第57話「現実世界の小休止」
020 現実世界の小休止
「現金500円、コイン一個」
天上院咲が姉である天上院姫から電子マネーではなく、直接手渡しでもらった。現金500円コイン一個である。ちゃんと会社に許可取ってお金を渡してるのか甚だ疑問である。この場合確定申告とか領収書とか、そんな業務的な意味で。
姫より上の上司に言わずに、自分の給料から差し引いてて咲を勝手にセミプロにして、勝手にお金を渡してるんじゃないか。と思うくらい微妙な金額だった。
その辺りは姉の領域なので口は出さないでおこう。と咲は思った。
この時代、未来の最低労働賃金は時給1000円なので。時給に換算しても少額すぎて違法である。
もっとも、ネットの。電脳世界で発生するお金をもらえますよ、の類は動画投稿サイトで言うと再生数いくつで1円とか10円とか100円の桁の域を出ないので。
約1日、ゲームで遊びまくってもらえるお金が。日給500円なのはどう考えても子供のお小遣いの域を出るものではなかった。
2034年の金額単価の判断基準が微妙なので、アイスキャンディーを例に挙げてみる。1981年に発売されたヒエヒエ君は当時50円で発売されていて。2016年、25年ぶりに10円値上げした際には新聞で社員全員がお辞儀をして「値上げしますすみません」みたいな話題があった。つまり当時はヒエヒエ君1本60円。
それから18年後なので、未だ新聞でお辞儀することなくヒエヒエ君は60円で発売されている。
子供の味方は、今日もせっせと1本60円のアイスキャンディーを武器に生き続けておいるのであった。
「う~ん、ヒエヒエ君は1本60円だから。約8本のアイスキャンディーを食べられる。しかし折角の初お給料を食べ物で消化して良いものか」
全力で子供のお小遣い感覚で、地に足着いた最良の500円の使い道プランを考えている咲であった。
「奮発して550円のラノベ文庫本を買うのもありだけど、灼眼のシャナンが控えている。書物には困っていない、となると」
食物だと消化して終わり、ストーリー好きな読書家は間に合っている。となると、思い出作りに何か記念品を買いたくなって来るのは自然な流れだった。
「記念品のお人形とか? 熊のクマーさんとか」
お金を貯金する、貯める、ということはこの際考えていない。
咲は文房具屋さんに自転車で足を運んだ。
咲は悩んだ末に、自転車に付けるキーホルダーを買うことにした。
きもかわいいマスコットキャラクター、うさぎのうっぴーのキーホルダー。
装飾品のプレートには帰宅部と印が刻まれていた。
「うっぴーのキーホルダー、帰宅部バージョン。うん、これにしよう」
放課後クラブというチーム名にもマッチしているので、これで決定した。
「お前との死闘はなかなかだったぞ、うっぴー君よ」
そうキーホルダーに、誰にも聞こえない小声で話しかける咲であった。




