第598話「傷心」
現実世界。
天上院咲は考える、VRからARにしよう! と息巻いたが、まるで触手が動かないのだ。正確に言うと、まるで面白味を感じずにいた。
もちろん、そういうゲームだってあるし。長年VRゲームばかりやって来たと言うのも有る。が、いかんせん面白くないのだ。
現実世界の外で遊ぶARゲーム。少し遊んでみたが事〈オンライン〉という意味ではまるで面白みがなかった……というか刺激が少なかった。
運動を出来るのは良いことなのだが、……結局、咲は〈夢の国〉が大好きなのかもしれない。
別に、魔法科学高等学校の科学科に入っているのだから、そっちを散策すればいいし、そういう話もあっていいと思う。だが、メインがVRゲームじゃないとまるで面白くないのだった。そう、だった。現実世界で安静にしていなくちゃいけなかったという、精神的苦痛ももちろんあった。
現実世界でのストレスは必要最低限まで留めて、やれるべきことは全てやった。
なのに、好転しないということは。やっぱり〈そういうこと〉なのだろう。
……軽く、否。深く鬱になるが。
出来ることは何でもやったし、もう手は尽くしたし、心残りは無いのであれば。
やはり夢にダイブするべきなのだろう。
「私が私でいるために……か……」
そう、ポツリと呟いて。
咲はVR機『テンジョウ』を再び付ける、今度は夢と現を自覚してちゃんと生きよう。ただ、ちょっと現実にも目を向けつつ、この世界を楽しもう。
本当に、ちょっとした現実逃避だったんだなと。自覚した。
仮想世界。
《エレメンタルワールド・オンライン4へようこそ!》
《新しい〈体質〉、『写鏡眼』を手に入れました!》
豆知識『写鏡眼』
体質名◇写鏡眼
体質解説◇特殊な体質によって使用可能になる〈瞳術〉のこと。
捕捉◇術とは。何回も行って自分のものとなった能力。手仕事の能力。学問。
固有瞳術◇千手観音
解説◇固有体質の両眼、千の手を具現させ「何か」を握り。持ち物として使う動作が出来る。それは「運命」すら握ることすらでき、非常に強力で応用範囲が広い。弱点としては脳の処理が追いつかないことで、千個の手に全て別々の動作をさせる事は人間には不可能である。
詳細◇後天性の瞳術。開眼条件として、強く深い悲しみつ包まれて涙を流したら、奇跡的に開眼する。作中描写では、フェイ、湘南桃花、天上院咲が該当する。
「あー、私に太陽の万華鏡写輪眼がついたって話ね。どれ、ちょっと試しに」
と想った所で、手と腕の力が抜けるのを感じる。
腕を上げてから下げた咲、はやり、気力が元に戻っていない……。
こういう時は、この世界の景色を眺めるだけが一番だ。
現実に負けるな。
――今の苦難を経て、あなたはもっと強くなる。
――これまでそうしてきたように。
「強い日もあれば弱い日もあるか……、力の入れすぎだな。もうちょっと軽く回してみよう……」
そう言って、全てを忘れて、吹っ切れて。始まりの街『ライデン』を再び、本当に想像の限り。散策・散歩するのだった……。
「そう、私が独りでウロチョロするのが罰になるわけ無いんだ」
もっと夢を視よう、そう誓った。




