第565話「第3次姉妹喧嘩2037◆5」
機械的なメッセージウインドウから、まるで信じられないような、驚愕的な文字列が、ただ無造作に・全ての有るべき者に、平等に、表示される。
《オーバーリミッツがログインしました。》
「――ここまでです――」
それだけだ、その一文だけで、全てを察する人は、察した。
「姫様だ、……本物の姫様だ!!」
モブベテランプレイヤーも解る、モブルーキープレイヤーも解る。
新たな熱風が戦場に舞い上がる――。
小回りの効いた時間の流れにそって、力と力の、狭間の狭間の間に割って入る。
ゆっくり、確実に、一歩ずつと……。
この茶番劇には、勇気ある数秒すらいらない。
「来ちゃった、久しぶり、姫ちゃん、咲ちゃん……!」
ずっしりと重い2つの力を、まるで何も無いかのように――。
「な!?」
「は!?」
その実、その名の通り、世界を震撼させる一撃を受け止めた。
その少女には、あらゆる攻撃が効かなかった、世界に愛されているのも勿論だが。ソレだけではない、まるで撫でるようにスルリと入ってきて。
――全力には全力を。
――全霊には全霊を。
反転も逆因果律も、そういう小細工は使わない。
――ただ、見せつけた。
――実力を持って見せつけた。
「不完全燃焼は重々承知、皆の意志も重々承知、それでも、私は、私の意志で止めに来た。ナゼだか解る?」
微動だにしない2つの力を、オーバーリミッツは軽々と静止させる。
「――!」
「――!」
建設的な世界は、小物の戯言では揺らがない。
オーバーリミッツは、桃花と戦空に「ここは任せて?」と、自然な合図を送り、お互い頷いた。
口火を切ったのは、やはり、ラスボス姫だった。
「離せ! これは私の悲願だ! 私が最後に戦って、私が最後に負ける! そのためだけに! そのためだけに生きて来た! それこそ人生を賭してだ! 私の生涯を賭けてだ! この崇高な大義に対して、お前が水を指すのか!? オーバーリミッツ!?」
それは懇願。姫の内に秘めた、どうしようもないくらいドスぐらい真っ暗な心を、さもこれは私の希望だ・光だ・生きる道標だとばかりに高らかに歌う。
「まあ、神と名の付く、同類としては、共感するよ? 同意も出来るよ? ……、でもまあ、色んな理由をくっつけて止めたい気持ちはあるんだけどさ、何かこう、気持ちよくないからやっぱり止める」
つまるところ、それは気分、気分転換になっていないからダメ出しされた。
「なんじゃよソレ……なんじゃよソレ!? 世界はお前の心持ちで決まるってか! 図に乗るなよチビ!! ふざけるな!!」
罵詈雑言を言うが、それは虚空へと消える。誰の耳にも心にも、届いたとしても響かない。
「……何て言うかさ、咲ちゃんの気持ちになってみなよ。ラスボスの神さま。咲ちゃん、全然面白く無さそうだよ? つまんないってさ、顔が言ってる」
全てを見透かす、否、相手の心を見透かす目でもって。咲が本当に心の底から楽しんでいるかは、彼女にとっては見て取れた。エンジョイしていない。
結果、心が踊っていないと判定する。
「!?」
咲はそんな顔をしているのか、自分では解らなかった……。
ペタペタと赤ちゃんのように自分の顔を触る……。
外見上はラスボスに挑む勇者を演じても、心は晴れていなかった。しょせん演技は演技だ、本物じゃない。
「まだ速い。もっと世界を旅して、もっと世界を理解して、もっと苦楽を共にしてからじゃないと。私は、このエンディングを認めません! メ!」
まるで子供をあやしつける母親のソレだった。
全力と全霊で持っても、まだこのオーバーリミッツには届かないのか……、一体、何を持って、何を武装して、この頂点に挑めば良いのかわからなくなる。家族の善神と自由の悪神……は、心の刃を鞘に収めた……。
誰かが言った。
「止まった……のか?」
「まるで時間が止まったようだ……」
「終わった……? え、終わり?」
「まだ暴れたりない……」
「今のうちに治療を! 治療を!!」
本当に今のうち、本当に今のうちだ、災害級の衝撃波をモロに受けた天変地異は悲鳴をあげている。
「咲ちゃん、何か言い残すことはない?」
リミッツは言って、優しく投げかける。
「……、しばらく身の振り方を考える……」
それは何処へ向けての言葉なのか、誰へ向けての言葉なのか、……ただ自分の力の覚醒を自覚した者の動揺だった……。
オーバーリミッツはしっかりと理解者として、コクリとうなずく。
誰かが音頭をとらないと終わらない。
オーバーリミッツは、右腕拳をグッと天高く掲げて、宣言する。
『全ての森羅万象! 生きとし生けるもの達へ告げる!』
『戦争は、終わりです!!!!』
これにて、第3次姉妹喧嘩は、終局へと、緩やかに船の真帆を上げ、舵をきったのだった……。
豆知識
名前◇オーバーリミッツ
分類◇本物の姫様_ギルド『非理法権天』_生ける伝説
解説◇このゲーム内でのゲームプレイにはそれほど関心はないが。ゲームの外側で起こっている天変地異に関して、無視出来ない度を超えた事象を目視で確認し、認識したからこその今回の乱入事件となった。便宜上、善神と悪神を2人同時に全盛期で元気な状態で止められるのは、彼女とレジェンドマンぐらいだろう。勿論、湘南桃花はただの人間なのでそんな力は持ち合わせていないので、姉妹喧嘩は止められない。




