなたがこのまま去るのを私は見過ごせない!」
帰る準備をしていた桃花は振り向く。振り向いた桃花に咲は言う。
「あなたの弱さ、みせてください!」
頭は下げない、咲は断固とした瞳で桃花を観る。咲の瞳は曇っていた、曇っていたが、それでは隠せないほど光そのもののように輝いていた。
桃花は「はあ」とため息をついて、どうすりゃええねんと思いながら言う。
「わかったわよ、で、ルールはどうすんのよまたPVP戦?」
「じゃあ、団体戦で」
お話が大きくなってきた。咲は続ける。
「私たち放課後クラブ3人とそちらの3人、制限時間内により多くモンスターを狩れたほうの勝ちで」
本当はPVP戦の方が良かったのだろう。しかし立て続けにPVP戦だとそれもつまらない。ので、こういう提案になった。
モモカは一考して宣言する。
「わかった、じゃあこっちはモモカ、グン、それとアオバって子でパーティーを組むわ。それで良い?」
「かまいません」
「じゃ、お互い準備しましょう」
咲は放課後クラブのメンバーの元へ戻ってゆく。咲は姫に謝る。
「ごめん、体が勝手に」
「気にするな、どうせ夜の予定は無かったんだ」
だが姫は、しかし。と付け加える。沈黙を破ったのはエンペラーだった。
「長くなりそうだな、このゲーム」
実際には3分や5分で決着はつくだろう、でもそれより精神的な疲労の長さをエンペラーは危険予知した。