第551話「必要な力2000」
マルチバース018、西暦2023年、現実世界、湘南桃花の自宅。
眼の前にはVRヘッドセットを外した桃花と、無理やりアストラル体として霊体で話しかけてきた37年姫と37年咲がいる……。
2023年、今この時代に、2~3歳の咲&姫と、15~16歳の咲かっこ実体&姫かっこ霊体が同時に存在している……。
「もうダメだ、わけが解らない……」
ガックシ、と項垂れる湘南桃花、ちょうどorzのポーズをしている。
もう万策尽きた瞬間のような、青ざめた表情と顔色だった。
片方が霊体でもう片方が肉体を持って顕現しているなら、もういいや、と37年姫も肉体を2037年から持ってきて顕現する。
「どうかな、1人だともう詰んだって事じゃろ?」
姫が呼応するように、次に咲が確信を持った台詞を言う。
「まだ仲間がいる」
「え……? 仲間……」
桃花はもう1度聞いたその台詞を反芻する。
「折角のタイムトラベルだ、なら2000年に居る日曜双矢に会いに行ってみたらどうじゃ?」
「彼の力が必要だよ、何をやってくれるかは知らないけどさ」
西暦2000年は、初代エレメンタルマスター誕生の年だ。
何故そこが重要で、何故そこが必要かは、23年桃花には解らない、桃花は1987年生まれ、現在36歳。23年前だから、桃花先生は13歳の頃だ。
勿論、咲も姫も産まれていない。
「だから、任せて、頼って、委ねてみるのが良いんじゃないかな?」
もはやVRゲームの事などお構いなしのこの物語に、新たな光を見出すのか。
それとも、さらなる混沌とカオスを撒き散らすかは解らない。それでも、もう頼るしかないのだ。
これは眠っている世界の物語ではない、現実世界の、目覚めの物語なのだ。
「じゃあ行く前に確認するよ? 現実世界2023年。私は記憶を所持したまま13歳に若返る。37年咲と姫はタイムパラドックスで2023年に来て、更に2000年にタイムパラドックスをする、オーケー? 何が起こるか私でも解らないよ?」
「いつでもいいのじゃ!」
「私は黒の剣士さんを信じる、ううん。信じてみたい」
「すー……。どうなっても知らんぞ」
「んじゃ3!」
「2ー!」
「1ー!」
「今ぁー!!!!」
ギュン! と、3人の女子は量子のようにその場から消えた……。
◆
マルチバース018、西暦2000年11月10日、日本国、湘南、平塚駅。
「バスだ……」
「電車だねー」
「飛行機も一応飛んでるよ」
23年桃花と37年咲と37年姫は途方に暮れる……。
もうお手上げだった。ここから先は出たとこ勝負、計画性ゼロ。というか何をすれば良いのかもうさっぱり解らない、解ることは。バス停でバスを待っている、日曜双矢の姿だけだった――。
00年双矢がそこに居た……。




