第592話「スキル・禁ずる弾丸②」★
まるで獣のようにヒャッハーする輩がそこには居た……。
「しゃあ! 伝説の最強武器を異世界召喚だぜ! え、説明? んなもんねーよ! ファンタジーなんて所詮お飾り! この世界は真似するだけで閲覧数稼げて楽しいなあ! 運営権限! エクスカリバーをコール! 俺何かやっちゃいました? アダあ!?」
――瞬間、魔法の弾丸が炸裂した。
何の説明もなしに、いきなり世界最強の武器がモブPKプレイヤーの手に渡った。……しかし、韓紅色の弾丸はこれを拒絶する。
「禁ずる弾丸04【異世界観の描写がないことを禁ず!】異世界を何であったか描写するのは個々人の自由ですが、ゼロ説明でファンタジーを描写する権利はありません! 一文節でもいい、ただそこに〈ない〉事を私は許しません!」
「このぉ! こうなったらこの世界は全部全て今までのは夢オチでしたってことで片付けてやる……! アイダあ!?」
世界は夢オチになった。……だが、夢オチになって新しい世界で目覚めた都合の良い世界は、唐突に世界ごと韓紅色の弾丸が打ち消した。
「禁ずる弾丸05【ゲーム内の夢オチを禁ず!】眠って始まるゲームの性質上危険があります! 心神喪失の不測の事態はさておき。気絶・瀕死など、異世界そのものをリセットや無かった事にすることは本ゲームでは許されていません! するならするで説明して下さい!」
「こ! この世界はファンタジー何だろ!? なら無法地帯だって何でもありのはずだ! なのに何でこんな……ギャアー!?」
法がないところにも仁義という言う名の道義的責任はある……。
「禁ずる弾丸06【動機・説明なしの何でもありを禁ず!】つまんねーでしょ? そんなゲーム、はぁ、どうして解ってくれないのかしら……」
言って、指先1つをクイっとトリガーを引いて、韓紅色の弾丸が迸った。
「くそお! こうなったら作者を直接殺してやる!」
ここは創作者の世界、作者の影となり後ろから背中をグッサ……、としようとしたその瞬間、工作員に激痛が走る!
「ぎゃあああああああああああああああああ!!!!」
「禁ずる弾丸07【夢中になれないメタ世界を禁ず!】あまりにも、あまりにも物語を軽視しすぎています! 作家なら自分の作品に誇りと責任を持ちなさい! そういう作品もありだとは思いますが、逆恨みが過ぎます!!!!」
引き金を引くのは常に自分、天上院咲は自覚した上で、正しき思想者の悪を討つ……。
「そ、そんなものまで禁止なんて……!」
「解ったなら、とっとと逃げなさい。逃げるは恥だが役に立つってね……」
咲はそういってその他大勢のPKプレイヤーたちを見逃した。
「つっても、真に強い人には全く効かないのよね、……コレ」
言って、咲は相手を手形のピストルで撃ち抜くポーズを取りながら、魔法の弾丸をオフにする。……咲は独り言を言う……。
スキル〈禁ずる弾丸〉
ほとんど文章作法に近い弾丸なので、熟練の文法戦士。上級プレイヤーには逆に全く歯が立たないのだコレ……。むしろ文法弱者にしか効かない。
が、虚勢を張る輩には滅法効くのだ。
咲が使っているのは、VRゲームのお作法弾丸。なので、ミステリーの楔とはちょっと別物だ。完全に彼女なりのアレンジが入っている。
「……弾丸じゃなくて、ご飯に繋がるスキルにすれば良かったかな?」
言って後悔する咲だが……。
「人間の最強の武器は当然銃だ、その教訓を活かして、今度は〈何々の包丁〉とかにするんだな、お箸でも良い」
誰かが霧隠れのように現れた。
現れたのは、相方のGM天上院姫だった。
「……、とまあこんな感じで〈証の力〉を使ってるけど、私なんかが使って良いのかな……?」
「所詮は〈絵に描いた餅〉ならぬ、〈文字で書いた餅〉だ、正しく食べられるようになるまで、それで廻すしかあるまいて」
「そうなんだけど、ちょっと相手に罪悪感が……」
「本当は無意識に証インクで、書いて描いてを続けに続けて、廻さなきゃならない代物だ、受け入れる他あるまいて」
家族の善神は、自分の家族を思いションボリな気持ちへ表情が変わった。
「うん……」




