第557話「地図師レベル1のサキ」
走るゾンビのうめき声が聞こえる。
「うおあー!」「ぐおわー!」「はうあー!」「ひしゃー!」「はいえー!」
「うりゃりゃりゃりゃりゃ! 風遁螺旋手裏剣だぁーーーー!!!!」
ドワアー!!!! っと突風とカマイタチが吹き荒れる。姫忍者の新しい必殺技だ。
《魔法剣士レベル101のサキが、地図師レベル1のサキにジョブチェンジしました。》
そんな中、サキは走るゾンビを尻目に、ツヨツヨ職業から、ヨワヨワ職業へ切り替える……。
「さて、測量測量っと……えーっと何々? 説明聞かなきゃね」
《地図師とは。自分がいる位置から東西南北の情景、情報を書き込んで戦場や戦況をより有利に運ぶ事が出来る職業です。東西南北の情報を記入欄へ書き込み、ギルド会館へ届けるのが任務です、ギルドへ届け終わったら経験値が得られ、レベルが上がります。》
「げえ~、一方向の物と距離だけじゃダメなの~? めんど~~~~い!」
「そんな事言ってないでさっさとやれ! 走るゾンビの足止めって結構キツイんだぞ!? おりゃ手裏剣! シュシュシュシュシュ!!!!」
仕方なく、サキは。苦手な四方、東西南北の情景をステータスバーに、キーボード形式で記入してゆく……。
「えっと、まず港がある南側から行くか……」
流石に東西南北が解らないと洒落になってないのでコンパスを手に取る……。
〈南側、第4の街『英霊街フェイト』があり、港がある。〉
〈北側、走るゾンビがウヨウヨこっちに走ってくる!〉
〈東側、砂浜・砂辺が漂っている。〉
〈西側、冒険者達が戦っている。〉
この段階でサキはOKボタンを押した。しかし、ステータスバーは拒否反応を示した。
《ブー! 文字数が足りません! 一方位100文字以上書き込んでください!》
「えー!? それって四方位合わせて400文字以上の情報を書かないといけないのお~!?」
どうやらサキは、情景描写が苦手らしい。つまり基本的に地理が苦手。もしかしたら会話劇にしか興味がないのかもしれない。
姫はゾンビと戦いながらツッコミを入れる。
「そんな一言二言をギルドに報告したって、戦況は有利にはならないだろー!? 頑張れ! がんばれ!」
「うえーん! 作文や戦闘より辛いー!!!!」
再び、キーボードを叩くサキ。
〈南側。第4の街『英霊街フェイト』があり、港がある。街なかに十数匹の走るゾンビが突破口を抜けて走って攻撃してる所を冒険者に討たれた。酒場で火事が発生、消火活動も冒険者がしている、魔法使いが必死に遠距離からまるで天矢のように数千の魔法を遠矢のように発射して、北側へ向かって攻撃している。〉
〈北側。走るゾンビがウヨウヨこっちに走ってくる! 屈強な冒険者達が防波堤を作り、走るゾンビの流れをせき止めている。おそらく冒険者ランクBから上の冒険者しか居ない、道は下り坂、上の坂から下へ向かって真っ直ぐにゾンビたちが勢いよく走ってくる。〉
〈東側。砂浜・砂辺が漂っている。こっちは平和というより崖、斜面90度、避難民がそちらの方へ逃げ流れている。Bランク以下の冒険者達が避難や治療、海へ逃げたりと大忙しである。このゾンビは海の上を走って追って来るので、被害はヤバイかもしれない。〉
〈西側。冒険者達が戦っている。冒険者達がログインするポイント地点がココ、なので反対側の東側が手薄なようだ、血気盛んな冒険者はログインしてすぐ眼の前の走るゾンビに目を奪われて、この指とまれで向かって行ってしまう……!〉
地形や土地の情景より、とりあえず冒険者について目が行ってしまう描写になってしまっている、地図師なのに……とは言え、情報と条件は整った。
「あとは街の仲間で戻ってギルド会館へ情報提供だね!」
とりあえず地図師レベル1だし、この辺で一旦引き上げるか。と指示するヒメ。
「よし、じゃあ街へ戻るぞ! イベント中だから走って戻るぞ!」
「はいー! ちゃんと守ってねー!?」
ジョブチェンジは出来ず、地図師のままギルド会館まで戻らないと行けないらしい。
兎に角、サキは脱兎のごとく街へ走った。
ギルド会館へ戻って早速ギルドの受付嬢に地図師として情報を渡すサキ。
《地図師レベルが2に上がった!》
《文字数を一方位150文字以上から300文字以下まで書き込んで、報告出来るようになりました!》
「ひえー!? 文字数が増えてるー!?」
地図師のハードルが、また1段上がってしまった。
《報告判定E! 下手だなぁ、サキちゃん。情景描写の仕方が、下手……! 人ばっかり描写してる!》
「何で受付嬢の口調がハンチョウなんだよ!?」
思わずツッコまずにはいられなかった地図師サキ。
《地図師クエスト進行! 第2クエスト! 手薄になっている、『英霊街フェイト』の東側を、更に東西南北で描写せよ!》
「よーし次はこのまま東だ! 行くぞ妹よ!」
「ひえーコレまだ続くのー!?」
自分は戦えずただ情報を伝え走るだけの職業にヒーヒー言うサキだった。




