第618話「転・戻して」
一言でいうと、咲にデスゲームは〈合ってない〉ということが解った。
元々そういうゲームプレイングをしてなかったというのもあるし、いざ〈死んだら死にます〉の世界観に入ってみたら、それはもう〈動きづらかった〉。……何でかかと言うと自由なプレイングが売りなのに、いきなり規制と緊張感を上げてしまったせいで、開放感や自由気ままなプレイングという。効率重視にせざる終えないプレイングを強制されるのがスゴク窮屈だったからだ。
……あの世界観に挑みたいというのは確かに存在しているが、だが、咲にとってのライバルは、もはや黒の剣士だけではない。
例えば、〈幻想殺し〉とか……。……。……。
なんで、元の世界で頑張らず、簡単に世界リセットに踏み切れたかというと。リセットを帳消しに出来る。元の世界へ逆戻り出来る力を知ってしまっているからだ。
簡単に言うと世界リセットリセット。
そういう幻想殺しの【保険】があったからデスゲームの世界に殴り込みできた。
しかし待っていたのは緊迫感と窮屈さ、一歩間違えれば死ぬというデスゲームの性質は娯楽としてはとても有意義なスリリング体験になっただろう。
だが、メタ世界で本当に死んでしまうのなら話は別だ……。
咲は、そういうリスクは取れない。
元々、放課後クラブ何ていうギルドな以上、遊び半分でゲームを楽しむ集団、逃げ出すのは容易だった……。
咲は考えれば考えるほど、この先が苦痛と披露で仕方なかった。
「残酷だけれど美しい、そういう世界は知っている。でももう飽きた」
咲の第一声はそれだった。
咲は短く、一言……。
「戻して」
第1章分だけでもやってみるか? と念を押しといて良かったと思う姫。
理由は聞かないでも判る。咲はこの世界では耐えられなかった。それだけだ。
「わかった」
《運営権限により、世界樹クロニクルへアクセス、世界再構築。準備中……》
それは逃避行動なのか、立ち向かっているのか解らなかった。
《2周目、西暦2037年4月1日から、西暦2037年9月15日へ飛びます。よろしいですか?》
「本当に良いのか?」
「本当に、コレでいいのかな?」
……?
「というと?」
「私達はさ、ずっと過去に生きてきた、だから今、未来で生きてる。それは望んだ事だし、そうなんだけど……」
「つまり?」
「今を生きたい」
姫はそれに、未来が狭まっている可能性を感じた。
「それはアレか? 未来で遊びすぎたから、この後来る未来の余波が怖いって認識で合ってるか?」
「……合ってる」
合致……。
しかし、咲の現実とは生まれたこの時代。西暦2037年だ。2024年じゃない。 その意味はしっかり理解しているが、でもどうせなら〈今〉で遊びたい、そういう欲求だ。
「ん~、明るい未来も容易されてるはずなんだけどな。それやるとまた未来人が過去からやって来たっていうパラドックスになっちゃうしなあ~……」
初めっから西暦何年とか関係のない世界観ならまだしも、そうもいかない。
困った、どうやら咲は西暦2024年で遊びたいらしい。
否、遊びたいんじゃない。「何とかしたい」のだ。
「ま、2037年7月に戻るのは賛成じゃが、2024年の3歳からスタートするのは、反対かな」
珍しく、姫は咲の意見を否定する。
「形はどうあれ、わしらという種族の今とは2037年だ、それは変えようがない。2024年はわしらにとっては過去じゃ」
「……、うん。ごめん、わかった」
「じゃ、西暦2037年9月15日にとりあえず帰るぞ、悩むのはホームに帰ってからにしろ」
「……うん」
《世界樹クロニクルにアクセス、世界再構築を実行、再起動します……》
その言葉を最後に、咲と姫の意識は現実世界で暗闇に落ちた――。
「まあ出来ないこともないんだけどな、その肉体を捨てる覚悟があるなら……」
姫はそんな神々しさと共に、暗闇にポツリと呟いた。人間辞めれば出来るよ、と。




