第621話「承・スキルビルダーズ①」★
仮想世界、エレメンタルワールド・オンライン。
咲と姫は今現在のデータとワールドマップを比較する……。
「あれ? 咲、お前。戦乱都市アスカまで行ってるってマップで出てるけど……確か魔王城ロキまでしか冒険してなかったよな?」
姫が咲のログを確認すると、道中の会話ログがすっぽり抜け落ちている……。
「あ! しまった! そうだった! 戦乱都市アスカまではお姉ちゃんとは別口で行ったんだったよどうしよう!?」
「おいおい……しょうがない、また吸収合併になるがデータの結合するか?」
「あ、はい……します。途中の流れがわけ解んなくなるので……」
「まあ、それは良いんだけどさ【空白の6万文字】が出来てるじゃねーかw!」
「あ、あはははははw! ……は~……どうしよう」
姫は呆れる。
「……、ここは鍛え抜かれた読者様を信じよう、大丈夫、内容はちゃんとしてる。いつも通りだから……」
「あ、あははははは、……ってーことで! 過去回想挟みまーす!」
◇◇◇
現実世界、西暦2037年9月15日。
まず、主人公。円卓心八の好物はオレンジジュースだった。オレンジは良い……。心が洗われる……。
〈ログイン、オン!!〉
〈第一の街、始まりの街ライデン〉
人人人……、街には、初心者プレイヤーで溢れかえっている。
とは言えまずはスキルだ、VRゲームに始めてログインしている以上。スキルを習得しないわけにはいかない……。
本名、円卓心八
プレイヤー名、ビルド。
スキル〈斬撃Lv1〉
「……」
これだけだった、コレしか彼の存在価値はなかった。
「しゃーない、これからいっぱいスキルをビルドしていくか~~~~」
などと、脳天気な事を言いながら。心八は、散策へと向かうのであった。
……、と、その前に。
「まずはギルド登録しなきゃ始まらねーよな!」
こうして、ギルド『スキルビルダーズ』は出来上がった。……まだ3人だが。
「初心者なんだから、優しくしてくれよな!?」
「ん~どうしよっかなあ~? スパルタも案外悪ない……?」
「ビルドに限っては良いんじゃないかな? なのじゃ」
左右にいるのは超ベテラン上級者、天上院咲/サキと、天上院姫/ヒメだ。
ここではサキとヒメで名が通っている、二人共バリッバリのガチっガチの最前線
プレイヤーだ。
これから先、追いつけるか心配なビルド……。
「で、これから先の事を最前線プレイヤーであるお前達2人にレクチャーしてもらおうと思う」
ビルドは初心者プレイヤーだ、何が何だかさっぱり解らない。
こういう時、ベテランがいると……何と言うか便利だ。
「じゃーそんなわけで好例行事! 草原でスライム退治だー!」
「おー!」
「お、おおー!」
雄叫びとともにビルドは右腕を上げる、こうして、冒険が始まったのだった。
で、1人で冒険に出たのだが……。
「何とレベルが2になった!」
それは良いのだが……。
何かユニークスキル〈ビルド〉なるものを付けて帰ってきた。
「何でユニークスキル持って帰って来るかな……」
ヒメがツッコミを入れる。
「本当だ、学習してもコピーや強奪、〈習得〉が出来ない」
「仮に無理やり強奪しても、ゴミスキルに成り果てるだけだからな、それがユニークスキル」
それは知らなかった、とサキは言う。
んで、ビルドの方なのだが。
「んで、色々スキルを拾ったので無理くりビルドしてみた」
「ん? 拾ったの? 技マシン的な感じでかな……?」
「じゃね?」
ここはエレメンタルワールド、何が起こっても不思議じゃない。
【所持スキル】
スロット1〈ビルドLv1〉
スロット2〈業魔幻滅剣Lv1〉
スロット3〈ウインドカッターLv1〉
「どうだろうか?」
攻略組上級者の2人に判定をお願いするビルド。
「良いんじゃないかな?」
「あぁレベル2にしては上出来じゃ!」
やったぜ! これで俺も晴れて冒険者の仲間入りだ……! と、息巻いて喜ぶビルド。果たしてこの冒険やいかに……?
