第622話「転・スキルビルダーズ②」
「「「「「〈投影〉開始……!」」」」」
ナイトスライムが意味深な言葉を発する。トランジスタ下の電光石火の早業の中で、その意図を初心者・ビギナーが理解するのは困難を極めた。
(何だ……?)
意味深な言葉に、ビルドは身構える。が、5体のナイトスライムは動こうとしない。何かを狙っている以上、下手にビルドは動けない。その判断は正しい……。
サキは正確にそのスキルを理解するが、ゴーストドラゴンが行く手を阻む!
「いけない! 今すぐナイトを叩いて! グ!」
「ゴーストトドン!」
「手遅れになる前に! ……コノオ!」
「ゴストドードン!」
ゴーストドラゴンの連撃を交わすが、凌ぐのがやっとなサキだった。
そうこう束の間、ビルドには情報が正確に行き届かなかった……。
「「「「「〈投影〉完了、展開!」」」」」
ナイトスライム×5体
〈投影Lv1〉〈業魔幻滅剣Lv2〉〈物拾いLv2〉〈ウインドカッターLv1〉〈地脈Lv1〉〈学習Lv2〉〈心眼Lv1〉〈トランジスタLv1〉〈連鎖反応Lv1〉〈地図師Lv1〉〈鷹の目Lv1〉〈森羅万象のワルツLv1〉〈秘匿Lv1〉
「な……スキルをコピーされた!?」
気付いたってもう手遅れだ。その絶望感と言ったら半端ない。ユニークスキルは奪えない。しかしビルドのユニークは戦闘では役に立たないので意味ない。ここで問題だったのはまず、秘匿の調べる系の対策はしていたが、コピーや強奪系の対策スキルを学習していなかった所に問題がある。失敗の原因は、サキが優しかったから。学習するだけで気づけなかった。「奪われる側」の立場に立って考えられなかったから対策を戦闘前に考えを練られなかった。
しくじったビルドは挽回を狙う方法を必至になって探す。
今度はナイトスライムがビルドににじり寄ってゆく……。
(スペック上、同じってことは。考えられる攻略方法はいくつか考えられる。①今から自分が急成長する。②同じスキルでもテクニックでナイトスライムを撃破する。③敵の弱点を探す……。④スキルを使わせまくってMP消費を誘う。こんな所か……)
①は、今から急成長するのは難しい、逆に模範されるだけだ。
②は、そもそも初心者のビルドにテクニックと呼べるほどの技は身についていない。
③は、弱点は動きが遅いぐらいだが、突破口になるか……。
④は、こっちの方が現実的だ、ただし時間が相当かかり長引くだろう。
(何にしても、今後奪われないためには鍵を付けて置くことと、奪い返すしか方法がないな……。あとはミラー対策って所か……)
ちなみにサキはミラーと呼ばれる相手が自分と同じ強さに成る場合の対策は持っている。ミラーシールドという盾装備とか。エボリューション・全で「攻撃が強すぎて跳ね返せない」とかだ。
《学習で〈投影Lv1〉〈鍵Lv1〉と〈奪取Lv1〉を習得しました!》
《物拾いで〈妨害Lv1〉を習得しました!》
〈投影Lv1〉一定時間スキャンする時間を有するが、成功したら相手のスキルをそっくりそのままうつす事が可能。なおスキル〈鍵〉されてるものは投影出来ない。
〈鍵Lv1〉選択したスキルに3つ鍵をかけて〈投影〉〈奪取〉などのコピー系を防げる度数。
〈奪取Lv1〉素手で触った相手のスキルを奪い取る。奪われた側のスキルは無くなって使用出来なくなる。
〈妨害Lv1〉特殊な電波をフィールド全体へ展開させ、敵味方のユニーク以外のスキル全てを使用不可能にする。
しかし打開策が見つからない、せめて相手のスキル効果を無効か破壊するスキルさえあれば……。
と、そこへ……。メスガキ鼠のプレイヤーがひょっこりと現れる。
「呼んだ~?♀」
「呼んでねえよデストロイ!」
デストロイという名の足手まといがもう一人増えた。と思ったが……どうやら打開策があるらしい。
「しょうがないなあ~~♀ スキルぐらいは破壊してあげるから、バトルはちゃんとやるんだゾイ♀」
「ユニークスキル! 〈MAXデストロイLv1〉! この戦闘中! 全てのスキル・特性を! 破壊する! 敵も味方も巻き込む大爆発だーー!♀!♀」
〈MAXデストロイLv1〉デストロイのユニークスキル。この戦闘中、全てのスキル・特性を、破壊する。敵も味方も巻き込む大爆発。
どっかーん! 阿鼻叫喚な悲鳴伝が敵味方問わず響き渡った。
「そうか! 自分から失うスキルを〈投影〉しても! 相手も失うだけだ!」
というかユニークの時点で転写出来ない。
上空からのサキから怒号が飛んでくる。
「ちょっとー! こっちにも飛び火したんですけどー!?」
お陰でタイプ、ゴースト・ドラゴンのゴーストドラゴンに攻撃が当たらなくなった。
飛べなくなったサキは天空から落っこちてきた。が、ヒーロー着地で難なく無事。
あとはテクニックオブ技術力オブ戦闘力でゴリ押すだけだ。
「そういや、ナイトスライムにゴーストドラゴンが憑いてる、だったわね?」
「? ああ。心眼ではそう写った。……てことは!」
シュン! シュン!
