第584話「独りの人間に~グッド・エンド~②」
湘南桃花は、長い深呼吸のあと付け足しでこう言う。
「あーあと、私、覚醒して間もないからさ。本気出せるの1.0000秒だけなのだわさ。気張ってね!」
咲は何を言ってるんだ? と思ったのもつかの間――。
「来るぞ咲! 奴は本気だ!?」
「!?」
〈〈雷天大壮!!!!〉〉
〈覚醒モード〉
〈刹那世界〉
――瞬間――3人の時の流れがいきなりゆっくりになった。
――0.0000秒
「まずはわしが受け止める咲はタイミングよく……」
と言うがもう遅い……。
――0.0001秒。
桃花に対してのパリィ成功――には成功したが、体制を立て直すのが速すぎる!
――0.0003秒。
解放、――〈運命の剣〉!!!!
〈永久石化〉と〈永劫氷結〉の2重属性効果の永久追撃が4弾が弧を描きながら行動を開始した。
キンキンキンキン!!
それを捌いた懐の影にはもう桃花が居た。
(――速い!? 雷天大壮していてこの速さ!? 反則だろ!?)
ガキン!
と桃花の右手〈人間の剣〉と姫の〈忍刀〉が激突して。姫はパリィした。
――0.0008秒。
仰け反って怯んだ桃花は隙を見せるが、0.0005秒後にはもう立て直してきた。
――0.0013秒。
永続的に追尾してくる魔法弾は360度全方位に30発解き放たれた。
「!?」
――0.0018秒。
「咲!?」
咲は、永久石化と永劫氷結の二重効果を食らったが、雷天大壮をしていたおかげでタダのダメージ効果にしかならずに砕け散った。
「大丈夫!!」
――0.0024秒。
「へぇ、流石にここまで生き残ってるだけはある。じゃあ本気行くよ~! 〈人間の剣〉発動!」
刹那、桃花の人数が500人になった。
「えい~!」
〈運命の剣〉の追尾してくる魔法弾は360度全方位に15000発解き放たれた。多すぎる、まるで花火の荒滝のように赤と青の光がドカンドカンと閃光として迸る。
姫と咲は全ての弾丸を弾き飛ばす――!
パリィパリィパリィパリィパリィパリィパリィパリィパリィパリィパリィ!!
キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!!
――0.0048秒。
1秒までが永遠のように長い……。
だが、間髪入れずに桃花先生は間髪入れずに固有結界を発動させる。
「〈我何を持つ、故に右手に証有り〉!」
「思いの強さが、剣の重みなり……!」
次の瞬間、下から上へ天が振り下ろされた――。
ガード不可能な不可侵攻撃をモロに食らうが、桃花の殺意満載の攻撃は止まらない……。
――0.0096秒。
(ダメだ、反撃ドコロか初見で見切るのはこの速さじゃほぼ不可能だ……!)
「諦めんなよお姉ちゃん、相手が速いなら、もっとそれ以上に動けば良いじゃない! 〈雷天大壮〉レベル2」
咲は桃花の目で追えないほど更に加速した――。
「ほう、ここに来て更に加速するか……!」
――0.0192秒。
今度の桃花先生は〈人間の剣〉と〈運命の剣〉を、咲と姫に剣を投げた。ちなみに桃花先生は人間なので投げた剣は、自分で取りに行かないといけない。
「手ががら空きになったぞ!」
が、それが罠。
――三重目の固有結界発動……。
〈我何も持たず、故に右手に雷有り〉
〈我何も持たず、故に左手に夢想有り〉
機械の雷と、夢見心地な1000人の人間たちのドリームが咲と姫に襲い来る。
――0.0384秒。
ズドドドドドオドドドッドオドドオドド!!!!
雷が大太鼓の地響きとともに鳴り迸る……!!!!
2人はその猛攻に倒れ転げる……。
「ぐあっふ……!」
「にゅおはー!」
「立て咲、猛攻は続くぞ……!」
「解ってるって」
――0.0768秒
「二刀流・ただの十二連撃……! 〈名前はまだない〉!!!!」
「「「「たああああーーーー!!!!」」」」
三千世界の桃花先生達がその猛攻を続ける。
防戦一方とは正にこのことだった。
――0.1536秒。
〈雷速鼠動・敵攻撃吸収波動・雷天大壮!!!!〉
咲が敵攻撃を吸収した――。
「へえ、ここに来て新技か」
桃花先生は感心する。
桃花の速度に咲が追いついた。
〈我は証を持つ者なり、故に右手に青天白日有り〉
ここに来て咲も切り札を使う。
「これで同じ土俵ですよ先生!!」
――0.3072秒。
「そうか、ようやくここまで登って来たか……」
証持ち同士の、戦いが始まる。――と思ったが、その戦いはすぐに終わった。
剣と剣を×印に交差させる咲と桃花、2人の力は拮抗可と思いきや、咲の〈真昼ノ剣〉と〈真夜ノ剣〉は弾き飛ばされた。
――0.6144秒。
「ここで止まってるヒマは無いんです! 次で決着です! 我、右手に正しき世界の証有り!!!!」
瞬間、
固有結界3つは右手拳1つで砕け散った。
〈我何を持つ、故に右手に証有り〉
〈我何も持たず、故に右手に雷有り〉
〈我何も持たず、故に左手に夢想有り〉
の効果が無力化されて元に戻った――。
――1.0000秒。
タイムアップだ。
《覚醒モードが終了しました、脱力モードへ移行します……!》
プシューッと、桃花先生の今まで貯めていた全身の力が抜けてゆく……。
「あなたの負けです、桃花先生」
「……、うん。知ってた」
人間は人間のままに、あるべきままを告げたのだった……。
少し、いや。幾ばくかの間。
長くて果てしない10秒間だった……。
「……、流れや感じ的に次からは法の番人でしょうね、気張れよ2人共! ここからが本当の勝負だ! 応援してるぞ!」
「はい!」
桃花先生の激励に、咲は単的に短く答えた。だが、姫の方の消耗が激しい。
「ごめん、今度はワシがガス欠みたいじゃ、またログアウトしてもいい?」
と、桃花に頼む。
「どうぞどうぞ、時間はこっちの味方さ☆」
言って、咲と姫はログアウトした――。
「……、」
そして独り、今ある全てを察した桃花は……。
大の字になり、寝っ転がる。
「無駄骨だったか……」
そして反対側から神速――。
オーバーリミッツはそこにいた。
「今度は立場が逆ね……」
養豚場の豚を見る目、……否。そこには確かに憂いた顔の彼女が居た。
教会で、地に桃花、天にリミッツが居た、それはあまりにも遠くに居るように感じたが……。
「ねぇ、キスしてもいい?」
一瞬の動揺の後に、やはり人間は……。
「へへへ、嫌なこった……」
苦し紛れの言い訳も虚しく、リミッツは桃花に対して。
一方的にキスをした――。
唇にキスをされた――。
物語はここで終わる。
だがこの話は、〈世界間戦争〉に持ち越されるだろう……。
たぶん、おそらく、きっと――。