「所で、2人からマップはもらったが、俺のまずすることって何だ?」
2人はお互いの顔を見合わせてから、同じ答えを返す。
「漫才の相方じゃな、会話のキャッチボールができん」
「一緒に冒険をしてくれる相棒、良くも悪くも支えられる」
そうなのか? と、結構不思議がるビルドだったが。
ヒメは冷静に言う。
「今はわしら、サキとヒメが会話を持たせているが、立派なギルドとして冒険を続けるなら、個性的な相棒、ないし。心の寄せられる安心して冒険できる相棒は必須じゃな」
サキはおおらかに言う。
「ログインしてからのオススメのプレイング方法! オススメは1人でもギルドを作ること! 移動拠点か、固定拠点か! とか何だけど……、ビルドくんはもう出来てるから、次に必要なのは【漫才の相方探し】かな~~~~、これずっと会話のキャッチボール劇が続くから。かな~り重要だよ??」
「なるほど相方か~~~~」
ビルドは手を顎をくっつけながらウンウンと頷いた。
「最悪、最初に組む相方、1人から2人が最後まで命運を分けると思っても良い」
「だよね、私達の冒険の場合。最初から最後まで一緒で、途中から入ってきた相棒は全員空気だもん」
それはちょっと言い過ぎなんじゃないかなとも思うが、あながち間違ってはいない。
「なるほど、物語の最後の最後まで一緒に居たい漫才の相方か……」
ビルドは「ようし!」やるぞ! と気合を入れる。
「最後まで一緒ならまずは面接だ!!!! 漫才の相棒を面接しよう!!!!」
どの面が下げて面接と言うのだろうか……????
◇
というわけで、実際にコントをやって今後の展開を占うことにした。
エントリーナンバー1、メスガキネズミちゃん。
「あ♀ あは♀ ザコじゃん♀ ザーコザーコ♀」
「おい! 裏方でプロフ読んで、こいつと話しをしたが! キャラが濃すぎるぞ! 俺が作ってこいつが壊す、みたいな相棒構成みたいだが! 何か色々ツッコミどころ満載だぞ!」
「なぁ~んでじゃ~ん♀ 別に減るもんじゃないし~♀ そのヨワヨワビルドで残念な錬金術作ってよ~~♀ ザーコ♀、変態♀、気持ち悪い♀ 刑務所帰って貰って良いですか~~~~♀」
「……、なあ、サキ&ヒメ。俺の相棒、これででいいと本当に思ってるのか!?」
「ナニソレ~!♀ ひっどい言われよう何ですけど~~~~♀?♀」
「触んないでよ♀ 逮捕するよ♀ 囚人さん♀」
「触らねーし! 逮捕もされねーし! 囚人でもねーよ! パワハラ通り越してむしろお前がセクハラだ!」
――審査員、サキとヒメは冷静に困惑する。
「……【強烈な個性がある】ことは良いことなんじゃが……」
「こ、これが相棒……、このノリを最初から最後まで……?」
……持つかな? 保てるかな? 主にビルドの性癖が歪みそう。
「まともに考えれば、最初はお飾りで♀ 付けまくっても別に問題はない」
「ないけど、相方が疲れそう。……脇役で輝き過ぎちゃった三下みたい」
「あーあるよね、主人公より目立って作品食っちゃったみたいな……」
「数こなせば、慣れて馴染むと思うけど、終始メスガキネスミちゃんと一緒に居たい、相棒として、パートナーとしてコントを永遠するとなると……」
「あと、これは余波じゃが、社会的影響力がめんどそうだな」
「悪と善の対比としては良いかもよ?」
「だとしたら善、主人公ビルドが弱い。タダでさえ宗教法人とかいうわけわかんねー組織票が多いのに、更に和をかけて酷くなる……」
エントリーナンバー2、等身大幼馴染ちゃん。
「何さビルドまた寝坊したの~? たーっく私がいないとダメなんだから~」
「しょうがねえだろ? 俺朝速く起きるの苦手なんだからさ」
「そんなこと言って、また夜中までゲームしてたんでしょ~? ダメじゃない、ちゃんと区切りの良い所で寝なきゃ、メ!」
「ぐぬぬぬ、すみません」
「あんたの事は私がよく知ってるんだから、体に気を付けなきゃだめだよ~?」
「へーい」
――審査員、サキとヒメは冷静に平静だった。
「普通だな」
「まあ等身大ですし?」
「湘南桃花の系譜何だよなあ~、ある意味一番安定して長続きする型とも言える」
「それだったら桃花先生がいるじゃん?」
「それな、成功体験があるから等身大で行こう。は冒険してない感じがする」
エントリーナンバー3、頭の良いお姉さん。