待ってても埒が明かないので、自分で何とかすることに。
サキは勇気を出して、ナイトスライム4体・ビルドは1体をタタタターン! と討伐し……終わった――。
否、討滅し終わった。鎖から解き放たれたように、ゴーストドラゴンは礼して。
天への道を登って行った。まるで天国への階段を上がるように……。
「ふう、何とかなったか、終わったから鍵付けとこっと」
「弱い人守りながら戦うって難しいね……」
「ケラケラケラ!♀」
《ナイトスライム達を倒した! レベルアップ!〈業魔幻滅剣Lv3〉〈心眼Lv2〉!〈連鎖反応〉により〈鏡転Lv1〉を覚えた!》
〈業魔幻滅剣Lv3U〉このスキルは便宜上ユニークスキルとして扱い、戦闘で破壊・投影・強奪の対象にならない。業炎の斬撃。敵のカルマ値が高いほどより強力な威力となって相手を追尾して襲う。スキル〈心眼〉レベルが上がるほど必中率が上がる。
〈心眼Lv2〉幽霊・不可視のスキル・種族が視える。視えないエネルギーの流動を観ることが出来る。例えばガンマ線とか。ノーマルタイプの技でも、攻撃が当たるようになる。
〈鏡転Lv1〉眼力を込めると相手のスキルをそっくりそのまま跳ね返す。力の方向を変えるので転写とは違う。
◇
道中――3人は登山をしていた。第三休憩所へ到着した、ここを拠点にしよう。
「さて、ここに大きな街と、スキルビルダーズの拠点を作るわけだけど。街の名前とギルドの拠点名を決めないとね~」
サキはおおらかにビルドと、途中からひょっこり現れて一緒に歩いているデストロイに今後の方針を言う。
「ラスナリオとかどうかな?」
「キリトタウン♀」
「それは絶対に違うと思うな……」
サキは軽くツッコミを入れる、影響を受けすぎだ……。
ビルドからしたら第一の街を第一拠点としたとしても、第二から第五までをすっ飛ばして第六の街の眼の前に……眼上に、初心者の拠点を作ろうとしてるのだ、お門違いにも程がある。常識外れと言うか、順序を知らないと言うか、身の丈を知れと言うか何と言うか……。とにかくそういう感じだ。
「街の名前はサキっちが決めていいよ。で、真ん中に位置するギルド拠点はスキルビルダーズとして決める」
「私もスキルビルダーズですか?♀」
もう十分に美味しいところを食って活躍してくれたから仲間でいいだろ、デストロイは……とビルドは思う。
女子二人、サキとデストロイは考える……。
「中間拠点であんま大層な名前つけてもなあ~。憩いの洞窟住居『スヤリ』とか」
「ビルダーズだから工房みたいな拠点がいいわね~♀ 『ビルド工房』とか!」
などと、口々に話している内に、ソレは待っていた……。
第三休憩所の中央地点に、銀鎧の男は居た――。
「システムコール! 大砲型全属性連続射撃! テラバースト!」
「な!? システムサーバーに直接オーダーをかけた!?」
サキは驚きを隠せない、ゲームマスターや運営にしかその言葉は唱えられないからだ。8色……否、18色の色取り取りの属性攻撃が、ギルド『スキルビルダーズ』御一行様に向けて直撃する。……が。サキには通用しない。
「エボリューション・極彩!」
18色に対して、数百色の波動でバリアを形成して、弱者・ビルドとデストロイを守った。何故こんな事を? とその騎士にサキが問いかけようとしたら。
「我が名は〈オーディン・ステラ・エイティーン〉! 【夢幻郷】を守護する最終防衛ラインと知り給え!」
18色の色は主の元へ戻って行った。その意味をサキだけが判る、ずばり、逆撃解析をさせないためだろう。十分すぎるくらいの手練れだった。
いきなり名乗りを上げられたのでビルドは身構える、いかにも上級騎士という感じの出で立ちである。サキとビルドとデストロイは身構える。
「夢幻郷って黄金郷とか幻想郷とか新世界とか言われてるあの郷?」
「然り! そして、緊急時の最終避難所でもある! この城塞は鉄壁である! 故に、我が守護神がお守りしているのである! ここは第ニ断層山地! ここに来ている時点で只者ではあるまい!」
ビルドとデストロイはよくわからない。
「どういうことだ?」
