第566話「EP・赫槍回想『グングニル』」
クルクルクル……! ガシャン!
誰もいない荒野に、1本の剣が回りながら落ちてきた。
その『贖罪の山羊』と呼ばれる剣は、元はと言えば、『赤い短剣』という名前だけのただの短剣だった。
それが、色々な都合上、姿形を変えて、今に至り、地面に突き刺さっている。
効果、……能力は【過去へ戻って誤差修正】。
足りなかったエピソードを〈過去回想〉で補うという……。
補佐的な〈時間干渉〉能力だ。
実際起こった事象としては、補うとか補完するとか、補佐どころかメインで可動してしまった所は、夜鈴にとっては誤算である。なにせ真実がメンドく、ややこしかったからだ。
「ソレがそうなの?」
弟、桜愛蒼葉は訝しげに体を少し斜めにしながら見つめる……。
「そう、まずはこの厄介な短剣を自分の懐に戻して、持ち歩かないとね、何処へ行ってもここへ戻って来ちゃうし……」
姉、桜愛夜鈴は『贖罪の山羊』と呼ばれるソレを、元々の『赤い短剣』へと元に戻す……。
咲と姫とオーバーリミッツが接触した。
どうやら、敵側のエピソードは温まったらしい事を告げる……。
「だいぶ後れを取っちゃったけど、今度は英雄側のエピソードを深掘りしないとねえ~……私達、訳わかんなかったし……」
あっち側からしたら、こっち側、と言った所だろう。とにかくこれでヒーロー達本陣が動く準備が整った。
人気の良し悪しは本人達次第……、と言った所だろう。
「ところでさ、その『赤い短剣』って名前じゃないよね? 何か別の言い方考えないの?」
弟蒼葉に言われて、姉夜鈴は浅く長い長考を感じながら……。その短い短剣は姿を変化させる、本来あるべき姿なのか、あるいは生まれ変わった姿なのか……。
「赫槍回想『グングニル』かな――」
夜鈴は微笑を浮かべて、軽やかに今までの空回りも含めて、失笑した。