「また宿題わすれたの? しょうがいなぁ、私の写してあげる」
「え、まじ? 本当? ありがとう~!」
「と、思ったけど~。それじゃあ自分の身にならないので私がミニテストしてあげまーす! まずフェルマーの最終定理について~……」
「わかるか!!」
「あぁ、その定理が解けない問題だって頭ぐらいはあるのね~」
――審査員、サキとヒメは斬新に思えた。
「お姉さんキャラかー」
「今まで、ロリ・ガキ・チビ・頭悪い系の相方女性が多かったからこれは意外ね……新天地?」
「まあ掘り下げてない地平線ではあるものの……あと、変に子供に解りやすくとか、小中高校生に媚びを売る必要はないのはデカイアドバンテージだ」
「こんな頭の良い高校生居るか! ぐらいが逆に小説に向いているみたいな?」
「そうそうそんな感じ。じゃあ最後にあれやるか!」
「でたよ闇鍋……、全部混ぜれば美味しくなる的な発想……」
エントリーナンバー4、等身大の頭の良いメスガキ幼馴染お姉さんネズミ。
「てゆーか! この発想だと頭の良いロリ巨乳のイメージあるんですけどー♀」
「それはお前の発想だろ!? てか中身がウザいママじゃねーか!?」
「ヤダー!?♀ その歳でマザコン♀!? お家帰っておっぱいチュパチュパしててくれませんか~赤ちゃ~~ん♀ 私は政界の娘で忙しいんですう~♀ パスで♀ 帰って♀ ダッシュで♀」
「ガキなのか頭いいのかどっちかにしろよ!? マウント取られるジャネーか!」
「ヤッダー!♀ 弱いものイジメしか出来ないんですか♀ この弟くんは~ダメだぞ♀ お姉ちゃんがしっかりダメ人間にしてあげるからねえ~♀ クズくん♀」
「やりずれーぇーーーー!!!!」
――審査員、サキとヒメはこれならイケそう! と何かを掴んだ。
「【頭の良いウザイメスガキロリ巨乳お姉さん】ならイケる気がするのじゃ」
「あー、そっち系ね。からかい上手とかイジらないで系の系譜。確かにそのコントはやったことないね」
「それなら他のキャラとも被らない。小中高校生に媚を売るような〈子供政策〉をやる必要がない、頭良いしな」
――結果発表。
「で、俺の相方は誰になったんだ?」
「エントリーナンバー4番の〈頭の良いウザイメスガキロリ巨乳お姉さん〉じゃ、それが採用」
「ちょっと待て! 盛りすぎだろ!?」
「相手が頭良いから変に子供向けに小説を書く必要がない。メスガキという濃ゆい属性にはウザイは付いてくるが、お姉さんキャラなら居るよね、みたいな感覚になる。以上で採用」
「まじかよ!? てかまだ名前も聞いてねーし!」
「やったー!♀ マジありがとうー!♀ ちなみに名前は〈デストロイ〉です♀ よっろしく~ボクちゃん!♀」
デストロイが小気味よい感じで相棒認定されたので、ビルドは盛大に困惑し、叫ぶ。
「あぁ! やっぱやりずれえ!?」
サキとヒメの総論がまとめられた。
「観てる方は飽きないから大丈夫」
◇
別にメスガキな彼女が悪いわけでも無いし。回りからの評判、ウケが悪かったら保留、というのもちょっと違うが。もう少し1人で散策したいな、という思いもあってか。散策を希望した。と、その前にビルドは、咲にどうして今までのエンジョイプレイを辞めて、引退したのかを聞くことにする。
「ん~……。もうやり尽くしちゃったってのもあるかなぁ~世界を隅々まで遊び尽くしたというか……」
サキの返答にヒメが追記の補足をする。
「別に遊び場が無いわけではない、アシアー大陸を所せましと駆け回ったからな、3つの大陸のうちの1つだけだ。それで体感5年10年遊んだ気分になっちゃって、気分転換したくなった……というう風な体が正しいじゃろうな」
性格が真面目ゆえに、息抜きの仕方が下手だったのかもしれない。
サキは、攻略組のやり方を見習って、新しく拠点を移動するのもアリかもしれない。しかし、それこそ前人未到の神話の地だ。大変じゃないと言ったら嘘になる。
「攻略組に習って、新しいギルドの拠点、2号店? 2号街? を作るのも悪くないかもしれない」
というか、その手があったかもしれないな。と言う風だ。……今となっては新しい新人を応援した体もあるのだ。今更しゃしゃり出ても……。という、湘南桃花先生の気持ちになっていしまう。別に自重するつもりはないが。歴史の積み重ねが、それを簡単には許してくれない、という側面もあるのだ。
