第541話「四獣王ミラーライオン⑤」
戦闘開始から5時間が経過していた。
『ほほう、我のスピードと体力に付いてこれるとは、人間にしては上等な部類じゃじゃないか!』
「そりゃあどうも! 素早さだけが取り柄なんでね!」
加速世界で、通常の3倍速く2人は走り回っていた。森の中を縦横無尽に。
しかし、5時間あっても有効打を与えられずにいた。理由は明確、攻撃の〈反射〉だ、攻撃してもそのスキルが反射されて自分に帰ってくる。
咲は何か打開策を考えようとするが、本当にいい案が浮かばなかった。
「どうしよう、お姉ちゃんあの鏡……本当に厄介だよ……」
姫とて、打開策はない訳では無いが。〈攻撃が強すぎて跳ね返せない〉という裏技は使いたくなかった。
簡単に言うと、防御力が高すぎて攻撃が全く通らない。
心も使っているが、相手も心を使うので、それはそれとして反射してしまう。
「あと関係ない話なんだけどさ……」
「ん、何じゃこんな時にいい案か?」
「あのモンスター、テイムして良いかな?」
「……、は?」
仮にも四獣王と呼ばれるエンドコンテンツボスモンスターをテイムしたいとか言い始めた妹咲、姉姫は困惑する。
「そりゃあ、こんだけ頼もしいと仲間になったら大幅戦力アップじゃが……」
「鳩サブレとかあげたら仲間になってくれないかな?」
「それどんなモンスタースリープなのじゃ?」
「スリープ……、そうだ! 物理スキルが全く効かないんだったら、変化スキルを使えば良いんじゃないかな? 催眠術で眠らせるとか」
咲の話に若干硬直する姫だったが。
「……ん、相手のスキルを反射する、マジックミラー的存在で、反射されない変化技か……ちょい調べる」
と言って、姫はステータスバーを開き、変化技で反射されない変化技で何か良いのが無いか探る……。
もちろん今はゲーム中、神意権能は使わずに倒すのがマナーだ。
「簡単に言うと、〈型破り〉の特性があるスキルや心なら跳ね返せないっぽい、ちなみに、催眠術のスキルを仮に持ってたとしても跳ね返されるぞい」
「型破り、少なくとも心の修行はまだ基礎段階だから型破りは難しそうだね」
「じゃな、スキルで何とかするしかない。今はグリゴロスが相打ちで持ち堪えているが……。やっぱり方法は1つしか無いんじゃないかな?」
「1つって? 何か心当たりがあるの?」
言って、姫が答えを出して言う。
「鏡に映らない」
「え?!」
「あのライオンのタテガミは、鏡に反射して写った物体と同等の攻撃力になるという特性がある、しかもリアルタイムでも有効だ。となると、リアルタイムで虚無ってれば良いのじゃ、簡単に言うと、ゴーストとかエスパーとか、鏡を翳しても何も映らないじゃろ? それこそ、英霊とか、目に見えない概念系統の攻撃は有効だって話になるじゃん?」
「知ってたならなぜそれを先に言わなかった!?」
「いや~、打開策有るかな~と思ったが、5時間考えてもやっぱ無理だったので奥の手を……ね?」
姫は言って、咲に攻撃方法を委ねる。
「わかった! やってみる! あと桃花先生からもらったスキル試して良い? エボリューションW」
「いいぞい、許可する」
「よっしゃー! じゃあやるぞー! 溢れ出る魔力よ! 限界を超える! ハアァー! エボリューションW」
――瞬間、四獣王ミラーライオンは戦いた。
『この気迫は……オオ! 待っておったぞ、これぞ強者の気迫』
《エボリューションWが発動しました!! これより環境が変化します!》
咲の姿形は、見た目的には何も変わっていなかった。だが、変わったのは情報量だ。その意味をこれからミラーライオンは目撃することとなる。
「さあ! お前を倒す算段はついたよ! ミラーライオン!」
その見た目の情報量に気がつくのはもう少し先だが、その片鱗を味わい始めるミラーライオン、果たしてコレを反射できるだけの猛者かなライオンくんは? と言った威風堂々なWの凱旋である。
そして理解する。
『ほほお! それがお前の新しい力か! 心が踊るではないか!』
「お? 解って来たね? 私も今理解した、これは前の極黒や極白とは一切違う! 純粋な情報の暴力だよ!」
ただただ遊びたい、今を懸命に生きたい、この一瞬に全てを賭ける、そんな見るもの全ての目線を食い尽くす事を目的として情報の暴力だった。
当然、ミラーライオンの目線も釘付けである。
「さて、余興は終わりだ! 次のターンで決着をつけるよ!」
咲は、このWと共に、フィニッシュへの構えを、剣を取って構えるのだった。




