第605話「第1フェーズ」
灰も残さず消えた魂を、風という名の呼吸法で吸っては吐く……。
信条戦空の体は凍っていた。否、体が温まっていなかった。
だが、冷静沈着に今ある全てをフルパワーで発揮できるタイミングを見計らっていた……。
「うし……! やっと体温まって来た……!!」
恐るべきは右手と左目しか使っていないという事、あとついでと言うにはあまりにも大きすぎるデメリット。
HP1。
一発喰らえば即KOの退場状態を自ら課すことによって、己の潜在能力を通常の集中力・潜在能力を10倍まで高めていたところだ。
実況のほうおう座が歴代チャンピオン、初代EM双矢と二代目EM夜鈴に解説を頼む。
「お二方、開幕直前の動きをどう見ますか?」
初代王者の言葉は。
「余裕がないな……だが冷静に事を運んでいる」
二代目王者の言葉は。
「そうね、流石に面白くないと手を出してこない奴って所だけはある。間の取り方が絶妙に上手い、自分のペースか、相手がガス欠になる寸前まで防御を固めてましたが……、やはり技量では戦空のほうが10倍上手でしょう」
ほうおう座が熱い汗を流しながら言う。
「咲、桃花、和季が居る状態でも10倍ですか?」
「何があっても揺らがない、感情に支配されない、こんな劇的な環境の変化でも自分のプレイスタイルを崩さずに防戦一方でも主導権を握らせずに落ち着いてサバイたのは流石だな、と」
「最近調子悪かったもんね、特にここ数ヶ月は、それを持ち前の練習とトレーニングを、毎日……とは言えなかったけど欠かさず続けた努力と反復練習の賜物ですね。全く隙がないです」
この第1フェーズ、戦空は体が冷え切ってるのと自己規制で防戦一方だったが、回数秒数を重ねるごとに慣れて、強くなっていっている……。
右手と左目だけで、どんどん強くなる、正に天井知らずだった。
で、夜鈴は更にとんでもないことを口走った。
「やっぱり、重りを足に付けといて正解だったわね」
「あぁ」
「え、は? 今なんて!?」
それは衝撃的な発言だった。
「だから重りですよ、先走らないようにってワザと体重を重くして速度を遅くしてるんです」
「えぇえーええええええええええええええええええええええ!?!?」
「戦空ー! もう足の重り外して良いわよー!!」
遠くから夜鈴の声が戦空に届いた。
「お! もうそんな時間か……ならポイポイっと!」
戦空は重りを外した。
「ははは、まさか重りとは。でもこんな本戦にそんな重すぎる重りを付ける事なんて……なんて……!?」
実況者のほうおう座が軽々しい言葉を言ったのもつかの間……。
ドゴオン!!!!
地割れだった。地面に境目ができて、地面と地面に段差が出来た。
「体が温まって10倍! 重りが無くなって10倍! 合わせて戦闘力100倍だ!」
咲は仰天で驚く。
桃花は笑みを浮かべ。
和季は予測済みだった。
真昼ノ剣と真夜ノ剣と人間の剣と運命の剣と拳銃が信条戦空の方へ襲いかかる。
――シュバン!!!!
戦空はソレらを軽々と安々と、爽快に右手ではたき落として、捌いた。
「凄いけど負けない!」
「にゃろ!」
「へえ……!」
咲・桃花・和季は一瞬の隙をついて、武器を拾い構え直す。
と、その時。戦空の影から声が……。
「交代」
「おう!!」
間髪入れずに刹那――。
戦空の位置に京学文美が、文美の影の位置に戦空が姿を消した……。
「シャドウダイブかな……?」
とか咲はノンキな事を考えていたが。
入れ替わり、そ言う間も無いくらい、0.3秒ほどでリングの攻守交代が入った。
「始めまして、御三方。文美です、って言っても解んないか……じゃあ。〈閃光のアスナ〉ですって言っておくね……嘘だけど☆」
表では嘘と言っているが、むしろ逆に本物だ――。
「真正の神の巫女、レイシャこと京学文美、行きます! スキル〈神威〉!!!!」
「「「!?」」」
今度のこっちはスキルありアリ――。
――第2フェーズが始まった。