そんな他者の目を気にしても良いこと無いのに、というサキの気持ちをビルドは察して余りある。否、解るわけがないのだ、彼は初心者、ビギナー、ルーキー。
新しい門出を邪魔するつもりはないが、何だか寂しい気持ちになる。
まるで、攻略本を持ってしまったプレイヤーみたいなウキウキ感の無さだ。
このビルドと言う少年は、初めから足をつまずき、転ばない方法を知っている。先人の知恵と叡智と教訓から学べるのだから……。
サキは更に考える。同じ道だとしても雲泥の差がある。彼に解るだろうか? 初めから地図もない未踏破の地を未知識のまま我武者羅に突っ走る愚かさと楽しさを。愚直に前に進む〝楽しみ〟を……。
「何をそんなため息をついてるんだ?」
ビルドがサキに聞く、本当にわからないのだ。いきなり先生臭くなる話をビルドにする。まるで過去の自分を観るようだ。
「私は〝ワンピースを知らない世代〟ビルドは〝ワンピースを知ってる世代〟ってことよ。宝箱の中身味は、開ける前が楽しい、謎々遊びは楽しいけれど、解けない謎は面白くない。そして解けたら一気につまらないものに成り下がる。熱が冷めるそういう話です」
頭の良いビルドは何となく解る、否、バカじゃないビルドには察しがつくという言い方のほうが正しい。
「つまるところ」
サキの深呼吸の間にビルドが答えをはじき出す。
「求めるものは眼の前にある? もしくは、自分の手で作らなきゃ欲しいものは手に入らない?」
まぁ、そういうことなのだ。サキに無くてビルドにあるもの。それは〈安全な道〉なのだろう。勿論、全部が全部安全な道じゃない。やり直す事だって出来るが、それにしてはサキは転びすぎたのだ……。
「私の道は、もう収集がつかないのよ……」
それは、距離や時間ではなく、技術的な問題だった。
「さて、私が最前線から離れた理由や挫折話はこの辺で良いでしょ? あんたの冒険をしなさいよ。私は私の船を自分で降りた。後悔や否定はない。ただ、タイミングが、いや、技術力が、無かっただけ。実力不足だったらコレでいいの」
ビルドがある程度サキの話を聞いたあと、ふとある考えが過ぎった。
「じゃあ俺の相棒をサキにするのはどうだ? デストロイはとりあえず保留で」
デストロイにとってはたまったものじゃないが、ヒメがベテラン経験者でサキが初心者。だったのを今度はサキがベテランでビルドが初心者の相棒漫才だったら。別に出来ないもない。という奴だ。デストロイには〈追放ルート〉を楽しんでもらおう。
「……、まぁ良いけど。ビルドの物語食わないように自重するわ」
「おう! これは俺の物語だ!」
ということで、さてどこ行こう。……という話になるわけだ。いつの間にかヒメは居なくなっていた、どうやらログアウトしたらしい。
「言っとくけど、私はもう始まりの街の闘技場で遊ぶの飽きちゃってるからね? 散策なら付き合わないよ?」
サキは面倒そうに言うが、ビルドはならと答える。
「最前線に行こう、初心者を守りながら上級者は未開の地を探索して遊ぶ、コレならお前も俺も面白い!」
「……はぁ……まあいいけど。最前線となると、〈アシアー大陸〉じゃなくて〈リュビアー大陸〉になるわね。場所は〈第一休憩所〉の〈東の大門〉付近から? リスポーンして東の大門を凱旋する、みたいなルートね。」
やる気は無さそうだが、心の底ではちょっとドキっとしたサキ。
「今もあそこを守ってるなら、〝何とか・ツー〟が守ってるし、〈第ニ断層山地〉が今の最前線、そこまで行けば……まあ私も楽しめるかな?」
誰も知らない未開の地は、やっぱり楽しいようだった。
「何だか楽しそうな顔になったな」
「別に。私の顔は〝ワンピースへの直線航路を知らんまま完走しちゃって後で知った風な顔〟よ……、あんま褒められる顔じゃないわ」
とか言い、サキはクスクスと笑う。
「よーし! そうと決まったらその〈リュビアー大陸〉の〈第一休憩所〉まで行こうぜ! パパッとな! 俺のビルドはその後だ!」
第三陣が偉そうに、とか思ったが第三陣なのか第四陣なのか怪しい……。まあ第零陣が非理法権天なら、第一陣は四重奏、第二陣は放課後クラブ、第三陣がスキルビルダーズ……。というのはあながち間違ってはいない。
「んじゃ行くよ、リュビアー大陸、第一休憩所へリスポーン!」
