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第５８５話「お気の毒ですが、冒険の書は消えてしまいました。」

　現実世界。大型メンテナンス中……。

「うーん困った」

　と、言うのはＧＭ天上院姫。

「どうしたの？」

「これ見てくれ」

　言われて咲は画面を覗き込む。

《ワールドイベント進行度２５％》

　咲はその言葉を反芻する。

「ワールドイベント進行度２５％？　え、あれだけ遊んだのにまだ２５％なの？」

「いや、違う(・・)。今までのゲーム進行がちゃんと反映されていたら８０％とか９９％でもおかしく無かったはずだ……てか実際ワールドイベントの進行度は９０％だった」

「え？　てことは？」

「評価値がまだ遊べると判断して再修正・下方修正してしまったってこと。簡単に言うと今まで遊んだデジタル空間でのログが反映されていない」

「すればいいじゃん、反映」

「それが出来ないんだ」

「はぁ？」

「世界は【証付きのインク】が無いと反映されないって事、おかげでワシが内心ブチギレてる……」

「えっと、何でも出来るゲームマスターがブチギレてる……？　ちょっと意味を詳しく教えて……」

「デジタルの強みって何だと思う？」

「ん？　いっぱい遊べる？」

　的外れだったのでさっさと答えを言う姫。

「答え、〈改変や戻れること〉。対してインクは〈不変的で戻れないこと〉だ」

「ん、？　その意味は解るけど【証付きのインク】て、どっから出てきたのさ？」

「簡単に、誤解なきように言うと。世界政府。世界は証付きのインクが無いと、〈無い〉モノとして処置し続けていたってこと。流石にワシも〈もう９０％ぐらい進行したかなー？〉と思ったらほぼ〈全部反映されてなかった〉」

「はぁ！？　じゃあ今までのワールド進行９０％は！？」

「ない(・・)」

「はぁあああああああああああ！？！？（憤怒」

「な？　流石にワシもブチギレたぞ？？　今までの咲の遊んだ努力はなしです何て言われたらさ……【証付きのインク】にも言及して、反映させた結果……２５％になった……」

「え、でも、データはあるんだよね？　パソコンに、印刷も出来るんだよね？」

「出来るんだが、ただの印刷(・・・・・)じゃ全く反映してくれないんだ。他の運営陣もブチギレさ、〈私の十数年の努力が水の泡にー！？！？〉ってさ」

「それって、手厳しいの？」

「というか、マジでない(・・)ものとして処理されてる……。エレメンタルワールド・オンライン３のルールすら反映されず、ない(・・)。として扱われてる、あったのは空母と放課後クラブぐらいだ」

「えっと……つまり？」

「お気の毒ですが、皆の(・・)冒険の書は消えてしまいました。」

「はぁー！？」

「セルフイメージのバックアップはあるんだけどな、あと、インクで描いたデータは残ってた」

「つまり？」

「始まりの街ライデンと、雲の王国ピュリアあたりまでのデータなら残ってる。あとは……えーっと、ポン！！！！　……だ……」

「えっと、……誰が悪いの？」

「誰も悪くない、これは必然だから。自然(・・)だ」

「え！？　じゃあ今やってる結婚イベントどうなるの！？　５分の３までクリアしたじゃん！？！？」

「ポポポポーン！！！！」

「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ！？！？！？！？？！？！？？！？！？」

「うーん、これだからデータは……。てことで、わしも運営陣も謝罪会見だよ、はぁ～～……。あーあと、咲の場合セルフイメージのバックアップはあるからスキルの復元くらいは出来る、あとは全部ポンだな」

「あんまりだぁ～～～～……」

　その後の謝罪会見により、ゲームの歴史に名を残す、一大削除事件として語り継がれることとなった……。