第620話「起・どんなコンテンツでも」
現実世界、西暦2037年10月1日。
どんなコンテンツでも初心者が入らないと廃れていく。
初心者は優しく沼に沈めねえとなあ~……。
己の念を持って攻略に勤しむ者、職業・ジョブそのものを増やそうとする者、そしてこのゲームを単に遊びで楽しみたい者、の三勢力で〈新しい風〉が吹いた。
すなわち、〈攻略勢〉〈ジョブ勢〉〈エンジョイ勢〉である。
小田原風鈴というプレイヤーによって、ゲームクリアに対して現実世界でのリアルマネー、すなわち〈無限の富〉を約束された。一説には、このゲームは1億円の全クリ報酬であったがそれを軽く凌駕する。10億円? 10兆円? 10京円?
もはや国家戦力分の懸賞金額がこのゲームクリアにかけられた。
エンジョイ勢は今まで天上院咲達が触れ合ってきた〈ただ遊びたいだけ〉の勢力である。勿論ゲームクリアやジョブだけではない、写真撮影やらチャット交流やら、お金を賭けずに無料で楽しみたい勢力、……簡単に言うと烏合の衆にも視えるそれは。しっかりと家族の善神と自由の悪神によって統治されていた。
そしてもう一つ。いやもう1人……。
この勢力もまた特異であり、〈ジョブそのものを増やす〉事を目的としている。
彼の名は〈くまモン〉、現実名は現在不明。〈ジョブ勢〉
「どんなコンテンツでも初心者が入らないと廃れていく。初心者は優しく沼に沈めねえとなあ~……」
彼の目的は、ゲームマスター天上院姫と同じく、この世界、〈エレメンタルワールドの繁栄〉であった。
多彩な職業・ジョブはそれ個々でも魅力的だが、くまモンの目的は〈ジョブによる社会構造の形成〉であった。一つの人口シミュレートではない。
〈世界がより良く廻りますように〉その一心……。そのための実験場……とでも言っておこう。
故に、マーケット市場は超重要視する。
マーケット市場を停滞・鈍化させない。それが彼、くまモンの現在公開可能な情報である。
ということで。このEW世界では、咲・風鈴・くまモンが台風の目になり混沌を極めていた……否、新しい勢力図とともにAランク市場では風が吹いていた。
「へえ、私達が〈次の世界〉への冒険をしてた間に、そんな事になってたのね」
これらは仮想世界内での出来事なので、新しい風が入って来ること自体は良いことである。
咲が〈カフェオレ〉コーヒーを飲みながら、お腹をゴロゴロさせながら言っていた、……下品である。
顔は平静を装っているが、お腹が痛いものは痛いので……。
「ちょっとお花畑へ……」
下品である。顔だけ、いや上半身だけ上品であった。
「まーってことで……」
ゲームマスター姫が導き出したっ答えとは。
「このゲームの価値が値段的に上がったのと、需要が増えたので運営側の供給を増やすのと、ジョブが勝手に増えるので全部の把握が難しくなったので頭抱えてる、かな……」
相変わらず姫はコーヒー、微糖ブラックであった。
「てことは、久しぶりにゲーム出来るってことで良いの?」
「ワシがちゃんとMMOの取材を続ければ、咲はその供給としてゲームが楽しめる、……かもしれない」
何にしても久しぶりに〈いい話〉であった。神道社も忙しい分には歓迎である。世界政府の方は知らんが……。
何にしても、四重奏・非理法権天・最果ての軍勢・放課後クラブ、このSランク、通称〈BIG4〉の下位組織、Aランク以下での抗争なので、上位ランクは揺らがない、そういう意味では安心して咲は事件に首を突っ込めるというものであった。
お花畑から帰ってきた咲は言う。
「じゃあ、まだ詳細解ってない、くまモンさんから洗ってみますか」
「うぬ、そうじゃの。小田原風鈴はかなり危険じゃ、くまモンのジョブを増やす理由から洗い出すのが懸命じゃろうて」
というわけで、久しぶりにまともなVRゲームにログインする。
「「ログインオン!」」
現実世界、西暦2037年10月1日、しっかり勉強を終わらせた後の放課後。
2人はVRMMOの仮想世界へ身を投じたのだった。
どんな風に、この世界、エレメンタルワールドが変化したのか楽しみな咲だった。