言って、サキは初心者ビルドを連れて、最前線へと飛んだ。
――飛んだ先は、建築とか慌てふためいている人が多かった。人も物資も防衛陣も足りてないらしい。新しい拠点を〝上へ〟運ぶために、手荷物とか何から何まで足りないのだ。猫の手も借りたいんだろう……猫の触手はどうだか知らんが……。
「てーわけで着いたよ、最前線。何やる? 言っておくけど、最前線のボス戦は無理だよ。どうやったってレベルが足りない」
この場合レベルとは、ステータス的な事ではない。技術的なレベルが足りないのだ。
このゲームは実は頑張ればレベル1でも攻略可能なのだ、だが色んな意味で難しい。何故ならこのゲームは技術を、テクニックを要求されるクエストが多い。
上手ければOK、下手ならNO、そういう世界だ。だからこそ、上級プレイヤーは技術を、スキルをこれ見よがしと披露しアピールする口がある。
「じゃあ、最前線の野生のモンスターで試し斬りしてみる!」
「したいんならすれば良い。あんまり死ぬんだり、時間かけるんじゃないよ~」
素朴にサキはあしらう、最前線で好きにしたいなら好きにすれば良い。
「お、あんな所にいい感じのナイトなスライムが!」
拠点のちょっと外側を観ると、騎士の格好をしてスライムに跨ってるナイトが居た。〈ナイトスライム〉かな? サキにとっては、PVP戦ばっかりで、モンスターとの戦闘なんて、久しくやっていない。
「んじゃ! 初心者ビルドくん、最前線のモンスターを初級レベルで倒して遊んでみなさいな! 私は見ていてあげるから」
言われたので「わかった!」とビルドは答える。
「さあて! 楽しい楽しい初戦闘の始まりだぜ!」
ビルドは雄々しく、雄叫びをあげた。
◇
厳密には第零陣&第一陣と、第二陣&第三陣の間には天地の差がある。
とは言っても、どちらもリュビアー大陸まで行って、そこで止まっているので大陸間で言えば大差無いのだが。【最後の大陸】エウローパ大陸を誰も踏破どころか足を踏み入れた者も居ないのだ。
具体的には、第零陣&第一陣はリュビアー大陸の山頂、第六の街『戦乱都市アスカ』までは踏破成功しているのだ。
だったらここが最前線じゃないじゃん、とも思うが。第二陣&第三陣にとっては最前線なのである。
戦乱都市アスカへ仲間を連れての〈連れリスポーン〉が第一断層山地の何処か、からしか出来ないのだ。よって、第二・第三断層山地は否が応でも登山なのである。
霊山なのか、氷山なのか、超能力山なのか知らないが。視えないモンスターが当たり前のようにうじゃうじゃ生息している。あと目に見えるもの以上のものが視える魔法とかも居る。何なのこいつら!? と言わんばかりの強さだったようだ。
第三断層山地は【視覚出来ない概念】の敵だらけ、今でこそスキル〈心眼〉があれば何とかなると、攻略最上位陣からそう聞いたが。当時のノーマル冒険者は苦戦中の苦戦を強いられた。
視えないし、攻撃は食らうし、呪われるし、当たらないし、時間操作してくるし。
そりゃもう大変だったのである。
それもコレもモンスターから恨みを買った第零陣、ギルド『非理法権天』のプレイヤーのせいで、第三断層山地は霊山とか化したと聞いたからもう第一陣と第二陣は怒った。プンプン丸である。
で、そんな中凄まじい業運で駆け上がっていった第二陣、ギルド『四重奏』組と。凄まじい不幸で置いてきぼりを喰らい、未だに第一断層山地と第二断層山地を上下で右往左往と迷走しているのが第三陣、ギルド『放課後クラブ』だったわけだ。
そんな中、もう嫌になって匙を投げたのが、ギルド『放課後クラブ』のナンバー1、実質のギルドマスター、天上院咲ことサキなのである。
第三陣のトップが居なくなってから数日後? 彼女は再び第三陣へ舞い戻ってきたのである。
ついでに第四陣も連れて来て……。力になるのか全く不明だが、足手まといかもしれないが、味方プレイヤーを連れて来たのだった。
そんなこんなで第四陣のギルド『スキルビルダーズ』ことビルドは初戦闘に挑むのであった。
「さて、どうやって倒そう」
ビルドのスキルは〈ビルドLv1〉と〈業魔幻滅剣Lv1〉と〈ウンドカッターLv1〉である。どれを試してもさしてダメージはない、〈ビルド〉に至っては攻撃技ですら無い。したがって……。
「業魔幻滅剣!」
迸るカルマを滅する業火の炎を纏った剣が、ナイトスライムを襲う!