「なんだぁ~? てめぇ~♀」
オーディン・ステラ・エイティーンはサキにだけ敬意を払い、ビギナー2人には軽蔑に扱い言う。
「ここに来たということは休憩したいということだろう? ゆっくり休むといい、だが、お前たち2人は認めていない! 認められたければ我に力を示せ!」
サキは剣を下ろして、オーディンに対して一礼してから休憩所へ入った。
「……、だってさ。んじゃ私は先に休ませて貰うから、あんた達はゆっくりボス戦を楽しみなさい」
ビルド・デストロイは臨戦態勢に入り、オーディンは剣を前顔に構え、誇り高く、雄々しく言う……。
「おいおい休ませろよ!」
「ち、前回のは前座ってことかよ!?♀」
「覚悟しろ! 罪も翼も誇りも誓いも約束も責任も命も何もかも持っていない半端者に! 負ける道理は何もない!」
ドン! という音と共に地面が大花火の時の地鳴りのように揺れた。
《ボス戦、守護神オーディン・ステラ・エイティーンとの戦闘に入りました!》
本気でやばすぎる輝かしいオーケストラ風のBGMが鳴り響く。銀鎧の色彩が、極彩色の鎧と両翼へと姿を変える。さっきはのは本気じゃ無かったのだろう。
負けイベントかもしれない、そう思ったビルドだったが、純粋に「こいつにだけは負けたくない!」という強い想いも本能的に感じた。
「ビルド♀ こいつ……!」
「あぁ、実力は本物だろうな……!」
――だからって。
「俺達は第三陣先頭! 過去の遺産に負けてられるかよ――!」
「虚勢だけでは勝てぬぞ! 未熟者のヒヨッ子め! この身に背負った18番の誇り! ……見せてやる!」
3人組の戦闘をお菓子に、2人組の第二陣、サブマスターサキをゲームマスターヒメは休憩と実況と解説に入った。
「感じ的には老けた戦空型の騎士が、AIのアバターって感じかしら?」
「じゃな~、戦空はあんなに年季が入ってないじゃろ雄々しさは似てるが……」
「AIっていうか魂がデータ化してるだけのただの人間って認識で合ってる?」
「うん、その認識で合ってるのじゃ」
緊張感の有るバトル中のお茶菓子は、最高に美味しかった。
◇
〈第三休憩所〉、ビルドとデストロイが守護神オーディン・ステラ・エイティーンをドンパチやってる間。
パカラ! パカラ! と、知らないおじさん達が武装して馬を連れて駆け下りてきた。第三断層山地から第ニ断層山地へ……。何故だろう? その理由を噛み砕いて説明できるほど、ギルド『放課後クラブ』も『スキルビルダーズ』も情報を持ち合わせていなかった。
「あれは!? サキの嬢ちゃんじゃねーか!?」
「? 誰? 知らない〈髭のおじさん〉」
「あーお前、放課後クラブ親衛隊の……!」
サキとヒメと髭のおじさん達が鉢合わせにになった。
「知ってる人? てかたぶんビルドとは関係ないのよね?」
「まあそうなんじゃが……、簡単に言うと第零陣と第一陣の知り合いじゃ」
顔が広いなお姉ちゃんは、まあ全部知ってなきゃ流石にゲームマスターやゲーム進行は出来ないか……。
よく解らず休憩をしながらお茶をしているサキは、呑気に聞く。
「どこ行くの? 上? 下? それともココ?」
「髭のおっさんはプロだからな、たぶん用事があるのは第零陣か第一陣のどっちかじゃないか?」
「わからないが、とりあえず俺は上から下へ降りてきた所だ! 遠くの狼煙の所に大型のモンスターが居るらしくそこの救援だ! 俺には剣しかないからな!」
流石、戦乱都市アスカ。あっちこっちで戦闘が起こっている。彼らは上から下へ、ビルド達は下から上への大騒ぎだ。
となると、今の自分達に出来ることは……。ゲームマスターヒメが口を開く。
「第零陣先頭の居場所か、第三陣後方の居場所って所か?」
平たく言うと行列の一番前と一番後ろの情報をあげようか? と言った所だ。
「わかるのか!? 教えてくれ!? あとの事はこっちで何とかする!」
きょとん顔の姉妹はお互いの顔を見合わせせてから……。
ゲームマスターヒメが進行の流れを言う。
