第64話「リスクVSスズ5」
時が止まる。
そのリスクとスズの中央にはヒラリ、と。
花びらが風に流れて飛んで来た。
タンポポの種、綿毛。
それが一輪。
スズにはその花の種に感情が動かされてしまった、何かを感じて揺らいでしまった。
リスクは閃光、やはりここでも迷わない。真っ直ぐ直進してきた、これまた牛みたいに。スズは、「ああ、自分はカニみたいだ」とか言われて激情したっけ。と思考する一瞬の間が生まれた。だが、ここにきてそんな単純な油断なんてもう無かった。時は静止したまま、世界は黒一色に暗転する。
相変わらず単純一直線だったリスクの拳は、スズの顔を横に薙ぎ、空を切る。
神速、ギラリと眼光をスズは煌めかせながら。ゆっくり、ゆっくりと木刀を構え直す。そして木刀を振り下ろす瞬間。
同じく神速、リスクの眼光がスズの方向を向いた。そのままゆっくり、ゆっくりと顔がスズの方を向く。
ここに来てスズにもう迷いは無かった。
「でやぁあー!」
リスクに顔面一発、木刀によるクリティカルヒットが食らって決着すると思ったが。
リスクは尚も眼光そのままに揺らがず、スズの方を向く、いや前進してくる。
「な」
と思ったがこれでは前回の場外乱闘と同じだ、スズは意を決して覚悟を決める。
リスクの足が下段から一気に上昇、スズに顔面上段の蹴りをクリティカルヒットさせ。スズは吹き飛ばされ、リスクも体の体制を崩す。
両者ゴム上の地面にドスンと倒れ、時が動き出す。一つの決着がついた。が、観客がざわつく。
「ど、どっちが勝ったんだ。し、審判!」
審判は情報処理が追いつかずに、心神喪失状態に陥りドサリと倒れた。
リスクもスズも顔に打撲傷を浮かべながら、放心状態になる。
「じゃ、じゃあビデオ判定だ! リ・リプレイ動画を」
「んなもん、ここにはねえよ!」
「えー! じゃあどうすんだよ!?」
ザワザワザワとざわつく観衆、どうすればいいか皆解らなかった。
咲は姫に囁く。
「運営権限ならログ残ってるんじゃない?」
「それも出来るが、その場合わらわ達が運営だとバラしてしまうぞ。今後の冒険に影響がでる」
「あ、そっか」
一人の観客が立ち上がり手を上げる。
「あ、じゃあ俺スズちゃん勝利に一票!」
「え、じゃあ俺はリスク勝利に一票」
そんな流れで話が進んで行ったらスズ勝利の判定の方が多かった。観衆はウオオオ! と激戦を褒め称える。
「勝者! スズー!」
「第2回EMOジュニアカップ 決勝戦 2代目エレメンタルマスターはスズだあぁー!」
そんな大観衆の歓声の中、天上院咲は、運営権限でログを観ると……。
勝者:リスク
「…………」
過程や行程を無視した、無機質な結果だけが残っていた。
咲は、感情を押し殺して。唇を噛みながら何も言わなかった。
一つの決戦が、幕を閉じた。