「勝った」とビルドは思った、だがここは曲がり形にも第三陣最前線! ナイトスライムは奇妙な動きを見せる。
「トランジスタ」
シュン! ナイトスライムはそう呟くと一瞬で電子の海に消えた。
「消え……!?」
そう思った瞬間には背後を取られていたが、ビルドはそれに気づき、前方向へ逃げる、斬撃を紙一重で避けた。
あーなるほど、これは初心者じゃ無理だ。と悟ったサキは助け舟を言葉で出す。
「トランジスタは電流? を増幅・発振・スイッチングをする。簡単に言うと電気を自在に操るナイトスライムだよー!」
全く初心者に優しくない攻撃だった。スイッチングって確か、絶縁体、つまり0や1に出来るって事だよね?
「なるほど、雷を纏う剣で、スライムの方は何だ……?」
「プルンプルン……!」
……、ただのスライムのようだった。つまり足は遅い。通常の足は遅く、特技を使うと意味不明な素早さになる敵のようだ。
(つまり、スライムに乗ってることによってむしろ弱くなってる敵か? ならナイトを倒してからスライムを殺れば……!)
カチン! バチン! ブルルン! と斬撃音とスライムの弾力音を数撃聞いた後に……。ビルドはスキル〈地脈Lv1〉を拾った。
〈地脈Lv1〉生きた地脈を操り、地属性攻撃を流れのままに相手に当てるスキル。
ということで早速だが使わせてもらった。
「地脈!」
地面は波を打ち、まるでゴムのような性質で、ナイトスライムに地震が襲う!
「今!」
足場がグラグラ揺れ、動けなくなっている隙に。
シュバン! と、地面から岩の柱を大砲のように錬金術錬成してから点火するように放った。
上に乗っていたナイトスライムの鎧は砕け、驚いた下のスライムは逃げ出して行った。「へへ! どんなもんだい!」
ビルドは、倒した事により経験値を稼いだが、今はまだレベルに振らないで貯めておこう。次期や必要に応じて使うのだ。
「80点」
戦況を終始見ていたサキだったが、案外高評価? キビシめ? 最初の初心者にしては上出来なのか、判断に困る点数だった。
「それ、褒めてるの?」
「褒めてるわよ?」
「あ、そうですか……そっちは何か収穫あったか?」
「うんまあ、何となくね。久々に最前線へ来たら、泣いて喜ばれたわ……」
サキにとっては、若干複雑な心境だった。良いには良いのだが、若干反応に困る、と言う意味で。
◇
ビルドはモンスターを倒し、新しくスキルを手に入れてレベルアップした。
プレイヤー名【ビルド】ランク【ビギナーランク】
〈ビルドLv1〉〈業魔幻滅剣Lv2〉〈物拾いLv2〉〈ウインドカッターLv1〉〈地脈Lv1〉〈学習Lv1〉〈心眼Lv1〉〈トランジスタLv1〉〈連鎖反応Lv1〉
普通に使っていた〈物拾い〉コマンドがスキル化してレベルアップする。
まだユニークスキル〈ビルド〉は進化を発揮していない。何故ならスキルとスキルを合成するのがビルドであって、初めに〈物拾い〉のレベルを上げなければ強力なビルドにすることも、ビルドレベルを上げることも不可能だからだ。
◇詳細◇
〈ビルドLv1〉ユニークスキル、スキルとスキルを合成する。
〈業魔幻滅剣Lv2〉業炎の斬撃。敵のカルマ値が高いほどより強力な威力となって相手を追尾して襲う。スキル〈心眼〉レベルが上がるほど必中率が上がる。
〈物拾いLv2〉自動物拾い効果、意識しなくても無意識にスキルなどを拾う。
〈学習Lv1〉見聞きしたこと、戦闘や会話などで学習したことを、我が身となって習得する、簡単なスキルしか習得出来ない。
〈心眼Lv1〉幽霊が視える。ノーマルタイプの技でも、幽霊に攻撃が当たるようになる。
〈トランジスタLv1〉ログがない0時の攻撃も、ログがある1時の攻撃も、二進法として処理し攻撃が当たるようになる電撃技。とても速く先制出来るが威力は低く、またスキル〈猫騙し〉などに弱い。
〈連鎖反応Lv1〉スキルとスキルの間に発生する科学反応で、新たなアイディアが浮かびスキルを習得する。スキルを習得した時にのみ、新たなスキルをついでに習得するスキル。
