第619話「結・地上最強の主婦」
現実世界、西暦2037年9月15日。
天上院咲は悩んでいた。
これから先、どうエンジョイプレイをしていけばいいか解らなくなったからだ。
「ん~どうやって遊ぼうか~」
天上院姫は、妹をヨシヨシと宥める。
「まあ、お前の沈んだ気持ちは解らなくもないが……」
ピピピピィ――!
と、その時。姫の緊急アラームが鳴った。
デスゲームが終わって、元の世界線に戻ってきて。こんな落ち込んだ気持ちの時に誰だ? と、姫は運営会社からの電話を取る。
『報告します、第七の街『破局した世界ノット』ですが。設置していたエリアボスモンスターが……』
『突破されました!』
「またアイツらか、で? 今度はどのSランクがやらかしたんだ?」
『それが……Sランクではありません』
『ついでに言うと、ここ1週間前には無かったギルドです』
「何!? あそこはまだまだ突破されるようには出来てないだろ!? このゲームは咲に突破してもらうために設計してるんだ! どんな裏技を使ったんだ!」
『えーっと! ログを読みますと! このクエストの為だけに集団ゲーム攻略【マンション6棟】を買った様で、そこで住み込みバイト形式で強固なプロゲーマーを集め、プレイングだけで他を圧倒、〈チームワークと金の力〉で突破した模様です!』
「な……なんだと……! な、名前、名前は何と言うんだ!?」
『突如として急速に伸びてきました! 現在Aランク、ランキング1位!』
『ギルド『ビックブッリヂの死闘』!』
『ギルドリーダー、通称『地上最強の主婦』……!』
『小田原風鈴です!』
誰だそれ!? 知らない名前だぞ!?
「誰だそれ!? 知らない名前だぞ!?」
◇
小田原風鈴、通称、地上最強の主婦。
この主婦が怨念のように、まるで当たったら疫病のように惑星と言うなのゲームというゲームを手当たり次第潰していく様は。まさに、ロジスティックワンダーランド。動機は単純。
風鈴の夫はこのゲームに殺されたのだ。
IT王と石油王の家系に生まれ、夫は金融王だった。
おそらく、無限のお金があっただろう。
その夫がとある、くだらないゲームにハマってしまったのだ。彼は言った。
「お金とチームが無くても、この身1つで勝ってみたい、世界を救ってみたい!」
以来、夫はお金とチームを作らずに、世界を救う冒険に時間を惜しまず使い込んだ。初めは暇つぶしだったかもしれない。だが、その中毒性はエスカレーションしていき。負け知らずの夫と家系に泥を塗り。
終いには何の役にも立たない〈過労死〉で夫は亡くなった……。
もう、それだけで十分だった。最愛の夫が亡くなったのだ。
怒りと、悲しみと、憎しみと、憎悪が渦巻き。
残ったのは想像の限りある、余るほどのお金と。
IT王と石油王の家系という【組織】、そして夫が残した莫大な【富】だけだった。
地上最強の主婦に、まだ子供はいない。
夫は言った。
「このゲームをクリアしたら子供を作ろう! 誓ってそうする!」
父の無念を、夫の出来なかった事を……。
「夫との……愛の証し……子供が、欲しかったなあ……!」
もはや叶わぬ夢……。
小田原風鈴はこの会社、神道社を潰したい気持ちで一杯だった。
だが夫は、正々堂々のゲームクリアを望んだ……。
「やってやる……夫の残した。この【組織】と【富】で! この【エレメンタルワールド】とか言うフザけた世界を! 大人の力で! いいえ! 夫の築いてきた【絆】と【金】で! 何としてもクリアしてやる!」
それが、夫に対する何よりもの【罪滅ぼし】……!
よく調べてみれば、内閣や国連がバックに付いている……?
「上等じゃない! それでこそ夫を殺した【世界】……!」
コッチは現実世界の【全ての組織と全ての富】全てをペットに賭ける……!
「ブチ殺してやる! 潰してやる! 絶対に正規ルートでクリアしてやるうううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!」
そして、今日も小田原風鈴という、地上最強の主婦は、点滴を打ち。
最高の医療機関を使って、無限の時間、仮想世界へダイブする。
この一週間。
現実世界での統率は、信頼できる〈13人の執事達〉に任せている。
想像を超えろ、想像できる全力で、でなきゃ相手に失礼だ。
加速装置は勿論使っている。
彼女は夫が死に、このゲームを知り、ゲームクリアすると決めてから。
仮想世界で800年生きている……!
もはや、誰にも彼女を止める事は出来なかった――。
「絶対にクリアしてやる! 夫の仇! 未来産まれるはずだった子供の為にも!」
怨念と憎悪だけで、彼女は800年後の今を生きていた――。




