第561話「第3次姉妹喧嘩2037◆2」
「まー折角の第3次姉妹喧嘩だ、無粋なシナリオなんて絵描けねーよなぁ? 絵描けねえよ。ここは一つさあ、建前じゃなくて本音を言ってくれんかのう、叫んでほしいんじゃ。我が妹よ」
あー、この流れ本気のヤツだ。と一瞬で感じ取る妹咲。
誰かに言われたときも叫んだな、その叫んだ言葉が心に染みるんだよな、と思い出す咲……。
「ん~、この時の戦闘曲はそう……〈ピースサイン〉が良さそうじゃな、BGMをコルのは知ってるじゃろ?」
それは、姫が姫自身を呼応する・鼓舞するように軽快な音楽が流れ始めた。楽しいけど何処か悲しい……そんなBGM。
決して最終決戦で流れるような曲じゃない、「また会おう」という意味さえ読み取れる爽やかロックな曲調だった。ラスボス用の重々しく神々しい物ではない。
青春を懸命に生きて行きて往きて来た人生讃歌を歌う曲だった。
戦闘曲ではない。なのにコレが最終決戦の戦闘曲……。
「BGMの意味は、解るかな?」
「ん~何となく、私の心に触れたいって気持ちが全面に出てる」
音楽が聞こえる、歌が響く、戦いが始まる。
「じゃあ私のターン、行くよ!」
「よーし! 来い! どんと来い!!」
そして……、
咲は大きく息を吸って、
……大音量で歌い出した。
「何で私が主人公なんだよ! もっと適任居ただろ!? 戦空くんとか桃花先生とか! レジェンドマンとか! なのに何で私ばっかに固執するんだ! 覇気が最強なら桃花や戦空だろ! 何で私を絵描くんだよ! 違うだろ!? 私じゃないし、私でないし、私なわけない! 皆判かってるし皆知ってるし皆皆皆! なのに! 何で私なんだよ! この大事な時期に何で私のために神様は私を愛してくれるんだだ! 愛してくれたいんだ! 何でかかんでか何で一緒なんだよ!! 違うだろ! お姉ちゃんが倒されたいのは戦空くんなのに何で私なんだよ! 違うだろ! なのに……何で……何で……ッツ!!!!」
一呼吸の涙とともに、人間は神様を拒絶する。
「何で私を愛してくれたんだ!!!!」
間、間、間……。
やがて、やがて、やがて……。
それじゃあ、私のターンだな。
と、世界全体全能全王神は告げる。
いや、歌い叫ぶ。
「何でだろうな? 何でかな、きっとそれは、お前の名前が花とか咲とか人気とか、運とか、タイミングとかそういうのも確かに有るんだろうけど……それじゃあ多分続かない。労力割いて、人生無駄にして、お金無駄遣いしてまでお前の冒険がみたかったんじゃないかな? 何でかな、何でかな、何でかな。どこまでも気まぐれで、どこまでも予測不可能で、どこまでも何も決められないで、他人に振り回されても、私に神に世界に振り回されても、それでも我武者羅に私の世界を冒険したいって、この世界はこのゲームはこの物語は。本気で面白くなるって信じてくれたから、だから私は咲に面白いものを提供したい、与えたい、あげたい、期待に答えたい、頑張りたい。……てなったんじゃないかな?」
「……」
「……」
それは、罵声や罵りではなくて、悟ったように、落ち着いた歌声だった。
何でこんなに怒ってる歌に、優しく撫でるように歌い返してくれるのだろう。
返す言葉がないとはこの事だった。
戦いにくくなった、煽って罵って罵声を浴びせて畳み掛けるように挑発して、怒ってイラついて飛びかかれたほうが、殴りかかれたほうがよかった。
なのに何で、この神様は、聖性と悟性の体質で持ってやり返してきた?
一本取られた、もっと馬鹿騒ぎが始まるかと思ったら神様の本音が聞けて。
建前取っ払った、本音が聞けて、エンターテイメントとか表舞台の綺麗な演技じゃなくて、ただの告白が聞けてしまった。
神託、そう、神様の言葉だった。
でも、だからこそ、とも咲は思う。
「でも、ラスボスとして倒されたいのは戦空でしょ?」
当たり前の疑問。
「戦空は人気が無いのか、未熟なのか、それはわからない。一つ判ることはそれは過去の事で、過去は過去だってことだ。わしの望みと、適任者は違う」
戦空は不適合者だったということ?
桃花は不適合者だったということ?
レジェンドマンは不適合者だったということ?
爆発しかけた怒号の雄叫びは、粛々と鎮火され辺りには染み渡った瑞々しい優しい聖水だけが残っていた。
「前説はいいか? 戦闘、始めるぞ、面白いゲーム、魅せてやる!」
あぁ、
それでこそエレワーだ。
これでこそエレワーだ。
こうだからエレワーだ。
「想像を超えろ、想像できる全力で、でなきゃ相手に失礼だ……!」
そこに居たのは、いつもの姫や姉や社長や神様ではない……、
紛れもなく、今この時この瞬間この時だけは、
この世界の、ゲームマスターだった。
豆知識
名前◇ゲームマスター。
分類◇運営_進行役_指揮者。
解説◇エンターテイナーとしての実力を、否が応にも人々に解らせた。