なぜかユニークスキル〈ビルド〉とは関係のない所でスキルがどんどん増えてゆく。特に注目すべき点は〈物拾い〉と〈学習〉だ。
物拾いで地脈スキルを取ったのは良いが、それとは別。自分の無意識下で手に入れたスキル物拾いと違って、学習は自分がさっきまで学習して知った知識を自分のスキルに出来るらしい。その学習により心眼、トランジスタ、連鎖反応を習得。
「ん? 今〈猫騙し〉を学習したが、なぜ習得できなかった?」
その時、頭の中からナレーションのような声がした。
《解答。猫騙しは悪党タイプの技で、善人であるビルドには習得不可能だったためです。よってスキル〈学習〉は発生しましたが習得不可、となりました》
「おわあ! ビックリしたぁ!」
ビルドは心の声でも自動再生されたのかと慌てふためいたが、どうやらそうでは無いらしい。様子を見ていたサキが解説する。
「へぇ、ナレーション機能なんて私の時期にはほぼ無かったのに最初から実装か~……よかったね。ぼっちでも話し相手が居るよ」
ビルドにとっては良いのか悪いのか判断に困るサキの返答だった。
「ぐぬぬ、せっかく猫騙しなるスキルを知ったのにラーニング出来ないとは……」
「全部ラーニング出来たらつまんないじゃない、いいのよそれで。仕様・仕様♪」
いい加減、自分のユニークスキルを使ってみたいが、一度使ってるし。今回はレベルを上げたほうが美味しそうなスキルばかりだ。こういう〈ビルド〉は腐ったスキルに使うのが良い、生きてるスキルに使うのはナンセンスだな。
そこでふと、ビルドは思う。
「なあ、もしこの〈学習〉をしたら、サキのスキルも取れるのか?」
「取れるとは失敬な……、まあレベル低いのなら取れるんじゃない? 高いのは無理だと思う……見てみる?」
「えっと、お願いします! お荷物にならないためにも」
「劣化版サキ、なんて言われないようにね~ホイヨ!」
言ってサキは自分のスキルを見せた。見せたのはスキルだけ、レベルや詳細な能力は面倒なので〈学習〉させなかった。
プレイヤー名【サキ】ランク【マスターランク】
〈斬空剣Lv?〉〈古今無双Lv?〉〈太陽・大回転Lv?〉〈雷速鼠動Lv?〉〈超天元突破・巨神殺しLv?〉〈禁ずる弾丸Lv?〉〈地図師Lv2〉〈天翔る光の矢Lv?〉〈雷天大壮Lv?〉〈エボリューション・極黒Lv?〉〈エボリューション・極白Lv?〉〈エボリューション・極彩Lv?〉〈森羅万象のワルツLv?〉〈鷹の目Lv5〉〈家族の善神Lv?〉〈テラ・ファイアバードLv?〉〈スーパーフレア・フルバーストLv?〉〈召喚・焔Lv?〉〈ハイ・ジャンプLv?〉〈合唱アルティメット・プリンセスLv?〉〈見聞殺しLv1〉
◇詳細◇
《※注意、ほぼ全てのスキルが〈見聞殺しLv1〉により封殺され〈学習〉出来ませんでした!》
〈見聞殺しLv1〉気配をコントロールする。見せたいものを見せ、見せたくないものを見せない力。~コレ以上の見聞殺しの情報は非公開のようだ……~
〈地図師Lv2〉自分の見聞きした範囲ぐらいの地図は、この手で地図化出来る。
〈鷹の目Lv5〉通称、視界ジャック。上空1000メートルまで鷹型のモンスターを飛ばし、その視界を観ることが出来る。見ている間は自分は動けない。
〈森羅万象のワルツLv?〉地水火風氷雷光闇の8連撃属性攻撃。
ビルドは見聞殺しに面食らうが、前もって、取れるものだけと言っていたのでまあ、こんなものだろう。とは予想はついていた。そりゃあ全部取れたらお話にならない。
《スキル〈学習〉により学習出来るスキルがありましたのでラーニングします! 〈地図師Lv1〉〈鷹の目Lv1〉〈森羅万象のワルツLv1〉を学習できました! 〈連鎖反応Lv1〉が発動しました! スキル〈秘匿Lv1〉を習得しました! レベルアップ!〈学習Lv2〉!》
◇詳細◇
〈地図師Lv1〉自分の知っている範囲で地図化が可能になる。
〈鷹の目Lv1〉鷹型のモンスターを生成し上空100メートルまで視界ジャックする。
〈森羅万象のワルツLv1〉地水火風氷雷光闇の8連撃属性攻撃。
〈秘匿Lv1〉相手に調査・検索された場合のサーチ効果で秘匿出来る力の度合い。
