第599話「桃花の父親・死亡」※ターニングポイント11
西暦2024年XX月XX日。
日本国、北九京都。
始まりのお寺の前。
この日、湘南桃花の父親が文字通り瀕死状態だった――。
「……」
ギルド『非理法権天』の副リーダーでもなく、吸血鬼大戦の覇者でも無く。
そこにはただの湘南桃花が立っていた。
そこへ、
自由の悪神、天上院姫と。
家族の善神、天上院咲が〈お悔やみ〉に来たという感じだ……。
大丈夫、大丈夫だと思っていたが、全然大丈夫じゃなかった。
桃花から出た言葉は一言。
「だれ?」
「始めまして、2037年あたりで先生の生徒をしている咲と申します」
「同じく生徒。13年後の未来から来た感じ、……驚かないんじゃな」
枯木のように落ち込んだ風体の桃花の涙は、もう枯れていた、泣いて泣いて悔やんで、泣き止んだ赤ちゃんのようだった。
「まあ、この2024年代の私も場数踏んで来たし、不思議には驚きはしない」
もうすぐ、桃花の父親が亡くなる。……そんな時期……。
「まあ、死んだ後に作品残すより。死ぬ前にその心情を作品に残したほうが良いかな~って。一種のエンディングノートだよ、私的には」
生があれば死がある、それは逃れられない運命。桃花の父親は、何だかんだで桃花の好きなように遊ばせてくれた。鬼のような時もあったが、それももはや良い思い出……。
壊れない物はない、何もかも変化する。
「まあ結局、私はこういう生き物だってことだよね……」
桃花は、誰に対しても、何処までも遥か遠くに聞こえるように、小さく呟く。
「――父さん、もし私が子供を授かったら、その時は〈四〉の数字を入れる事を、ここに誓うよ……」
咲にも解る、姫にも解る。その数字の意味……。
桃花は、誰に対しても強く、言う。
「世界は複雑だ。今まで受け継いできた意思、想い、未来への系譜。この拡い世界は、簡単なゲームとは言わずとも。この必ず世界は解けるんだよって、未来に残したい」
それは、一から始まり、二で広がり、三で発展し、四で奏でる物語。
「確約は出来ないけど、今私が我が子に名前をガチで付けるなら……【四空】、かな……! 変わるかもだけど……!」
桃花は空に向かってほくそ笑み、空は桃花へ向かってほくそ笑んだ。
全ての人々が望んで待ち望んだ主人公達、ギルド『四重奏』。4人で奏でて初めて1人前の立派なカルテットを奏でられる。そんな演奏。
信条戦空、桜愛夜鈴、日曜双矢、京学文美、彼等四人がきっと未来の子供、四空を導いてくれる。そんな誓い。
「ま、もしかしたら養子とかそんなんかもしれないけどさ!」
とか軽々しくいいつつ。
「血縁を断てど、この意思は受け継がれる……」
そこには固い決意が紐付いていた。
この世界は必ず解ける。
未来永劫解けない難問ではないという細やかな道標だ。
「だから、安心して……行ってらっしゃい」
そよ風に吹かれて、風はどこまでも世界を廻りて、巡りて往く。
この日、確かに世界は悲しみで包まれたが。
桃花の父親は確かに、微笑みを浮かべて逝った。
この日、湘南桃花の父親は亡くなった――。
「さようならお父さん……、こんにちわ四空……」
自由の悪神と家族の善神は、深く深くお辞儀をし、力の限り祈りを捧げながら。
次への冒険へ出かけるのだった。