「まず第零陣じゃが、下に降りるのに苦労している。この登山の最大の難所は登りじゃなくて降りだからな。で、お前らが一番知りたがってるであろう湘南桃花先生じゃが、降りられなくて道中となると……」
「地図を見る限りだと、〈西の大門〉を抜けてないと思うから、〈第五休憩所〉あたりだとおもうよ!」
「んで、第三陣後方は〈第一休憩所〉で陣を形成中じゃ、ここには目ぼしい知り合いは誰もいないのじゃ」
ひとまず、目ぼしい目印、ないし道標を貰えた髭のおっさんは感謝する。
「助かる! この恩と縁はいずれ何かしらの形で! 今は急いでる! すまない!」
そう、短い言葉を告げて、髭のおじさんは馬とその他仲間達を連れて走っていったのだった……。サキは、騒がしい人達が去っていったあとに呟く。
「……流石、戦乱都市、荒れてるねぇ……」
「まあこのフィールドで迷走5年間ぐらいはあながち嘘じゃないからな……」
妹の感想と、姉の結論共にお茶飲むのほほん空間が出来上がっていた……。
湘南桃花先生の視点。眼の前はあたり一面霧状態であった。
第零陣営――。〈第五休憩所〉の近く……のはず……難易度極高。腕時計は加速したり、巻き戻ったり、止まったり、乱回転していた! 方位磁石も乱回転していた! 歩幅も降っていると思ったら登っていたり! 山の裏側に居たり! いつの間にか反転世界へ迷い込んだりしていた! 階段も一歩前へ上がったと思ったら下がってたり、下がったと思ったら上がっていた! ヘルプ! の狼煙をあげたが、地面の狼煙が流れてどっか行ってしまった!
「霧だー! 助けてー! 迷子ー! グー! 回復! 霧だー! 助けてー!迷子ー! グー! 回復! 霧だー!」
と、桃花先生はエンドレスで大自然の中で自然回復している……。
大型モンスターからは全力ダッシュで逃げて、水があったら頑張って飲み。芋があったらかぶりつき。目が霞んだら寝る。その繰り返しだった……。
「手を掴め! 離れるな! っと思ったら掴んで無かった!?」
「感覚が! 五感が麻痺してる! これじゃ進めない!? 夢の中に居るようだ」
「食料が尽きた! 誰か助けてー! あ、ダメポ、戦乱都市アスカからやり直し、……リスポーンします……」
フワっと消えてゆくプレイヤーが1人、また1人と仲間達が霧の中で消えてゆく。激むずダンジョンが出来上がっていた……。そんな中、自然回復する普通の人間桃花は、生きず死ねず、まるで黒渦に飲まれているかのような錯覚とともに、第六感だけを頼りに、突き進むのだった。
……というダンジョンの話をヒメから聞いたサキはと言うと……。
「……そんなダンジョンでも攻略方法を提示するのが運営では……?」
言われてヒメはサキにヒントを提示する。
「……、第七感や第八感があれば突破可能とか……?」
「それ普通の人間じゃ無理じゃん……」
ゲーム開始から8年間は過ぎていた……。
難攻不落の天然要塞、戦乱都市アスカ……。
この大陸から生き残るプレイヤー……未だになし。
「……、まあ、ゲームマスターのワシがフィールドを元の状態に戻せば全て解決なんじゃが……」
「お前元も子もねーよ!」
全くその通りだった――。
◇
※心氣について※
この世界では、スキルを使用するためのエネルギーソースは【心氣】と呼ぶ。
心氣は体内で錬るもの、自然界に元々あるもの、様々だがMP・マジックポイントよりより難易度が高いものとして設定されている。心氣によりスキルは作られ、スキルを分解すると心氣エネルギーに戻る。
話を戻して……。ビルドとデストロイはオーディン・ステラ・エイティーンと戦っていた。で、結論は負けた。
「全力で相手してやろう! ……と思っていたのだが王からの命令でな、今は5%ほどの力しか出せないことを許してくれ!」
そう言って、銀鎧の男は剣を突き出した。
〈心喰Lv2〉①自分、または相手のスキルの元となるエネルギーソース、心氣を喰らう。②人間が自然に手を加えて形成してきた物心両面の成果、文化を喰らう。
「!? また知らないスキルだ! てか文化って何だ文化って!?」
文化という単語が胆略的・抽象的過ぎて解らない。だが、ナレーション機能が教えてくれた。
