第582話「罪と罰を矢に~マルチ・エンド~③」
西暦2037年8月3日17時30分。
ログアウト後のオーバーリミッツの部屋。
《障壁が1枚破られました》
《カーディナルの絶対障壁が残り13枚になりました》
「やれやれ、2日後になってやっと1枚破ったか。これであとは塔を登って、その後は……」
「別に咲ちゃんにそんな重責を押し付ける必要ないのに、って! アァー!?」
リミッツと桃花が現実世界で会話する。
桃花の股間に痛烈が迸る、愛のムチだった……。変な愛のムチだが……。
そう、リミッツから桃花への愛のムチが、さっき迸ったのだ……。変な話。
「言う事聞かないと掘るよ!? 桃花はまだ治ってないんだから! ここは譲れないの!!」
簡単に、誤解の無きように言うと。
湘南桃花はオーバーリミッツに穴を掘られた。(方法は魔法だが
「掘ってから言うなや!? そのビリビリ効くんだから、ヌオオオオ!!」
「全く……人の気も知らないで……」
「だって~……」
「だっても何も! 誰のせいだと思ってるの!?」
「ぜ、全部私のせいです……すみません、責任転換しません」しゅん
〈何か〉を持ってたのも桃花だし、とりあえず刺激的なものを選んで選択したのも桃花だ。ここは言い訳できない。
その秘められた怪物性は、思わぬ変転と共に開花の時を見て、敵にも味方にも戦慄を抱かしめた。
自分にも他人にも、そして身内の仲間や友達にも迷惑をかけてしまっている。
リミッツは桃花に警告する。
「とにかく、この場は話にならないけど。安静にね?」
「はぁ~~~~、しばらく私はゲーム禁止ってことかー……」
サプライズプレゼントをあたかも罰ゲームのように言う。
桃花も桃花だった。
◇
そして翌日……。
西暦2037年8月4日15時00分。
《おかえりなさいませ咲様、EWO3・教会第2階層、へログインします》
《真夜ノ剣の記憶解放術が発動しました!》
《〈カーディナルの絶対障壁〉8個が破壊されました!》
《8個の記憶開放なされました! 真夜ノ剣が上限解放されました、武器レベル3から武器レベル4へ上方修正します!》
《カーディナルの絶対障壁が残り5枚になりました!》
「残りはこっちだ、真昼ノ剣の上限解放! 悪いけど、その障壁5枚は経験値のエサになってもらうぞ!」
「おぉ~良く出来ました! 頑張ったね~~、ようやく上限レベル4解放か」
咲とリミッツの他愛ない会話は続く……。
だが、咲は必死だ。
「ぜい……! ぜい……! ぜい……!」
あと5枚分の記憶を開放したら、ここを通してくれる。
そのあとは、完全覚醒した状態の湘南桃花先生とのご対面だ。
言ってしまえばここは通過点なだけである。
――審判。
「……今来た南建築業者は虚偽だったらぶっ殺すから」
まあ、それは民主主義であれ共産主義であれ。
我が家族に迷惑をかけるのなら断罪しても文句は言えまいて。
正義の裁判官は容赦しない、家族に仇となす害は全て罰する。
その時は警察の出番だ、いや、今警察が出たって構わない。
GMが告げる。
「それ、ゲーム進行の邪魔だから今すぐ断罪してくれないかな? 執筆の邪魔なんだけど……また来るようなら本気でぶっ殺すよ?」
ゲームマスターも審判者も怒ってる。
「今泉善次郎日本国総理に言うか?」
「それよりか、河野太郎デジタル大臣に警告をしてもらうのが一番だろうな」
「社会の歯車的に?」
「うん、社会の歯車には社会の歯車をだ」
この教会第2階層では嘘は付けない、真実のみが有効打だ。
「真の件……ってこの話やめよう」
「警察って何番だっけ? 電話では110番か……」
「ごめん、もう日本政府に相談してみた」
いや、お前がするんかい!? 自由の悪神!?
このエリアでは真実のみが有効打だとは言ったけど、家族にまで虚偽を装って来るのなら、それは話が別問題だ。話が違う。
元が真実っぽい……ので、己の手で動くしか無かったのだ。




