第591話「スキル・禁ずる弾丸」
西暦2037年8月15日。
《ログインします、ようこそ。》
「ギヤアアアア!!!?」
野太い野生児みたいな男の悲鳴と絶叫からゲームは始まった。
エレメンタルワールド・オンライン4、始まりの街『ライデン』北区。
それは、本作の主人公、天上院咲の第一声だった。
――トリガー発動!
――禁ずる弾丸01【ゲームにリアルを持ち込むのを禁ず!】。
「仮想世界で現実世界の話題を持ち込みたければ、それ相応の理由や説明をしなければなりません! 仮想世界を異世界として描写することは出来ても、仮想世界を現実世界だと描写することは、例外を除き、本ゲームでは認められていません! もしゲームにリアルを持ち込めば、境界線が曖昧になり、最悪領域侵犯で攻撃される対象であると知れ!」
見るからにヤンキーな性悪プレイヤーは、イジメているプレイヤーを度外視して、咲の方へ、ヘイトを寄せる……。
「な!? 何だそのルール!? 聞いてね―ぞ!?」
「失礼、今作りましたので。ちなみにこのスキル〈禁ずる弾丸〉は、〈道徳値〉がかな~り高いプレイヤーにしか配布出来ない、……簡単に言うとレアスキルです」
始まりの街『ライデン』には初心者が、そりゃあもうわんさかいるので、前知識が無いことを良いことに悪事を働く輩は絶えない。
「き……きたねーぞ! 自分でルール作って、説明不要・防御不可の貫通攻撃が出来るとかありなんか!?」
「徳が高い天使なので~♪ とはいえ、私のスキルレベルは1なので、マナーの悪いプレイヤーさんには経験値の餌食になってもらいます~~~~♪」
「ふ、ふざけんな! こうなったら! その文字をコピー&ペースとして、俺の力に設定改変してやる……!」
――と、真昼ノ剣、韓紅色の一閃が火花散る……!
「禁ずる弾丸02【この世界でのあらゆる略奪を禁ず!】敬意や尊厳を無視しての、レンタルや貸し借りを除いて、一方的な約束事なしの強奪・窃盗は、本ゲームでは認められていません! 元のネタを、理解・分解・再構築し、数をこなして己の身にしない。模写や写経を除いて出来ません! 皆、創意工夫を頑張ってして物語を紡いでるんです! そんな低俗思考な輩に、用事はありません! 消えてください!」
「アグッグ痛えぇ……!! クソオオオオオオ!!!!」
そう、何を隠そうこのスキル。道徳値が一定数を超えた事を良いことに。
何とPKが許されているのだ!
どっちかと言うと警察サイドなのだが……。
「というわけで、夢と現がごっちゃになってる人は退場してくださーい!」
ズバン! と韓紅色の心氣の弾丸と共にソレは迫る――。
「ぎゃああああああああああああああ!!!?」
というわけで、レッドプレイヤーは強制ログアウトさせられた。
《レッドプレイヤーを強制ログアウトさせました。〈禁ずる弾丸〉はレベル2になりました、空きスロットが1つ追加されました!》
「あ、あの! 助けていただきありがとうございます!」
モブ初心者プレイヤーは、もはや完全にベテランプレイヤーと化した咲へお礼を言う……。
「いいっていいって、じゃあねー」
彼女の名前は天上院咲、未だにセミプロ。一応この世界のサブゲームマスターの地位に治まっている、エンジョイ勢プレイヤーだ。
手を振って見送ったあとに、咲は考える……。
「……ふむ、まー試し切りはこんな所でいいか、あんま乱発は出来ないなコレ。これはルールの改変は可能なの?」
すると、ナレーションが飛んで来た。
《解、〈極上紙〉に〈証インク〉でルールを書き込む必要があり、紙ごと破棄しない限り、改変は不可能です》
「……、まーそうなるよね~……。何事も検証しないと解らないし、……とりあえず残り1つの空白スロットを埋めてから考えよう……!」
お絵かきの性質か、情報の入っていない空白欄は書き足したくなる性なのだ。
「……とは言え、単的に短くだろうなぁ~……私がVRゲーム内で許せないことトップ3か……」
家族についての言及は、完全に場外乱闘なので書けないとして、他には。
「空を飛ぶの禁止……? いやそれは私のプレイスタイルであってちょっと違うし……、プレイヤーキル目的のマナー違反者相手でしょこれ、…………うん! 特に無いから、〈神のゲーム教訓を犯す事を禁ず〉にしよう!」
清々しく別のルールを、上から重ねて陣取った咲であった。
天上院咲
スキル〈禁ずる弾丸〉Lv2
【01】ゲームにリアルを持ち込むのを禁ず。
【02】この世界でのあらゆる略奪を禁ず。
【03】〈神のゲーム教訓〉を犯す事を禁ず。