《解説。人間が自然に手を加えて形成してきた物心両面の成果。衣食住をはじめ科学・技術・学問・芸術・道徳・宗教・政治など生活形成の様式と内容を含む》
「つまりただの物も食べるし、心のある成果物も喰らうってことか?♀」
「手で作ったものは何でも喰らえるって意味か……? だとしたらスキルは全部喰われるのか? ならユニークスキルなら! 業魔幻滅剣!」
鍵付きスキルを使うことも考えたが、業火の炎ならユニークだし前回みたいな〈取られる〉という心配もない。
ガキン! とビルドとオーディンの剣が打ち合った。
「つまらん剣だ、というかその誰が作ったか解らぬほど単調な作りの剣は何だ! ナマクラの剣でココまで登ってこれたというのか!」
おっしゃる通りでございます……。
「技術がいくら高かろうと、耐久値が無い剣では宝の持ち腐れだぞ!」
「ビルド! この! MAXデストロイ!♀」
「心喰!」
デストロイの全てを破壊するスキルは、心喰によって効果を全て喰われた。
「お前の心氣の味はサイダーのようだな、炭酸のように弾けて奇を衒う様だが、実のところ甘い。……子供が好きそうな飲み物だな」
「こんのー! ガキ扱いしやがってー!♀」
と、その時。「そこまで!」とサキが審判を下す。あまり長く戦っても勝ち目も無いしその1撃で実力の寸法が図れたのだろう。これ以上は不毛だ。
「ふむ、……では休むといい。我も実力を示せと言ったが、勝てとは言っていない」
そして、オーディン・ステラ・エイティーンはビルドに助言をする。
「まずは剣を鍛え直せ。ナマクラの剣ではこの先すぐに折れるぞ……文字通りな」
初期装備のヨワヨワ耐久値で最前線まで来てしまったので。ビルドの〈ナマクラの剣〉は先の一撃で……、パキン! と、今折れてしまった……。
「あ、これじゃ戦えねえ……」
「む、すまぬな。剣を壊してしまった、代わりと言っては何だが。このインゴットで鍛え直して貰ってくれ」
そう言われて、ビルドは〈よくわからないインゴット〉を貰った。
〈第三休憩所、憩いの洞窟住居『スヤリ』、ビルド工房〉
誰も住んでいない部屋をビルド工房と名を付けて、ここを拠点とした。
「さて、やっと休憩出来た所だし。俺はスキルのビルドを……」
「その前に剣買いに行こうぜ♀ 今無手じゃん」
「……素手の時に出来るスキルも考えとくか……」
と、何を考えてもまずスキルスキルスキルと、スキルゲーを楽しんでいるオタク。
それはそれとして、目ぼしいを剣を武器屋で買わなければ、初期装備じゃキツすぎるのである。
「ちなみにサキっちのその豪華な両手剣の名前は?」
「……、真昼ノ剣と真夜ノ剣……あげないわよ? 大切な剣なんだから」
「わかってる、聞いてみただけさ」
サキの剣は、見るからに名刀という感じの剣だったので、どうしても聞きたかったのだ。好奇心というやつである。
「さーて俺の剣かー、探さないとなあ~」
そう言って、ビルドは自分の拠点地〈ビルド工房〉出て、街になる予定場所を散策するために1人で外に出歩き始めるのだった。
「俺の場合、スキルが強くてもそれに耐えられるだけの耐久値のある剣にしないといけないわけか……」
《返答。はい、ビルドの場合心氣を多く使い、尚且つそのスキルにレベルに耐えられるだけの耐久値が必要になります》
「ん~今の俺のスキルって、攻撃系より変化系だなあ~投影とか学習とか。魔法剣系がいいのかな?」
というわけで名も知らぬ武器屋に来た。ビルドはおもむろに尋ねる。
「爺さん、ここにスキルに強い剣って売ってないか? 耐久値が高いの」
「おん? とにかく壊れにくい剣って事かい? 生憎壊れない武器なんてこの世には存在しないよ。まあ限りなくってなら出来るが、それなら何かしらの〈インゴット〉を持ってきてくれ」
おっちゃんは店のそこら辺に置いてあるインゴットを見せた。あ、そう言えばオーディンからインゴットを貰ったな。「おっちゃん、コレで何作れる?」と言った束の間。
「こ……! これは! 〈黒銀グラムのインゴット〉!? あぁ作れるぞ、コレなら〈怒涛剣グラムボルト〉が作れる!」