〈学習Lv2〉マスターランクを学習したことによりレベルが上がった。ある程度の剣術、技術、タイプ術は無条件で学習・習得が出来るようになった。※①悪・鋼・妖・全系統のタイプは習得不可。②〈見聞殺し〉の下位互換で完全封殺される。
一回の戦闘と、サキのスキルを見ただけで。並々ならぬ成長をしているビルド……スキルが増えただけで実戦が貧弱だが……。
「そんなに成長するのならこのまま地下100層まで穴空けて落っことしてやろうかしら……」
などとサキは本気とも冗談とも取れない笑い話を真顔で言うので全然笑えない。
「やめてくれ、死んじゃう。もし100層まで這い上がってこれたとしてもバーサーカーの出来上がりなんじゃね? そりゃあもう復讐の鬼だよ」
「……それもそうか、とりあえず今はこのターンで〈東の大門〉を抜けてさっさと〈第ニ断層山地〉の〈第ニ休憩所〉まで行ってしまいましょう」
サキは腕を組み更に深く思考する。
「本格的な拠点は第三休憩所が良いと思うんですよね、立地的に」
そう言って、〈東の大門〉の門番、〝何とか・ツー〟さんにマスターランクの通行書を見せる。鋼の鎧の女性は深々と頭を下げて……。
「お待ちしておりました、どうぞ門の向こうへ、階段を上へ登った所が〈第ニ休憩所〉です」
ほとんど顔パスで何のイベントもなく通れてしまった。
テクテクと、階段を上へ上へと歩いてゆく2人、そう言えばこのマップ登山だった。
「おい、良いのかよ。俺なんかが顔パスで」
「良いの良いの、〈第三休憩所〉に作る予定の〈拠点〉にはまだモンスターがウヨウヨ居るから。そっからが本番だよ~、今のうちに〈心眼〉のレベルでも上げときな~。こっから先はマジで霊山だから~」
などと、先頭を歩きビルドを導くサキは、背筋をノビーしてストレッチをする、まだ余裕があるようだった。
「お、おう心眼か。心眼のレベルを上げておかないとどうなる?」
「ん~5年間くらい立ち往生かなぁ~」
短い単語で身震いする言葉が飛んで来るのに驚くビルド。
……、そうこうしている内に、〈第ニ休憩所〉へたどり着いたのだった。
あたりは山岳、赤い地面がちらほら目に付く、緑の草は薄っすらとしか生えていない。敵という名のモンスターも疎ら、第一陣と第二陣の間の道だ、そりゃあ野生で元気なモンスターしかここには居ない……。
そして、眼の前にはあの〈ナイトスライム〉が5体、陣形を作って待っていた。
「さて、ここまで来ると敵さんも本気でバトル挑んで来るだろうから、私も参戦するけど……、あんま足引っ張らないでよね?」
と、サキはビルドに言うが「上等!」と気合を入れなおす。
「俺達の戦いはこれからだぜー!」
第二断層山地でのバトルオブ登山が幕を開けたのだった。
何かサキが言うには〈心眼〉のレベルを上げておかないと文字通り〈話にならない〉らしいので、ビルドはスキル〈心眼Lv1〉を使う!
すると、視えたのだ。ナイトスライムの上に何か変な大型ドラゴンが取り憑いているのを……! その物体にはおよそ生気というものが感じ取れなかった。
《ゴーストドラゴンが現れた!》
「サキっち! 上! 上にドラゴンが!?」
「解ってるし視えてるよ! 私は上! ビルドは下お願い!」
サキは〈エボリューション・極白〉を使い、真っ白になったと思ったら消えた。
と思ったらゴースト状態になったらしい? 幽霊になったサキは上空のゴーストドラゴンと対峙して戦闘になった。
そしてビルドは、さっき1体と苦戦して戦ったのに。今度は5体のナイトスライムとのバトルに成る羽目になったので。
「マジかよ……!」
と、ナマクラの剣を構えながらナイトスライムに飛びかかるのだった。上からの援軍は期待できない、何とか今まで手に入れたスキルで。戦わねば……!
「「「「「トランジスタ」」」」」
「!? ――トランジスタ!」
バシュン! と、稲妻が迸る!
電撃技による先制の乱れ撃ちが開始された、先制権は一体誰の手に……?
目にも止まらぬ早業で、フィールドには、誰も居ないように写ってしまう……。
だが、確かにここで熱戦が繰り広げられていた。




